出会い
「美化委員仮所属双葉リゲル、本日付で美化委員庶務へと正式に任命する」
「謹んで拝命いたします」
「それでは双葉庶務、配属早々で悪いがこれから君に担当してもらう者を紹介しよう、入れ」
「し、失礼いたします! 申し訳ありません美化副委員長様!」
「騒々しいぞ、奴はどうした?」
「そ、それが、新しい画材を買いに行くと言って我々の制止も聞かずに出ていってしまわれました!」
「っ、たくこれだからあいつは……申し訳ないが双葉庶務、奴のいる場所には心当たりがある、それを今から紙に記す、それを元に探してそのまま拾って現場に向かってくれ、丁度通り道だしな」
「了解いたしました」
「はぁ……」
揺れる電車のなか壁に背を預けて僕は一つため息を吐く
副委員長からもらったメモを頼りに電車に揺られること少し
せっかく正式に庶務になれたというのに初日からこれでは先が思いやられるというものだ
目的の駅まではまだ少し時間がある
とりあえず僕は今やれることをするために頭のなかでこの世界のおさらいをすることにした
この世界には悪魔と呼ばれる存在がいる
いつからいるのかもわからないそれは人の心を糧として生きる害虫だ
悪魔に心を喰われた者は目を覚ますことのない深い眠りに落ちる
そんな悪魔から人類を守るための組織が世界各国に存在する
もちろんこの日本にも対悪魔組織がある
それが僕がこれから所属することになる畏因会だ
畏因会は悪魔を討伐することに重きを置いた封鬼委員、その活動をサポートする美化委員、悪魔の痕跡を調べて纏める整備委員、悪魔に心を喰われた者の治療等を担当する保険委員、悪魔に関係する事件などを纏めて世間へと伝達する放送委員の計5つの委員会とそれぞれ委員長、副委員長、書記、庶務長5名、庶務多数で運営している
また、畏因会のなかの委員に所属せず雑務等を担当しているそのまま雑務と呼ばれるもの達も複数存在している
更にその5つの委員会と雑務を纏めているのが副会長と実質畏因会のトップである会長だ
そしてだいたいの場合畏因会の活動をするにあたって封鬼委員と美化委員はツーマンセルで行動する
僕自身今日から正式に美化委員となったため新しく封鬼委員とペアを組む予定だった
予定だったのだが……
元々は本部で顔合わせをするはずだったのにそれをすっぽかしてどこかへ行ってしまったバディになる予定の人物を探して電車で揺られているという有り様
考えれば考えるだけ頭が痛くなる話だ
今日何度目かもわからないため息を吐いた頃丁度電車が目的の駅に止まった
メモに載っている名前をスマホで検索すればこれから向かう画材屋は駅を出てすぐのところにあるらしい
「ここか……いるといいんだけど」
ぼそりと呟きながら引戸を引いた時だった
「だーかーらー! 何で売ってないんだよ!?」
店内から男の叫び声が響いた
「耳痛っ……な、なに?」
僕は軽く耳を押さえながら店内を覗く
「何度も言っておるだろう!! その画材は希少品だからこの店では売っておらん!!」
「お、俺はだな!? この藤田画材なら売っているだろうと踏んで仕事ほっぽりだしてまで買いに来たんだぞじいさん!」
「お前さんが勝手に決めつけて勝手に来たんじゃろ!! 毎回毎回うるさすぎるぞお前は! 大体勇み足もいいことだがまず電話してこいと言っておるだろう……」
「あの……」
部屋のなかの騒ぎが少し収まってきたところを見計らって控えめに声をかける
「ああ、お客さんか、申し訳ないねこんな騒ぎで、で、今日は何をお探しで?」
店主と思われる老人はやれやれといった感じで椅子に座り直す
「いや、あの、僕が用事があるのはそっちの人なんですが……多分」
少し癖のある黒髪に三角目の下の隅、季節的に必要のなさそうな青いマフラーとだぼだぼの靴、腰のベルトに刺した脇差し程度の長さの刀と聞いていた服装や身体的特徴はばっちり一致するのだができれば人違いであってほしいという感情から多分という言葉を付け足す
「あ? 俺?」
「そうですあなたです」
これが僕と彼との初めての対面だった