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2.国王陛下の命令

「……以上が現在判明している、先日の大嵐で港が受けた被害状況です。続きまして……」


 国王陛下もご出席されている会議中にもかかわらず、やはり眠気は襲ってきてしまった。二徹後の身には辛いが、今回ばかりは絶対に起きていないと、と私は太腿を抓りながら報告に耳を傾ける。

 ついさっきあんな遣り取りをした直後で私が船を漕いでしまえば、それ見た事かとケリー総帥に嘲笑われるに決まっている。ベネット公爵家の面子も丸潰れだ。それだけは絶対に避けなければ。


「……以上が私の考えですが、ベネット所長のご意見も是非伺いたい」


 唐突に名前を呼ばれ、眠気が一気に吹き飛んだ。顔を上げると、発言者であるケリー総帥がこちらを見据えている。

 この場で先程の腹いせでもしようという魂胆なのだろう。どうせ私が話を聞いていないと踏んでいるようだが、幸い今日はちゃんと聞いていたのだ。受けて立ってやる。


「ケリー総帥の救援隊を派遣すべきとのご意見には賛成ですが、少々規模が大き過ぎると思います。下手に大勢で押し掛けても、却って救援隊の食事や宿泊施設の確保が現地の負担になるかと。ここは少数精鋭の第一隊を派遣し、救援しつつ更なる情報を収集してから、必要に応じて支援物資を持たせた第二隊、第三隊を派遣すべきかと思います」

「救援隊は野営の訓練も十分に行っている。現地での食事や宿泊を気にする必要など無い。十分な人数による早急な支援こそ、今必要な事だと思うが?」

「被害の全容がまだ把握し切れていない今、港だけに人数を割く訳にはいかないのでは? 未だ報告に上がっていない河口付近の港町の被害も気になります。これ程の規模の大嵐であれば、こちらにも何かしらの影響が出ている可能性が高いかと。港町の被害が甚大だった場合に備えて、救援隊の余力を残した上での派遣を提案致します」

「むむむ……」


 私の反論に、ケリー総帥は押し黙った。それを見届けて国王陛下に視線を移すと、陛下は鷹揚に頷かれた。


「そうだな。まずは救援しつつの情報収集が最善だろう。ケリー総帥、すぐに人選と派遣の手配を頼む」

「……畏まりました」

 国王陛下の鶴の一声で私の意見の採用が決まり、私はほっと胸を撫で下ろした。


「今の所、幸いにも怪我人は少数のようだが、念の為にベネット所長は種々の魔法薬等物資の確保を。それと、第二隊で魔術師が必要になった場合に備えて、ケリー総帥と連携しながら人選を進めておくように」

「……畏まりました」


 ケリー総帥と連携しなければいけないのは不本意だが、国王陛下直々のご命令とあっては仕方がない。私は陛下に頭を垂れつつ、内心で溜息を吐き出したのだった。


「ケリー総帥。第二隊の魔術師の人選の件だけど」

 会議が終わり、私は忘れないうちにとケリー総帥を呼び止めたのだが。


「ベネット所長か。救援隊には少数だが魔法を使える者もいる。余程被害が甚大でない限りそちらの手を借りる事など無いと思うが、用意するなら火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、満遍なく使える者をリストアップしておいてくれ」

 煩わしげに一瞥しただけで、足早に去って行く男に怒りを覚える。


「何よあの態度! 陛下が連携しろと仰るから、仕方なく人が歩み寄っているのに!」

「どうせ朝からお前に煮え湯を飲まされ続けて悔しいんだろう。それでなくても、彼はまず第一隊の人選で頭がいっぱいになっている筈だ。そこに第二隊の事を言われても、後にしろとしか思わないだろうな」

 お兄様に宥められ、憤慨していた私は少しばかり気を落ち着かせた。


「全く……。じゃあ魔術師達の人選はお兄様にお任せしてもいいかしら? 会議が終わって気が抜けたら、また眠くなってきちゃって……」

 堪え切れずに欠伸を漏らした私に、お兄様は呆れたように溜息をついた。


「はいはい、分かっているよ。後は俺がやっておくから、お前はさっさと寝てきなさい」

「いつもありがとう、お兄様」


 後の事はお兄様に一任して、私は研究所に戻り、仮眠室で爆睡したのだった。


 嵐の被害はやはり港町にも出ていた。浸水した住宅もあるとの事で、魔術師を含む第二隊、第三隊が派遣され、私も現地へ応援に行った。土魔法で住宅に侵入した土砂を取り除き、水魔法で壁や家具を洗浄し、風魔法でそれらを乾かし、火魔法で廃棄物を燃やし、と魔術師達は大いに活躍してくれた。


