表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】白い結婚、最高です。  作者: 火野村志紀
4/84

4.妹の怒り

「これは完全に私の我が儘だ。だから今言った取り決め以外のことは、何でもしよう。ロートリアス家への援助も約束する。……どうだろうか?」

「とのことだ。これは引き受けるしかないだろう。なあ、我が娘よ」


 私を見る父の目は、相変わらず笑っていない。

 なるほど。援助欲しさに、私をユリウスに売ろうとしているのか。

 母も「断るな」と無言の圧を私にかけてきていた。

 ソフィアは……目を輝かせながらユリウスを見詰めている。


 このなかで一番私の意思を尊重しようとしているのが、今日初めて会ったばかりの男という状況だった。

 私には選択肢なんて最初から存在していない。


「ユリウス様。このお話、喜んでお引き受けさせていただきます」

「……恩に着る。そしてすまない」

「いいえ。あなたの妻として、誠心誠意をもって尽くさないようにいたします」


 私が平淡な声で告げると、ユリウスは一瞬目を丸くしたかと思えば、「よろしく頼む」と言って頷いた。





 ユリウスが我が家を去ったあと、私はすぐさま自分の部屋で荷造りを始めた。

 明日、オラリア邸に移り住むことが急遽決定したからだ。

 婚約中はまだ実家にいてもいいとユリウスは言ってくれた。なのに父が、「善は急げ」と言って話を勝手に進めてしまったのだ。


 衣服をトランクに一着ずつ丁寧に詰めていく。アクセサリーや雑貨類は持っていなかったので、荷造りはすぐに終わりそうだった。

 と、誰かがノックもせずにドアを開ける。


「お姉様、今の気分はどう?」


 ソフィアだった。

 媚びるような甘える声で問いかけてくるので、私は首を傾げた。


「どうって言われても……」

「とってもイライラしてるでしょう?」

「え?」

「だって、あんなかっこいい公爵様に見初められたーって思ったら、お互い干渉しないようにって言われたのよ。悔しいでしょう?」


 ニヤニヤ笑いながら顔を覗き込まれ、私は顎に親指を当てながら少し考えてみた。

 そして首を横に振る。


「全然悔しくないよ。だって、公爵様が私を好きになるわけないでしょ?」

「……確かにそうよね。私ならともかく、お姉様を好きになるわけないもの」

「それより、早く伯爵邸に帰ってあげなよ。旦那様、ソフィアのこと待ってると思うよ」


 諭すように言いながら、荷物を詰め終わったトランクを閉じる。

 するとソフィアは、私の言葉に顔を顰めた。


「……パーティーに出なかったからユリウス様に選ばれただけで、お姉様は女としては無価値なの。なのに、この私に指図しようだなんて生意気」


 パシンッと乾いた音が部屋に響き渡る。

 ソフィアから平手打ちを受けたのは、何年振りだろう。

 驚いて目を見開く私に、ソフィアは冷たい眼差しを向けた。


「ずるいわ、お姉様。絶対に許さないんだから」


 そして刺のある声でそう言い残して、部屋から出ていく。

 私は痛む頬を押さえながら溜め息をついた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 毒親に洗脳されて可哀想に。 妹の顔面を鉄拳で思い切りぶん殴りたい。顔面崩壊、前歯全損くらいしないと腹の虫が収まらん。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