第十話 第八夜 白雪姫と約束
うっかりしてたけど、あたしでも知ってる話ってあるわ。
“と言うことで今日は白雪姫の話をしましょう”
そう、誰もが知ってる白雪姫。日本昔話の次は世界昔話。
‟白雪姫?”
‟そうです。雪のように色白で美しいので白雪姫と呼ばれるお姫様です”
“…お妃さまよりも誰よりも美しいのは白雪姫。鏡にそう言われて王妃様は激怒します。家来に白雪姫を森につれていき殺すように命令します。家来は結局殺せないんですけどね”
‟その魔法の鏡はいったい何の役にたっているのだ。王妃の嫉妬を煽っているだけではないか”
‟まー確かにそうですよね。王妃様はとてもきれいな人だったから彼女よりきれいなのは白雪姫だった言う話だけど、これがあたしだったら数えきれないくらいの人の名前を教えなきゃいけないくなっちゃう”
殺す人の名前のリストを作ってるうちに年取って死んじゃう。そう言ってクスクス笑っていると
‟お前はどうして自分の事をそんな風に言うのだ”
と珍しく眉を下げてあたしの頭をポンポン、とした。
‟言ったであろう?お前は美しいと。もっと自分に自信を持て”
その言葉に驚く。いや、美しいなんて言われてませんけど。確か醜くはないと言われた気はするけど。でも王様のその言葉に居心地が悪くなり、無視して話を続ける。
‟…白雪姫は七人の小人たちと仲良く森で暮らしてました。でもある日王妃様が鏡に尋ねると、鏡はまた白雪姫が一番美しいと答えます。死んだと思っていたのに!そして魔女に姿を変えて毒リンゴを作り、白雪姫はその毒リンゴを食べて倒れてしまいました”
‟殺されそうになり森に捨てられた割に警戒心の無い姫だな”
バカじゃないのか、という王に
‟お姫様とはそういうもんなんじゃないですか、箱入りだから。とにかく帰ってきた七人の小人たちはとても悲しみました。白雪姫を土に埋めてしまう気にならなくてガラスでできた箱に入れて大切に守っていたのです”
‟死体をか?”
‟しっ!不思議なことに白雪姫の体はまるで眠っているようにいつまでもきれいなままでした”
しっ!と言われて眉をひそめながらもシャフリヤールは口を閉じた。
‟そして長い時が過ぎました。ある日、ある国の王子様がガラスの箱を見つけます。おお!なんと美しいのだろう、そう言って口づけをします。するとあら不思議、白雪姫はぱっちりと目を覚ましたのです”
“なぜだ?”
‟世界共通のお約束です。白馬に載った王子様、その口付けで目覚めるお姫様、永遠の愛。憧れです”
輝は両手を握り、空を見つめて目をぱちぱちさせる。
今どきそんな夢を見る女の子なんて小学生でもいないだろうけど、こうやって話しているとそういう気分になってくる。
それを胡散臭そうに眺めるシャフリール。
‟永遠の愛などあるものか”
あ、また地雷?
‟夢見るくらいいいでしょ?毎日女をとっかえひっかえしてるよりずっといいと思うけど”
“なんだと?”
おっと、怒らせてどうする。
“いえいえ、とにかく王子様のキスで目を覚ますのは定番なんです”
あたしだったら目が覚めた時に知らない男にキスされてたらかなり引くと思うけど。てゆーか気持ち悪い。
‟ところで、白雪暇が生き返ったら鏡がまた王妃に教えてしまうのではないか?”
“あーグッドポイント。たしか続きがあったと思うんだけど、思い出せません”
うーん、と考え込んでいると
“だが、雪と言うものは見てみたい。北の方や高地に行けば降ると言うが我はまだ見たことがない”
気持ちを切り替えたようにシャフリールがいう。
“あたしも実家が東京だから雪は珍しいけど、日本ではあちこちに降ります。前にスキー場に行ったとき一面の雪景色はきれいだったな―”
‟美しいか”
‟美しいですね”
‟見てみたいものだ”
‟王様だったらいつか見られるんじゃないですか?”
輝の言葉にシャフリヤールは返事をせずに逆に聞いてきた。
‟ザキーラ、お前には見てみたいものがあるか”
‟そうですねー月の砂漠とか?せっかくアラビアンナイトにいるんだから”
‟そうか、今度見せてやってもいいぞ”
“ほんとですか?”
“ああ、お前が我に雪を見せてくれるのならばな”
“あたしが?”
どう考えても無理だろう。
でも。
“わかりました”
と約束したくなったのだ。
ここで指切りげんまんを教えて、また小指を繋げたまま眠りについた。




