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49. 椎名泉、魔法を使いたい(前編)


 ――さて、俺が冒険者登録をしてから、今日で3日が経過した。


 あれから毎日、採取系のライトな依頼をこなしながら、途中遭遇するゴブリンなどの比較的弱い害獣を相手に戦う日々だ。


 薬草採取の方は概ね上手くいっている。これはほぼツノウサギの功績だ。彼が森で同族のウサギを捕まえ、露店で売っている焼き猪串を対価に薬草の生息地を聞き出してくれているのだ。

 お陰様で勤務時間は1日2、3時間でありながら日給3万円前後という快適な生活を送らせてもらっている。


 ……ただ一つ、発生している問題があった。


「うーん……」

『……椎名さん、どうしたの?』

「いや――……俺の戦闘スタイル、もうちょっとどうにかできないかと思って……」


 ――そう、害獣討伐についてだ。


 ツノウサギに答えながらチラリと横目で見るのは、俺が転移させまくってボコボコに穴が開いた地面。先程まで薬草採取中にかち合った害獣相手に戦っていたのだ。


 今回のお相手はイエローフォックスと言う狐の害獣だったのだが、これがまたやっかいな敵だった。比較的小柄かつすばしっこかったため、転移能力と相性が悪かったのだ。


 今回は結局、地面を転移して一旦穴に落としてから害獣自身を転移させているのだが、狙いが中々定まらず、その過程で地面がボコボコになってしまった。

 地面転移は危険が少なくお手軽な作戦ではあるものの、森を荒らしてしまうのがいただけない。


「もっといい討伐方法があれば良いんだけどな」

『いい討伐方法ねぇ……』

「はぁ…俺が魔法使えてたらな――……」


 そう、かつて見た異世界無双物のように大規模魔法をバンバン撃ちまくることができれば、ここまで討伐に苦労することはなかっただろう。

 俺は天を仰ぎながら、ゼリウスの封印とやらを呪った。


『……そういえば椎名さんって、魔法使えないんだね』

「あぁ、神様が使えないようにしてるんだと……あ、そうだ、ツノウサギは魔法は使えないのか? バーストウルフは使えてたよな?」


 ツノウサギが魔法を使っているのを見たことはないが、バーストウルフが炎魔法を使えていたところを見ると、獣だからといって使えない訳ではないのだろう。

 ふと気付いた疑問を口にすると、ツノウサギは眉間に皺を寄せながら俺を見上げた。


『あれは例外。魔法が使えるのは中級のゴブリンメイジと上級のごく一部のけものだけ。ボクは無理だよ……魔力が足りないんだ』

「魔力か――……」


 聞けば、小型の害獣は体内に蓄えておける魔力が少なく、魔法を撃てないらしい。生まれつき魔力量は決まっているため、彼らは絶対に魔法を使うことができないんだとか。


『……やっぱりちゃんと戦える害獣のほうがいいよね』

「ん?」


 説明を終えたツノウサギは、ボソリと呟きながら苦々しげに顔を逸らす。


『ボクなんかより、もっと大きくて強いけものをテイムしたほうがいいんじゃないの……』

「え? そりゃ魔法が使えるに越したことはないけど、お前はモフカワ担だからいいんだよ」

『……なんの担当なの、それ』


 ツノウサギは呆れたような声を出しながらも、どこかホッとしたような表情で再び顔を背けた。

 俺が強い害獣をテイムしようとしていると思って不安になったのだろうか……なんやかんやで俺に懐いてくれてるんだな。


 しかし、ツノウサギの話を聞きながら、俺の中で一つの仮説が立てられた。


「なぁツノウサギ、初めて会った時に言ってたよな? テイムすると、主人と従魔の間でいろんなものが共有できるようになるって」

『あぁ、うん。今みたいに意思疎通ができたりとか……あとは五感なんかも共有できるって聞いたことある』

「なら魔力は?」


 俺の問いに、ツノウサギはハッとした表情になる。


『……できるかも』

「じゃあ俺から魔力を引けば、お前も魔法を使えるようになるかもしれないよな。早速試してみてくれないか? もし成功したら、かなりの戦力アップになるぞ」

「う、うん」


 俺の内包する魔力量はこの世界の住人のレベルを逸脱しているらしいし、それをツノウサギが自由に使えるのなら、魔法は撃ち放題になる。

 ツノウサギも魔法が使えるかもしれないという期待から、少しそわそわした様子だ。


『試してみるけど、もし魔法使えなくてもがっかりしないでよ』

「分かってるよ、駄目で元々だ。それで俺はどうしたらいい?」

『とりあえず魔力を共有できるか試してみるから、そこ座ってじっとしてて』

「わかった」


 俺はツノウサギに言われた通り、その場に座る。

 ややあって、すー、はー、と深く息を吸う音が聞こえると同時に、肩に乗っていたツノウサギの体がびくりと跳ねた。


『……っ、うぁっ……!』

「ツノウサギ!?」


 耳元で聞こえた苦しげな声に、俺は慌ててツノウサギを肩から降ろした。そのまま腕に抱えると、ツノウサギは『むー……うー……!』とうなりながら、後ろ足でバシバシと俺の腕を叩く。


