18.王都
「マリー様がいたら、あの二人問答無用で屋敷から追い出されたんじゃないかなぁ……」
ポワールがぼそっと呟くので、賛同するように頷きながら王都を歩く。
私が仕事のために毎日通い続けた街よりも広くて、たくさんの人で賑わっていた。
なんというか、活気がある。
目いっぱい楽しみたいと思うのに、先ほどの出来事がしこりとなって私の心に残っていた。
ソフィアとハロルド……
ポワールに引き摺られるようにして屋敷から出て来てしまったが、帰ったらユリウスに謝らないと。
それにポワールのことも心配。
「……ポワールさん、大丈夫ですか?」
「うん? 何が?」
「もしかしたら、本当にマリカード家から抗議が来たら……」
ユリウスのことだ。ポワールのことをちゃんと守ってくれると思う。
しかし厄介なことにはなりそうだ。
マリカード伯爵夫妻の良心にかけたいところだけどさ。
「うーん。その時はその時かな!」
私の不安を余所に、ポワールはあっけらかんとした口調で言った。
なんちゅう肝の据わりようだ……
「それにうちって、こういう揉め事に慣れてるから大丈夫大丈夫」
「そうなんですか……?」
「それよりフレイ、何か欲しいのとかある? この王都だと何でも買えるよ~」
「何でもですか?」
「服でもアクセサリーでも本でも!」
私は腕を組みながら、小さく唸った。
自分で稼いだお金を好きに使えるのはとても嬉しい。しかし一晩考えても、その使い道が思いつかなかったのだ。
「じゃあ~何か食べたいのはある?」
いつまでも悩み続ける私を見兼ねて、ポワールがアドバイスをくれた。
食べたいもの。
その言葉に導かれるように、一つの食べ物が私の脳裏に降臨した。
あれを食べ物と表現していいものか分からない。ただ一度思い出したら、あの味が無性に恋しくなった。
よし、お金の使い道が決まったぞ。
「……ポワールさん、連れて行って欲しい店があるんですけど──」




