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大義の士  作者: CLOWN888v
8/13

邂逅

「兼合さん、おはようございます」

「んー」

 兼合さんとバディを組んで三週間ぐらい経った

 荷ほどきもすべて終わり共同のキッチンには僕用の調理器具がずらりと並んだ

 まぁさほど驚くことでもなかったが兼合さんは自炊を一切しないようで包丁すらなかった

 そして一緒に仕事をしていくうちに兼合さんのことも少しずつだがわかるようになってきた

 まず大概変人であることに間違いはないのだが思っていたより嫌な人ではなかった

 いや、嫌いになれなかったと言ったほうがいいかもしれない

 勿論口を開けば嫌みの内包された言葉ばかり飛び出すし自分勝手だし自己中心的で嫌な思いは何度もしたしぶちギレそうになったこともこの3週間でしばしばあった

 でも声をかければめんどくさそうではあるが絶対無視はせず返事を返してくれるのだ

 それに警邏中外問わず困っている人を見つければ助けに入り見過ごすことはしなかった

 悪魔の駆除をするときも一般人に被害がないように立ち回り好きな言葉が自己犠牲と言っていたのを体現するように自分が怪我をすることを厭わなかった

 だからあの時見えたように怪我をすることが多いのだということもわかった

 ただやっぱりまだわからないというか不思議なことも何個かある

 兼合さんは僕がどれだけ早く起床しても絶対に僕より先に起きてきていてリビングで絵を描いていた

 ちなみに絵を見せてもらったことはまだ一回もない

 あとは時より情緒不安定になることがある

 楽しそうに笑っていたかと思えばいきなり黙り込んだりとスイッチの切り替え時がよくわからないのだ

 あとはなぜそこまで人のことを助けるために動けるのかというのも僕にはわからなかった

 僕が畏因会に所属しているのは人助けのためではない

 だからこそ兼合さんの考えがわからないのだ

 そしてまぁそれなりに取り入るために頑張っているは頑張っているのだがなかなか兼合さんは僕に心を開いてはくれない

 今日は畏因会の活動は2人とも休みだ

 僕は必死に兼合さんの心を開けるにはどうすればいいのか考えに考えた

 そしてこれを用意した

「兼合さん」

「まだなんかあんのか? 今日休みなんだけど」

「今日は個人的に僕と一緒に遊びに行きませんか? せっかくバディになったんですし親睦を深めたいと思いまして」

 僕は出来るだけ明るい感じで切り出す

「……は? 普通にめんどいからやだ、っていうかお前とは長い付き合いになることはないって言っただろ」

 思っていた通りの返答が返ってきた

「確かにそう言われましたが少なくとも今は僕はあなたの担当を降ろしてくれと上に泣きつく気はないので、そして断られることも計算内ですがこれを見たらどうでしょうか?」

 僕は懐から2枚の紙を取り出す

「あ? なんだそれ」

 まだ兼合さんはこれがなんなのか気づいていないようだ

「これは今アキハバラ地区のカフェで開催中のスイーツバイキングの入場券です、ちなみに今回の目玉はココアシフォンだとか、いやー人気過ぎてチケット手に入れるの苦労一一」

「3分で準備してくる」

 兼合さんは僕の言葉を遮って自室へと戻っていった

「え……?」

 こんなに上手くいく?

 あの人単純すぎないか?

