始動
「あー、お前が新しい俺の担当ってことね」
僕がことの顛末を説明してもそんなこと興味もありませんというように店主が用意してくれた椅子にだらりと腰かけたまま返事が返ってきた
悲しいことに探し人はこの人で間違えないようだ
「はい、美化委員庶務の双葉リゲルです、これからよろしく……」
自己紹介をしようとする僕をその人は手で制す
「あー、そういうのいいわ、どうせ長い付き合いにはならないんだから」
「……どういう意味でしょうか?」
「今まで俺の担当に付いた奴で長続きした奴が一人もいない、お前の前任者なんて1ヶ月も経たずに俺の担当から外してくれーって上に泣きついて俺の担当から外れた、つまりお前ともすぐお別れするのに自己紹介なんてそんな労力を俺は使いたくない」
「……なるほど」
でしょうねという言葉はすんでのところで飲み込んだ
顔合わせをほっぽりだして画材を買いに行った挙げ句にわざわざ迎えに来た相手にたいしてこの対応である
美化副委員長から極度の変人という話は事前に聞いていたがまさかここまでとは思わなかった
「せめて名前と職だけは名乗らんかこのバカもんが」
「痛ってぇ!!」
そんな人の頭を店主がおもいっきりひっぱたいた
「ちゃんと自己紹介しろ、そうしないとこれから画材売ってやらんぞ」
どうもこの2人は付き合いが長いのだろうか
「こんのじじい……はぁ、封鬼委員第二庶務長兼合昴、座右の銘は人のために生き人のために死ぬ、好きな言葉は自己犠牲、以上、これで満足?」
兼合昴と名乗ったその人は心底どうでもよさそうに自己紹介を済ますとがたんっと席を立った
「何処へ行かれるんですか?」
「何処もなにもないだろ、画材を探しに行くんだよ、ここにも売ってないとなると別の画材屋に急いで行かないと売りきれるだろ」
何を言っているんだという顔で兼合さんはこちらを見る
「あの、申し訳ないんですが貴方を見つけ次第既に現地に向かっている別班と合流して悪魔の駆除をとの命を受けていますので……」
「あー、わかった、ならとっとと行くか、場所は?」
会って間もない相手だが良い印象ははっきりいって全然ない
またなんだかんだと文句を言い出すのではないかと恐る恐る切り出すと意外な返事が返ってきた
「え?」
「……えってなんだよ」
「いや、あー、なんか画材買うほうが優先だーとかなんか言わないんですねと思って……」
「そんなこと言うわけないだろ……さっきの俺の自己紹介ちゃんと聞いてたか?」
「聞いてましたけど……」
「ならわかるだろ、俺の座右の銘は人のために生き人のために死ぬ、だから人が困ってるなら俺は動くさ、じゃあ案内よろしく」
兼合さんはそう言って取り出した畏因会の印となる腕章を腕に着けた