表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】白い結婚、最高です。  作者: 火野村志紀
12/84

12.ユリウスの話②

「喰らえっ、これが俺のスリーカードだ!」

「甘いわねぇ、坊や。こっちはストレートよ」

「おっ、こりゃ姐さんの勝ちだなぁ~」

「そりゃ、姐さんに勝てる猛者なんてメイド長くらいじゃないでしょうか」


 談話室に集結した使用人たち。

 中に入り切れず、廊下から室内の様子を窺っている者もいる。

 彼らの視線の先にあるのは、テーブルの上に並べられたトランプだった。


「よーし、三回戦は姐さんと誰だ?」

「ワシじゃよ、ワシ」

「あなた、一回戦敗退してなかったっけ?」

「まぁ、誰がかかってきても私が勝つけどね」


 ふくよかな体型なメイドが、テーブルに頬肘をつきつつ勝利宣言をする。

 と、次の対戦相手が彼女の向かい側の席に座った。


「私はポーカーにはあまり詳しくないんだ。どうか、お手柔らかに頼む」


 ユリウスだった。

 まさかの対戦カードに、談話室の空気が一気に凍りついた。

 メイドの顔からは、血の気がみるみるうちに引いていく。


「ユ、ユリウス様、私の不戦敗ということにさせてください」

「主だからと言って遠慮しなくていいが」

「いや、必要のない戦いはしない主義でして……」

「言ってる意味がよく分からん」


 ユリウスは眉を寄せた。

 休憩時間にポーカーで盛り上がっていただけのように見えるのだが、彼らはいったい何を恐れているのか。

 疑問に思っていると、メイド長の口からとんでもない言葉が飛び出した。


「彼らがやっているのは賭けポーカーです」

「……賭博は禁じているはずだが」


 これはオラリア家のみならず、国全体での禁止行為だ。

 声が低くなる主に使用人たちがあたふたするなか、マリーは真顔で話を続ける。


「ちなみに賭けの対象は、あちらにいらっしゃいます」


 マリーの視線の先。

 そこには、ソファーにちょこんと腰掛けているアニスの姿があった。

 本人も状況が理解出来ていないのか、困惑の表情を浮かべながら。


「本日はフレイさんの配属先を決める予定でしたが、どいつもこいつも自分のところに欲しい! と言って聞かないのです。そこでフレイさんが『だったらポーカーで決めたらどうか』と提案したようでして。そして今に至る……というわけです」


 マリーの説明を聞いて、ユリウスは頭を抱えた。


「マリー、お前がいながら何故こうなった」

「申し訳ありません。三十分ほどフレイさんから離れている間の出来事でした」

「そうか……」


 ユリウスが眉間の皺を揉み解していると、アニスは申し訳なさそうに頭を下げた。


「マリー様を叱らないでください。私が悪いんです」

「君もどうしてポーカーなんて言い出したんだ」

「以前働いていた酒場では客同士の喧嘩が起きると、店長が『これで勝負をつけろ』ってトランプを渡していたらしいんです」


 確かに暴力で解決するよりは、とっても平和的。

 しかし、そのせいで人一人の所有権を巡ってポーカーをするという治安の悪い絵面が完成してしまった。

 他の貴族には決して見せられない光景だ。オラリア家の評判が下がる。


 とはいえ、てっきり使用人たちに煙たがられていると思いきや……

 ユリウスは予想とは正反対の事態に、驚きを隠せなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