12.ユリウスの話②
「喰らえっ、これが俺のスリーカードだ!」
「甘いわねぇ、坊や。こっちはストレートよ」
「おっ、こりゃ姐さんの勝ちだなぁ~」
「そりゃ、姐さんに勝てる猛者なんてメイド長くらいじゃないでしょうか」
談話室に集結した使用人たち。
中に入り切れず、廊下から室内の様子を窺っている者もいる。
彼らの視線の先にあるのは、テーブルの上に並べられたトランプだった。
「よーし、三回戦は姐さんと誰だ?」
「ワシじゃよ、ワシ」
「あなた、一回戦敗退してなかったっけ?」
「まぁ、誰がかかってきても私が勝つけどね」
ふくよかな体型なメイドが、テーブルに頬肘をつきつつ勝利宣言をする。
と、次の対戦相手が彼女の向かい側の席に座った。
「私はポーカーにはあまり詳しくないんだ。どうか、お手柔らかに頼む」
ユリウスだった。
まさかの対戦カードに、談話室の空気が一気に凍りついた。
メイドの顔からは、血の気がみるみるうちに引いていく。
「ユ、ユリウス様、私の不戦敗ということにさせてください」
「主だからと言って遠慮しなくていいが」
「いや、必要のない戦いはしない主義でして……」
「言ってる意味がよく分からん」
ユリウスは眉を寄せた。
休憩時間にポーカーで盛り上がっていただけのように見えるのだが、彼らはいったい何を恐れているのか。
疑問に思っていると、メイド長の口からとんでもない言葉が飛び出した。
「彼らがやっているのは賭けポーカーです」
「……賭博は禁じているはずだが」
これはオラリア家のみならず、国全体での禁止行為だ。
声が低くなる主に使用人たちがあたふたするなか、マリーは真顔で話を続ける。
「ちなみに賭けの対象は、あちらにいらっしゃいます」
マリーの視線の先。
そこには、ソファーにちょこんと腰掛けているアニスの姿があった。
本人も状況が理解出来ていないのか、困惑の表情を浮かべながら。
「本日はフレイさんの配属先を決める予定でしたが、どいつもこいつも自分のところに欲しい! と言って聞かないのです。そこでフレイさんが『だったらポーカーで決めたらどうか』と提案したようでして。そして今に至る……というわけです」
マリーの説明を聞いて、ユリウスは頭を抱えた。
「マリー、お前がいながら何故こうなった」
「申し訳ありません。三十分ほどフレイさんから離れている間の出来事でした」
「そうか……」
ユリウスが眉間の皺を揉み解していると、アニスは申し訳なさそうに頭を下げた。
「マリー様を叱らないでください。私が悪いんです」
「君もどうしてポーカーなんて言い出したんだ」
「以前働いていた酒場では客同士の喧嘩が起きると、店長が『これで勝負をつけろ』ってトランプを渡していたらしいんです」
確かに暴力で解決するよりは、とっても平和的。
しかし、そのせいで人一人の所有権を巡ってポーカーをするという治安の悪い絵面が完成してしまった。
他の貴族には決して見せられない光景だ。オラリア家の評判が下がる。
とはいえ、てっきり使用人たちに煙たがられていると思いきや……
ユリウスは予想とは正反対の事態に、驚きを隠せなかった。
 




