感情論
「今回の悪魔ですが被害者は全員男性のようです、整備委員が確認した同じ残心の残っている現場は4ヶ所、かなり近辺で犯行を繰り返していると思われます、最後の現場の発見が早かった為残心が濃く残っておりそれを追って今いる場所が判明しました、下見に1ペア既に向かっていますが僕たちが合流次第回りに被害の少ないよう迅速に駆除をとのことです」
悪魔が人の心を食べた後には残心という痕跡が残る
それを整備委員が特殊な器具を使って回収して同一の悪魔なのか見分ける他残心の濃さによってはそのまま悪魔の現在地を特定する
また、残心は時間経過で薄くなっていくがよほどのことがない限り完全に消えることはないため各国の対悪魔組織で情報は共有される
「被害者がまだ少ないほうだな、こんな生まれて間もない悪魔に俺が駆り出されるなんて珍しい、お前に場数踏ませる為かね、新人なんだろお前」
「なんで新人だと思うんですか? あとお前じゃありません、双葉リゲルです」
「俺のことを知らなかったから、それだけじゃ駄目か?」
「……十分です」
確かにこんな変人いれば噂ぐらいは耳に入ってくるだろう
何より所属している委員が違うとはいえ封鬼委員の第弐庶務長、実質戦闘部隊の7本の指に入る人物である
よくよく考えれば仮委員でなければ知らないほうがおかしい話だ
「あとお前悪魔のこと大っ嫌いなんだなー」
「……は?」
目的地に向けて進めていた足がピタリと止まる
「だってさっきっからお前駆除駆除って、なかなか駆除とかいう奴いないぞ身内でも、あいつら俺らと同じ見た目してるから駆除とか言いにく一一」
「だったら何ですか?」
言葉を遮る
「……」
そんな僕に気づいて兼合さんも足を止めてこちらを向いた
「ええ、嫌いですよ大嫌いです、悪魔なんている必要性も存在意義もないと思ってます、むしろ逆に悪魔を好きな人なんていますかね? あ、もしかして兼合さんは悪魔とだって共存出来るはずですーっていうタイプの人ですか?」
そうだとしたらこの人と僕は絶対にわかりあえないだろう
「あー、別にそういうわけでもないけど……お前はなんで悪魔嫌いなわけ?」
「なんで? なんでも何もなくないですか? 悪魔は人の心を食う、人間にとって害しかないじゃないですか」
何故この人はそんな当たり前のことを聞くのだろうか
「……お前は考えたことはないか?
悪魔は人の心を食べることで自分の心を満たす、つまり俺たちが腹を満たすために他の生き物を食べることとなんら変わりないんじゃないか?」
「……言っている意味がわかりません、それ本気で言ってるんですか?」
「本気も何もないだろ、俺たち人間だけじゃない、生き物は他者の命を糧に生きている、食べるために木の実を摘むことを、動物を殺すことに罪悪感を覚えるか? それで罪に問われるか? 答えは否だ、誰もそんな当然の行為を責めることはない、それなのに何故悪魔は生きるための行為を罪に問われて罰せられるのか、親を殺された、子を殺された、友を殺された……でもそれを責める権利は本当はないとは思わないか?」
「っ……そんなのただのっ一一」
「そう! これはただの偽善だ、それも勿論わかってる、人間同士言葉を交わして感情、心を共有する、だから思考する時は感情を加味して考えなければならない、イコール感情論だ、人間が人間を守るために悪魔を殺すことは人間のエゴだと言える……だがしかしそれは罪ではない、生きるためだからな、だから俺は悪魔を殺す、悪魔ではなく人を守って死ぬと決めたのだから、大義のために生きて死ぬとか……素敵だろ?」
そこまで一息に言った兼合さんは僕のほうを見てニヤリと笑った
「……結果的に何が言いたいんですか? あなたの発言の意図がわかりかねるのですが……」
僕は今日一番のため息を吐いてから尋ねた
この人の主張はよくわかった
でもそれをなんでわざわざ僕に言うのかがてんでわからなかった
「? 何が言いたいかって言われてもなぁ、俺は思ったことを口にしただけなんだが、お前が緊張してるみたいだから俺なりに現場に着く前に緊張ほぐしてやろうと思って世間話を振ってやっただけだし……」
「……今の会話世間話だったんですか?」
「それ以外に何がある?」
兼合さんはこいつなに言ってるんだというようにこちらを見るが僕からすればお前が何を言っているんだというところだ
畏因会に所属して悪魔を嫌いだと言いきる僕に会って早々に話すような会話には到底思えなかった
しかもそれが世間話だと言うのだからずれているとしか言いようがない
これはこの人の担当になった人が長続きしないのだって理解できる
画材屋で怒鳴っていた時点でヤバイ奴だったのに話してみれば更にヤバイ奴なのだから
「……とりあえず向かいましょうか?」
僕はこれ以上話しても無駄だと察して再度移動を開始した
「……お前が止まったんだろ」
後ろから怪訝そうにぼそりと聞こえた言葉はもう無視することにした
そして僕は今日何度目なのかもうわからないため息を吐いた