 一緒に過ごした3週間の食事を見ていればこの人が甘党なのはすぐにわかった

 というか甘いもの以外食べてるところを見たことがない

 だからこんなものを用意してみたのだがまさかこんなに上手くいくとは思わなかった

 まぁ結果オーライなのでいいとしよう


「待たせたな」

 宣言通り3分ほど待ったところで兼合さんは部屋から出てきた

 畏因会の活動をするときより少しラフで動きやすそうな格好にいつものこの季節に似合わない青いマフラーを巻いている

「あの、なんでいつもそのマフラー巻いてるんですか? 首に傷があるとかだったらすいません」

「は? 何言ってんの? 見たらわかるだろお洒落してんの」

「その季節外れのマフラーがお洒落ですか……?」

「そう! イケてるだろ」

「……そうですね」

「今そんなことはどうだっていいだろ! ほら行くぞ!」

 兼合さんはそう言って元気に家を飛び出していった

 兼合さんと僕のファッションセンスはおそらく大分違うのだろうなぁと思いながら僕も兼合さんの後を追った


「このココアシフォン……」

 兼合さんは席に案内されるや落ち着く間もなくケーキを取りに行きこれでもかというほど山盛りに持ってきて1人自分の世界で舌鼓をうっている

「……お前それしか食べねーのか?」

 兼合さんはモグモグと口を動かしながら目で僕の皿をちらりと見て言う

「えっと、まぁ」

 自分で誘っておいてなんだが僕はあまり甘いものを食べない

 別に甘いものが苦手というわけでもないし確かにこのお店のケーキはとても美味しい

 でも普段から体調管理のためにカロリー制限をしているので食べ過ぎてしまうことにためらいがある

「? どうした?」

 僕の返事が曖昧だったからだろう兼合さんがフォークを止める

「あ、いえ別に、食べますが、ってそうじゃなくて! せっかくですから話でもして少しは親睦を深めませんか?」

 危うく今日の目的を忘れるところだった

 ここまでしたのだどうにかして兼合さんと少しでもわかり会わないといけない

「あのなー、スイーツバイキングってのは時間制限いっぱいに食べれるだけ腹に詰め込むのが大切なんだ、話してる時間なんて無い」

「……なるほど」

 これはさっそく失敗したかもしれない

「まーでも話ぐらいは聞いててやる、今日誘ってくれたのはお前だし、で、なんでそんなに俺と仲良くしたいわけ?」

「……」

 なんで仲良くしたいのか、いざ率直に聞かれてしまえばなんて返せばいいのだろうか

 まさかあなたを利用したいからですなんて素直に言うわけにもいかないだろう

「嘘はつかなくていいぞ、正直に話してみろよ、お前が人助けのために畏因会に入ったんじゃないことぐらい見てればわかる、それで俺に気に入られようとしてるのだってわかる、自分の感情押し殺してな、俺を利用して使いたいとかだったとしても別に軽蔑とかしないし言ってみろよ」

 そこまで言うと兼合さんはケーキを1つ食べる

「……」

 本心を、話すべきなのだろうか

 でもそれでこの人が呆れて今より僕から距離を置くようになれば僕の目的に協力してもらうことが難しくなる

「お前の何人か前にもいたな、あからさまに俺のご機嫌取りしてなんかに利用しようとしてた奴、そいつにもちゃんとこういう機会は与えたんだけど最後まで本心は話さなかった、だから俺からバディ解消した、本心を話さない奴と本当の意味でバディになるなんて無理な話だろ? て言ってもそいつほどあからさまな感じじゃないけどなお前は、使ってやろうって思いながらもちゃんと俺に噛みついてくる、控えめに言って俺はお前がそんなに嫌いじゃない、だから場合によっては手伝ってやれることだってあるかもしれない、俺の趣味は人助けだしな」

 話終えるとまた兼合さんはケーキを1つ食べた

 ここまで言われれば僕だって腹を括る

「……わかりました、話しますよ僕の本心」

「そうこなくっちゃ」

 兼合さんはにいっと笑う

「始めに、確かに僕は貴方とバディを組むことになった時に封鬼委員第二庶務長だと聞いてその地位を、その力を利用してやろうと思いました、僕の目的のために、でもそれを除いてもこの3週間行動を共にして貴方が言ってくれたように僕自身も貴方を嫌いではないと思いました、そして畏因会活動をする上で相棒として距離を縮めたいと思ったのも事実です」

「なるほどなるほど」

「単刀直入に言います、僕が畏因会に入った理由はある悪魔を殺すこと、つまり復讐のためです、僕はその悪魔に家族を一一」

「あれ? もしかしてリゲルちゃん?」

 僕の話を遮ったのは嫌というほど耳にこびりついて忘れられない声だった

「っ!! おま、えはっ!!」

 僕は声のしたほうを咄嗟的に見る

 この声は、この声を絶対に忘れるわけがない

 僕はそいつを目で認識するとガタンッと椅子から立ち上がった

 その拍子に僕の座っていた椅子が倒れて大きな音を立てる

 回りの席がざわめきだして沢山の視線がこちらに向けられているのがわかるがそんなことを気にしている余裕はなかった

「まぁまぁ落ち着きなよリゲルちゃん、今日会ったのは本当にたまたま、私も知人と来てるからあまり騒ぎを起こしたくない、それにここで騒ぎを起こすのはどちらにとっても得策ではないと思うんだけどどうかな? 大丈夫、今日は何もする気はないよ」

 そう言って男はニコッと笑った

「おい、そいつ知り合いか?」

 黙って事の顛末を静観していた兼合さんが聞いてくる

「そうそう知り合い! 私とリゲルちゃんは家族ぐるみの付き合いでね、いやー久しぶりに顔を見たけど元気そうでなにより一一」

「お前、冗談もほどほどにしろよ……」

 僕は笑いながら話す男の襟首を乱暴に掴む

「なに、この手?」

「っ!!」

 男の回りの空気が歪むのを肌で感じた瞬間兼合さんによって無理やり引き剥がされていた

「ちょっと落ち着け、こいつは俺でも知ってる有名人だ、俺は武器持ってないし持ってたとしてもさしで戦って勝てる可能性はかなり低い、もし万が一勝てたとしても……死人が出る」

 兼合さんは僕達にしか聞こえないよう耳打ちする

「賢明な判断だね、いい友達を持ったようで嬉しいよ、じゃあ行くけど、また近いうちに」

 男は手をひらひらと振りながら店を出ていった

「……俺達も出るぞ、話がある」

 そう言って兼合さんは倒れた椅子を直し回りに軽く謝ると僕の腕を掴んだ

「わかりました……」

 僕は言われるまま外に出てあの男を目で探したがもうどこにもいなかった

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