『……お、重いっ……、なにこれ、すっごい大量に魔力が流れ込んでくるんだけど!』

「だ、大丈夫なのか!? 何が起こってるのかサッパリ分からないんだが……!」

『ちょっとウソでしょ、こんだけ魔力抜いてるのにわかんないの……!?』


 ツノウサギは呆れたような声を出すが、俺としては体感的にいつもと変わったところはない。俺の魔力量は膨大らしいし、多少流れ出たところで全体量にあまり影響はないということだろうか。


「い、今どういう状況になんだ?」

『うー……、も、もらった魔力を僕が受け止めきれてない状態……! ほら、けもの達も騒ぎ出してるでしょ……流れ出した魔力に反応してるんだよ……!』

「あ……そういえばそうだな」


 ツノウサギの体調に気を取られていたが、確かに周囲の森でギャァギャアと不気味な鳴き声が聞こえている。


「……ん? じゃあここに害獣が集まってくるってことか?」

『これだけ大放出してたら逆に集まってこないよ』

「い……イキリ散らかしてるクソ上司みたいな感じなのか……?」


 それなら確かに、近づきたくないという思考は理解できる。


 そして自身の言葉に頷いた丁度その時、頭上からパサパサと何かが羽ばたく音が聞こえた。

 音につられて空を見上げると、森の上を旋回する深緑色の鳥の姿があった。それほど大きなシルエットではないが、鳥の尾は長く、まるでオナガのようなイメージだ。


「……あ、あの鳥は大丈夫なのか?」

『あぁ、ルナバード? ボクと同じ低級の最底辺だから、ヒトを襲ったりしないよ』

「そうか、良かった……って、ん?」


 ツノウサギの言葉に安堵したのもつかの間、続けて東の方の空からバサバサバサとたくさんの羽ばたく音が続けて聞こえる。1羽2羽というレベルではなさそうだ。

 音は次第に大きくなり、やがて上空に何十匹という緑の鳥が現れた。木々の隙間から見える空は、すっかり深緑色に染まってしまっている。


『ルナバードの大群……?』

「な、な、なぁ、大丈夫……なんだよな?」

『た……たぶん?』

「おいちょっと!」


 先程とは打って変わって自信のなさそうなツノウサギの声に、俺は思わず突っ込みを入れる。

 いくら一個体の力が弱いとしても、これだけ大群で向かって来られたら太刀打ちできないだろう。縦横無尽に動く鳥は、俺の転移能力とは相性最悪だ。

 ツノウサギもさすがにまずいと思ったのか、ピョンと腕の中から飛び降りて空を見上げた。


『――騒がせて悪かったね! ちょっと魔法の練習してるとこなの、別にキミたちの住処を荒そうっていうわけじゃないから――』


 ツノウサギは空に向かって大声で鳴く。

 その声と同時に、1匹のルナバードが俺たちの居る地上に向かって急降下を始めた。それに導かれるように、残りの数十匹のルナバードたちも一斉に降下し始める。


「う、うわっ!?」

『大丈夫、敵意はなさそう!』


 俺の焦りを滲ませた声にツノウサギは素早く答える。

 野生の勘というやつだろうか、ツノウサギの言うとおり、着地したルナバードたちは俺達とは少し距離を置いた位置で、様子をうかがうように小さく鳴き声を上げている。

 ツノウサギは俺とルナバードの間に割って入り、彼らを睨みつけた。


『……ボクらに何か用なわけ?』

「ピュー、ピュー……!」

『……え、えぇ……、ちょっと、いきなり何なの?』


 ツノウサギの質問に対し、鳥軍団の最前列にいた個体が鳴き声を返す。

 ルナバードたちは俺の従魔ではないため、俺にはただの鳴き声にしか聞こえない。しかしツノウサギは相手の言葉を理解しているようで、彼らの鳴き声に怪訝そうな表情を向けている。


『……え? え、それ、このヒトにってこと?』

「……ん? 何、俺の話してるのか?」

『いや、それは……まぁ、そうだけど……えぇ……』

「な、何? 何何何、何の話だよ、気になるだろ」


 俺が話題になってるってどういうことだ?

 気になって答えを急かすようにツノウサギの体を揺すると、困ったような顔で俺に向き直った。


『えーと……助けてほしいんだって』

「助ける? 何を?」

『ルナバードの一族を』

「……誰に?」

『この流れで、椎名さん以外いないでしょ……』


 そのウサギの呆れたような声に、俺は『だよな……』と我に返りながら答えた。

お読みくださりありがとうございます。

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