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【書籍化】白い結婚、最高です。  作者: 火野村志紀
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62.復帰

 次の日も念のためにゆっくりと体を休めた。一度下がった熱はぶり返すこともなかったので、翌日から仕事に復帰することが出来た。

 しかし私が真っ先に向かった先は、ユリウスの執務室。

 決心が揺るがないうちに、謝ろうと思うのだ。そして以前のように、また楽しく会話がしたい。

 勇気を出しなさい、私……

 何度も深呼吸してから、ドアをコンコンと小さくノックする。


「ん……?」


 ユリウスからの反応がない。

 音が小さくて聞こえなかったのかなと、今度は強めに叩いてみても、やはり結果は同じだった。

 もしかしたら、今日はまだ寝ているのかもしれない。

 一旦引き返そうとすると、ちょうど通りかかったメイドから、ユリウスは早朝から外出していると教えられた。

 私の噂について記事を纏めた新聞社に、抗議に向かったらしい。記事の内容は全て事実無根だとして。

 ちなみに、エシュット公爵も同行したとのこと。

 エシュットの名に、私はミルティーユのことを思い出して憂鬱な気持ちになる。

 父親に雷を落とされたのか、最近は屋敷を訪れることがなくなったけれど、また押しかけて来るようになったらどうしよう。

 ユリウスを諦めたと、彼女の口からまだ聞いていないのだから。



 厨房に顔を見せると、トマトの皮の湯剥きをしていたポワールが「フレイ、おかえり~」と声をかけてきた。


「ポワールさん、私を屋敷まで運んでくださってありがとうございました」

「そんなお礼なんていいよぉ~。フレイには、いっつもお菓子もらってるし」


 軽い口調で言うポワール。

 しかし彼女の目は、何かを求めるように私をまっすぐ見詰める。

 その姿はまるで、餌を早く出してくれと無言の圧力をかけてくる仔犬のようで……


「……お菓子、どういうのが食べたいですか?」

「フレイが作ってくれるなら、何でもいいよ!」


 元気な声で答えが返って来た。

 ふむ、何でもいいとな。


「でしたら、フロランタンなんて如何ですか?」


 フロランタンとはクッキーとかサブレ生地の上に、スライスしたアーモンドを載せたお菓子。表面はカリカリ、生地はサクサク。キャラメリゼしたアーモンドが少しほろ苦くて、とっても美味しいのだ。

 ポワールも「食べたい! 食べたい!」と、はしゃいでいる。

 多めに作る予定だけど、ユリウスも喜んでくれるかな。

 私は早速、アーモンドを買いに街へ行くことにした。




 アーモンドだけを買うはずが、ナッツ屋の店主に勧められて、他のナッツも買ってしまった。

 だって、お菓子の材料にぴったりなんて言われたら、気になる。

 とりあえず、蜂蜜漬けにしてしまおうかなと考えながら帰路に就く。


「……?」


 屋敷まであと少しというところで、一台の馬車が私の横にピタリと並んだ。

 危うく接触しそうになって、慌てて距離を取ろうとした時、馬車の扉が開いた。

 そして中にいた男に腕を掴まれ、私はそのまま中へ引き摺り込まれてしまった。

 ナッツの入った袋が地面に落ちて、中身が散乱した。


「あ、あなた、一体何を……!」

「おっと、騒ぐんじゃねぇぞ」


 ニヤニヤと笑う男が、私の喉元にナイフを突きつける。


「よし、スピードを上げろ」


 男が御者にそう指示すると、馬車は速度を上げてどこかへと走り出した。


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