61. 椎名泉、稼ぐ1(後編)
更新大変遅くなりまして誠に申し訳ございません。
本日から復活します。
極炎魔法――もとい、転移能力が噂になってるなんて初耳なんだが。確かに登録初日にそこそこの騒ぎにはなっていたが……。
……いや、いつも混み合う時間を避けて依頼を受けに来てるから当然か。それにアカシアさん以外知ってる同僚もいないボッチ冒険者だし……。
ウィステリアさんの言葉に、男達は小馬鹿にしたような顔つきで俺を一瞥する。
「極炎魔法ねぇ……ヘッ、眉唾もんだなァ!」
「どうせ手品かなんかだろォ!」
「間違いないわ。ジャッジメントを使って確認できたことですよ」
「……、ンだと?」
威勢よく笑い飛ばしていた男達は、ウィステリアさんの言葉で一斉に黙り込んだ。
……あれだけ柄が悪いチンピラ冒険者も、ファーテル様には絶対の信頼を置いているということだろうか?
宗教の持つ力に感心していると、肩の上のツノウサギがぼそりと呟いた。
『……椎名さん、一回見せてあげたら? こういうのはちゃんとどっちが上かハッキリさせとかないと』
「えぇ……どっちが上かって言うと、あっちが上な気がするんだが……」
俺は口角を引きつらせながら、男達をチラリと見遣る。
うん……、ああいうクラスカースト最上位に居そうな奴を見てると、こう、本能的に気が引けてしまうな。とてもじゃないが彼ら相手に喧嘩を売るなんて無理だ。全然勝てそうな気がしない。
しかしツノウサギは俺の気も知らず、『ほら早く』と肩で足踏みする。痛い。
……まぁ確かに、また絡まれたりしても面倒だしな。ここはひとつ、手を出したらヤバい奴だと思ってもらった方が、逆に良いかもしれない。
「……あ――、あの、ちょっと一回見てもらっていいか?」
「あぁ?」
俺はウィステリアさんと男達の間でおずおずと手を挙げる。男達に凄まれるが、そちらは気にしないようにする。
「ウィステリアさん、何か燃やしてもいいものとかあります?」
「……あっ、ありますあります!! あっちの家具、これから処分場に持ってかなきゃいけないやつなんですけど……せっかくなので、お願いできないですか?」
「わかりました、使わせてもらいます」
ウィステリアさんは俺の意図を察してか、ニヤリと笑う。彼女が指差す方には、無雑作に置かれた古びた家具があった。3人掛けのソファや長机、高さ3mほどの棚などなど。大きいし、数もあるし、デモンストレーションとしては丁度いいだろう。
冒険者達が胡散臭そうな視線を向ける中、俺はトラックストラップを棚に当てる。
「――炎よ」
また無詠唱だと騒がれてはまずいので、一応、形だけ“炎よ”と口に出しておく。トラックが棚に接触すると、それは瞬時に視界から消滅した。
「はっ……?」
「アァ!?」
背後で男達の気の抜けたような声が上がるが、気にせず机やソファーも次々と転移していく。
「こっちも【燃えろ】、それも【燃えろ】」
「…………!?」
コツ、コツンとトラックストラップを当てるたび、家具は消えていく。そのまま全てを転移し終えてから、俺は見物人達の方を振り返った。
「……え…………は……………?」
「き、きえた!? 消えた!? オイ、どうなってやがる!?」
男達は目を見開き、口々に声を上げる。周りの冒険者や職員たちも『嘘だろ、消えた!』『ほら見ろウソじゃなかっただろうが!俺は確かに見たんだよ!』と盛り上がっていた。
「全部燃やしたんだ。俺は炎魔法使いだからな」
「燃やした!? 炎なんか出してなかったじゃねぇか!」
「つ、つーか何発魔法使ってんだお前!? なんで魔力切れが起きない!?」
「瞬間的に燃やすから炎が見えないんだ。魔力なら無尽蔵にある」
俺は極めて冷静に努めながら言うと、男達はぐっと押し黙った。見えない炎魔法など恐怖でしかないだろう。俺が本気を出せば秒で消滅させられる、と思ってくれたらしい。
……まぁ、俺が直接ストラップを当てるか、石を当てないと転移しないんだけどな。そんなに完全無欠の魔法使いってわけじゃないが、ハッタリは大事だ。
「……そういうわけだ。いきなり魔法をぶっ放したのは悪かった。でも先に手を出そうとしたのはそっちだし、ここはひとつ、おあいこってことで手打ちにしてくれないか?」
