第十一話 第十夜 シンデレラとガラスの靴
王子様のキスつながりで次の夜は眠り姫の話をした。王様にとってはキスで目を覚ます、と言うのが腑に落ちないようだが百年の眠りの後に目覚めるという話は気に入ったようだ。
そういうわけで白雪姫、眠り姫ときたらシンデレラでしょう。今夜はシンデレラの話をすることにした。それにしてもあたしでも結構知ってる話あるもんだな。本で読んだ記憶なんてないけど。おかげで十日生き延びてる。
‟今日のお話に王子様のキスは無いので安心してください”
昔々ある所にシンデレラというたいそう美しい娘がおりました。シンデレラには意地悪な継母と姉が二人いて彼女を召使のように扱っていました。ある日お城で開かれる舞踏会に国中の若い娘が招待されましたがお母さんとお姉さんたちはシンデレラを置いて自分達だけで言ってしまいました。一人残ったシンデレラのもとに優しい魔女が現れます。
‟面白い!野菜が乗り物になったりネズミが従者になったりするのか。昨日の眠り姫もそうだが良い魔女というのがいるのだな”
“そうですね。眠り姫には両方出てきますね。結局普通の人間と同じで良い魔女、悪い魔女がいるんですね”
きれいなドレスを着たシンデレラは王子様と楽しい時間を過ごしますが十二時になると魔法が解けてしまう。鐘の音を聞き慌ててシンデレラが逃げ出し、途中でガラスの靴を落とすくだりでは王様は思わず身を乗り出してきた。
家に戻り元の汚い姿で家の掃除をしているシンデレラ。そこにお城から使いが来ます。
‟国中の娘にガラスの靴を履かせ、舞踏会の夜の王子様に出会った娘を見つけ出す”
それを聞き意地悪で見栄っ張りなお姉さんたちは試しますが足がでかすぎてガラスの靴から足がはみ出してしまいます。そしてとうとうシンデレラの番。彼女の足にぴったりと靴がはまりました。
‟ガラスでできた靴など履き心地が悪そうだな”
‟全く同感です。あたしも見たことはないですけど、靴ズレしそう。そんな靴を履いてダンスなんて考えられない”
‟ダンス?”
えーとこの国のダンスは…ベリーダンス?
‟社交ダンスだと思います。男の人と女の人が手を取り合って”
あたしも踊れないいですけど、と王様の手を取ってぶらぶら揺らしてみる。
“これが楽しいのか”
“ちょっと立ってください”
王様と向き合って片手を自分の腰に置き、互いの手を合わせる。ふと見上げると思いのほか顔が近い。
げ、イケメン近すぎ。しかも王様の顔は濃くて迫力が半端ない。
‟上手く踊れればきっと楽しいですよ。王様だったらきっと女の子達が一緒に踊りたがって喧嘩しそう”
‟俺は王だからな”
少しふんぞり返ってフン、と鼻を鳴らす。
“ふふ、何言ってんですか。違いますよ。王様がイケメンで素敵だから”
そう言うとシャフリヤールが少し赤くなった。それを見て輝も赤くなる。
いつも偉そうなのに何でここで赤くなるのよ。こっちまで恥ずかしくなるじゃん。
手を放してベッドに座る。
‟そ、そういうわけでお城に迎えられたシンデレラは王子様と結婚していつまでも幸せに暮らしましたとさ”
“また永遠の愛か”
顔をしかめた王様は、その後
“だがこの話は好きだぞ。先の王子はたまたま姫を見つけたが、この王子はシンデレラを探しに行くところが良い”
‟へぇ、王様は結構押していくのがいいんだ”
‟そうだな。好ましい女を迎えに行くのは誇らしい気持ちだと思うぞ”
‟王様はだったらいくらでもできるでしょう。どんな女の人でも王様のところには喜んでくると思うけど”
‟だが、我は待っているしかできない。たいていの女は来るかもしれないが我が愛した女が来てくれるとは限らない。そして時には気に入らない女でもめとらなければならない時もある”
何となくさみしそうな口調で言った。
そういうものか
王様にも事情っていうのがあるんだな。
どうしてもこの時代?この国?の王様のハーレムっていうのが理解できない。日本でも大奥っていうのがあるから偉い人はそういうのが当たり前なのかもしれないけど、それにしてもあたしはだめだわー。