「国王陛下。救援隊総員の帰還をここに報告致します」


 現地がほぼ復興し終えたのを見届けて、私達は王宮に帰還し、陛下にご報告申し上げた。


「ご苦労だった。魔術師達のお蔭で、復興計画の日程がかなり短縮化されたと聞いている」

「お褒めに与り、光栄でございます」

「ケリー総帥もご苦労だった。炊き出しや被害に遭った住宅の修理等、皆よく働いてくれた」

「当然の事をしたまでです」


 確かに救援隊の騎士達も、ケリー総帥の指揮の下、腕力を活かして瓦礫を運んだり木材を調達したりと活躍はしていたが、陛下に労われたケリー総帥の澄まし顔が面白くなくて、私は隣で報告していた男を横目で睨み付けた。と同時に、向こうも私を睨み返してきた。私達の間に火花が散る。


「全く……。其方達はどうしてそんなに仲が悪いのだ。二人共このヴェルメリオ国にとって、無くてはならない両雄だと言うのに」

「……ではお言葉ですが陛下、普段研究所に籠りっきり、雑用は兄君であるベネット副所長に任せっきりの、いい加減でひ弱なご令嬢よりは、私の方が余程陛下のお役に立てるかと」


 ぼそりとケリー総帥が口にした言葉に、私の堪忍袋の緒が切れた。

(この男!! よくも陛下の御前で言ってくれたわね!!)


「では私もお言葉ではございますが、考えが浅はかで詰めが甘い筋肉達磨よりも、私の明晰な頭脳と魔法の研究で、必ずやこのヴェルメリオ国の発展に貢献して見せますわ」

「くっ……どうだか! 徹夜を重ねては昏倒を繰り返しているような体調管理すらできていないベネット所長では、国に貢献する前に永眠してしまう方が先なのでは?」

「ちゃんと時折回復薬を飲んでいるからご心配には及びませんわ! 自分の体調くらいきちんと管理できています!」

「止めろ! 見苦しいぞ二人共!」

 陛下に一喝され、我に返った私達は慌てて頭を下げた。


「其方達は自分達の立場がまだ良く分かっていないようだな。騎士団のトップと魔法研究所のトップがいがみ合っていたら、騎士達と魔術師達にもその悪影響が及びかねないと何故分からない。それでなくとも長年ケリー公爵家とベネット公爵家の不仲は周知の事実。皆両家に気を遣うあまり、事ある毎に様々な根回しをせざるを得ない状況にいい加減辟易している。少しは両家の代表としてお互いに歩み寄れと何度言えば分かる!」

「「も……申し訳ございません!」」

 私達は平身低頭したが、国王陛下の怒りは収まらないようだ。


「……そうだ。たった今、両家の不仲を解決する良い方法を思い付いたぞ」

「へ……陛下、それは一体……?」

 不敵な笑みを浮かべる陛下に、嫌な予感しかしない。


「政略結婚だ」

「「政略結婚!?」」

 私達は鸚鵡返しに叫ぶ。


「そうだ。其方達二人が政略結婚すれば良い。丁度お前達は同い年の二十歳だ。年齢的にも釣り合うではないか。ケリー総帥は次男で公爵家を継ぐ身でもないから、結婚祝いに私が家を用意してやろう。無駄な争いを生まぬように、両家の息がかかっていない使用人も手配しておくから、そこに二人で住むと良い」


 私は真っ青になった。

 騎士団総帥の妻ともなれば、結婚すれば仕事を辞めて家に入らなければならなくなるだろう。魔法研究ができない生活なんて、牢屋に入れられたのと同じだ。


「そんな! 陛下、私は誰とも結婚する気などありません! 魔法研究は私の生き甲斐なのです!! 仕事を辞めたくなどありません!!」

「辞める必要など無い」

「へ?」

 陛下のお言葉に、私は目をぱちくりさせた。


「其方達はこのヴェルメリオ国の両雄だと言った筈だ。勿論、ベネット所長の魔法についての見識は高く評価している。寧ろ仕事を辞められてはこちらが困る。今まで通り魔法研究所で働いてもらいたい。その為の使用人付きの家だ」


(え……? じゃあ、結婚しても仕事を辞めなくても良いんだ? ってか、これって寧ろ陛下が私の職を保障してくれているんじゃ?)

 仕事を永久保障してもらえるのなら、それはそれで良いか、と現金にも思ってしまった。結婚相手がこの男でさえなければ、二つ返事で受けていたかも知れない。


「へ……陛下! 本気なのですか!?」

 私よりも悲痛な表情で、ケリー総帥が陛下に尋ねる。


「本気だ」

 有無を言わさぬ口調の陛下に、ケリー総帥は顔色を失くして絶句した。


「騎士団と魔法研究所のトップである其方達が不仲である事により、周囲に余計な気苦労をかけている事をいい加減自覚しろ。国家に急を要する事態が発生した時に、双方一丸となって対処できないようでは話にならない。今後の憂いを取り除く為にも、両家の和解、その象徴として、其方達の結婚を命じる!」

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