先に物理的に手を出したのは俺の方だったが、外野から見ていたウィステリアさんが俺に落ち度はないと言ってくれているし、たぶんこの世界では正当防衛の範疇に入るのだろう。
俺の言葉に、男達は苦々しげな顔で視線を泳がせた。
……よし、ご納得いただけたみたいで幸いだ。
俺はほっと胸をなでおろしつつ、今度はウィステリアさんに頭を下げた。
「ウィステリアさん、騒いですみませんでした」
「とんでもない! 処分場まで運ばずに済んで、ギルドとしてはラッキーですよ!」
「そうですか……なら良かったです」
……勤め先の心象は大事だからな。職場での人間関係はそのまま生活の質に直結するものだ。
問題とされなかったことに、俺はほっと息をついた。
その後、ウィステリアさんに見送られながら、俺とツノウサギはそそくさとギルドを後にした。本当は午後の依頼を受けておきたかったが、あの騒ぎの後でギルドにいるだけの度胸は無い。
……とりあえず昼時だし、午後どうするかは飯を食いながら考えよう。腹が減っては戦はできぬだ。俺達は御用達の串焼きの屋台へと向かうことにした。
『……やっぱり、ボクなんか連れてても周りにバカにされるだけじゃない?』
「ん?」
道中、肩に乗っているつのウサギがぽつりと呟く。
『だから……椎名さんさ、冒険者ならもっと強い獣をテイムしたほうがいいんじゃないのって、話』
……先ほどあの男に言われた、“ウサギさんなんか連れて”という言葉を気にしているのだろうか。ただでさえ自己肯定感が低めの彼だ、余計に自信をなくさせてしまったかもしれない。……あの場であの男に言い返しておけばよかった。
俺は慌ててツノウサギのフォローに回る。
「あのな、強さだけでペットは選ぶもんじゃないだろ」
『椎名さん……』
俺はツノウサギの背中をワシワシと撫でながら伝えた。
そう、結局のところ、ペットに大事なのは相性と愛嬌だ。
ツノウサギは同性だし、歳も近いし、相性は悪くない。普段無表情で言葉尻もクールなところがあるものの、食い意地が張っていて、ツンデレ気味という愛嬌もある。ペットとしては非常に優秀な兎だ。
我ながら“いいこと言った”という気持ちで、ツノウサギに視線をやった。
……が。
『……いや、冒険者なんだから強さで選ばなきゃダメでしょ』
「……そ、そうか」
ジトッとした目で言い返されてしまった。
……まぁ、自己肯定感なんかすぐ上がるもんじゃないし、じっくり自信をつけてもらったらいいか。
俺は苦笑しつつ、屋台へと向かった。
「まいど――! いつもどうもね、お兄ちゃん!」
「ありがとうございます、また来ます」
ちょうど昼時で、串焼きは出来立てだったらしい。ふわりと肉のジューシーな香りが白い湯気とともに届く。
露店前の広場のベンチに腰掛けて、俺達は肉に食いついた。
「いただきます」
『アルシェイ、アシュターノ・リズミ、ファーテルシー』
「ん、今日もうまいな」
『うん、おいしい。おにく、おいしい』
――肉を口に放り込んだその時、ふと、先程の騒ぎで有耶無耶になった疑問がもう一度頭によぎった。
初代女王リョウが使えたという無詠唱魔法。
稀代の魔道士でもなければ使えないという無詠唱魔法のことだ。
「ごはんどきって、ファーテル様の国に住んでてよかった――って思うよね。なんでもおいしいもん。まぁ、ショウさんの料理が1番だけど――そうだ椎名さん、やっぱり料理練習してよ。ショウさんのごはん、再現してほしいんだけど」
「……、あぁ、そうだな」
『……椎名さん? どうしたの?』
思考にふけっていると、ついツノウサギの言葉に生返事をしてしまう。気づけば、ツノウサギは怪訝な表情で俺の顔を覗き込んでいた。
『……さっきから、なに考えこんでるの?』
「……ん?」
『ほら、ギルドでもボーッとしてたじゃない』
「……あぁ……、いや、まぁ、なんでもない」
『……? そう?』
ツノウサギは眉を顰めて小首を傾げる。
……引っかかっていたモノの正体は分かった。
でもまぁ、気のせいかもしれないし、まだ疑念の域を出ない。……ツノウサギにはいつか確信が持てたら話そう。
脳裏にちらつくのは、この前別れたお人好しの友人の姿。俺はそれを誤魔化すように、ツノウサギの頭を撫でた。
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