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【書籍化】白い結婚、最高です。  作者: 火野村志紀


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68/82

68.対峙

「ユリウス様、こちらはロートリアス家ではないのですか?」


 後ろから聞こえた声に振り向く。そこには馬に乗ったマリーと、何故か青ざめた表情で彼女にしがみつくミルティーユの姿があった。


「こ、このメイド、馬のスピード出しすぎなんだけど……!」

「文句ならば、ユリウス様に仰ってください。私も追いかけるのに必死だったのです」


 マリーは何食わぬ顔で、主人に責任転嫁した。


「マリー……ミルティーユはともかく、どうして君も来たんだ。これは私の問題なのに」

「いいえ。ユリウス様お一人では不安ですので、私もご同行させていただきます」

「そうよそうよ。あんた、私が来るまで萎びた植物みたいになってたくせに!」


 どちらの言葉も図星である。ユリウスは何も反論出来ず、ぐっと息を詰まらせた。


「ねぇ、そんなことよりもロートリアス家ってアニスの実家よね? だけど、ここにも帰って来ていないって話じゃなかった?」

「ああ。そのはずだが……」

「ちょっと、馬! アニスは本当にここにいるんでしょうね!?」


 マリーの後ろから地面に降り立ったミルティーユが、白馬に詰め寄る。


「ブルァァァッ」


 白馬は「俺を信用していないんか、ワレ」とばかりに、歯茎剥き出しで威嚇した。ミルティーユが「キャー」と悲鳴を上げながら後ずさる。

 その様子を呆れ気味に傍観していたユリウスは、ふと何者かの視線を感じた。

 周囲を見渡すと、玄関付近にいたメイドがこちらをじっと見ていた。ユリウスと目が合った途端、お辞儀をすることもなく慌てて屋敷に戻って行く。

 何かを隠しているのだろうか……?

 メイドの様子に、ユリウスは違和感を覚えた。


「如何しますか、ユリウス様」

「……ロートリアス男爵と話がしたい。ひょっとしたら、何か手がかりを掴んでいるかもしれないからな」


 ロートリアス邸を見上げながら、ユリウスはそう言った。




 ロートリアス家の使用人たちは、突然の訪問客にひどく狼狽していた。

 ユリウスたちを応接間まで案内すると、「少々お待ちくださいませ」と出て行ったきり、戻って来る気配がない。

 こっちから会いに行ってやると息巻くミルティーユを制止していると、ようやくロートリアス男爵夫妻がやって来た。


「ようこそお越しくださいました、オラリア公」


 笑顔で握手を求めて来たロートリアス男爵に、ユリウスは素直に応じた。

 夫人は恭しく頭を下げた。その後頭部には赤い宝石のバレッタを着けており、窓から差し込む陽光を反射してキラリと光りを放つ。

 だが夫人は頭を上げた直後に目を大きく見開くと、バレッタを素早く外してドレスのポケットにしまった。

 隣でそれを見たロートリアス男爵も、僅かに強張った顔をしている。


「はは……さて、本日はどういったご用件でしょうか」

「ねえ。アニスは、本当にここにも帰ってきていないのかしら?」


 単刀直入に切り出したのはミルティーユだった。

 ロートリアス男爵は、その問いかけに首を縦に振った。


「はい……まったく、あの馬鹿娘め。どこをほっつき歩いているのやら」


 溜め息混じりに言うロートリアス男爵に、ユリウスはぴくりと眉を動かした。


「彼女は、何者かに誘拐された可能性もある。自分から姿を消したと決めつけるのは、まだ早いと思うのだが」

「……それもそうですな。いや、私ども夫婦もアニスのことはとても心配しているのです」

「ええ。早く見付かるといいのだけれど」


 頬に手を添えつつ、夫人が悲しそうに言う。

 とんだ三文芝居だな。ユリウスは冷ややかな視線をロートリアス男爵夫妻に向けた。ユリウスに咎められたから、アニスを心配する振りをしているようにしか見えない。


「さて……大変申し訳ないのですが、そろそろお帰りいただけないでしょうか? 実はこの後、私も妻も大事な用事があるのです」

「……ああ。本日は突然押しかけて来てすまなかったな」

「いえいえ。アニスのことで何か分かりましたら、すぐに教えてください」


 媚びるような笑みを浮かべるロートリアス男爵に、ユリウスは「約束しよう」と頷いた。


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