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33. 椎名泉、取り押さえる(後編-2)

 慌てて階段から下の階へ向かえば、アカシアさんと窃盗団が殴る蹴る魔法撃つの大乱闘状態になっていた。


 ……と言っても、ほぼアカシアさんよるフルボッコ無双状態だ。


 窃盗団たちは1階分落下したダメージが大きいのか、皆どこか動きが不自然だ。アカシアさんの超全力スピードについていけるはずもない。ショウも加勢して、形勢は一気にこちらが有利な状況になった。


「……もう1回やろるか」

 

 このまま俺が手を出さずとも簡単に制圧してくれるだろうが、わざわざ彼らに前線に立つリスクを負ってもらう必要はあるまい。もう一回落下させれば、即勝利は確実だ。


「よし……――ショウ、アカシアさん!」

「! わかった、了解!」

「かしこまりです――っ!」


 大声で呼びかければ、2人共俺の意図を理解したらしく、ショウは俺のいる廊下部分へ飛び退き、アカシアさんは向かい側の窓枠に飛び乗った。

 窃盗団の男達も、こちらの意図を察してか慌てて俺に魔法を撃ち込もうとするが、少し遅かった。


「この階も【転移】!」


 トラックを床にぶつければ、瞬時に床板が消える。


「うおっ」

「ま、またかよクソっ!!」


 2階分の家具と共に、男達はさらに下の階に落下した。

 先程よりド派手なガッシャ――ンという音が、3階分の吹き抜け空間に反響する。2階分の家具を巻き込んで落下したため、大惨事は大災害状態にグレードアップだ。


 窃盗団達は多少、心の準備をした状態で落下したようだが、ノーダメージとはいかなかったらしい。落下時に家具に足を巻き込まれて動けなくなっていたり、不安定な足場のせいで着地に失敗したり、酷い打撲を受けたりで、まともに動けなくなった者が多そうだ。


「く、くそぉっ……」

「ふふんっ見ましたか、大魔道士さまの魔法をっ! もう諦めておとなしくしなさ――いっ!」


 唯一なんとか起き上がろうとしていた男も、下の階に飛び降りたアカシアさんによる角材フルスイングで沈黙させられている。

 

 ……これは勝った。完全勝利である。


「ふふ、さすがシーナ、スピード解決だねぇ」

『おつかれさま、椎名さん』

「あぁ、お疲れ」


 ショウやツノウサギとフィストバンプ。コツンと拳を合わせつつ、俺達は下の階へ降りた――と、ちょうどその時。


「オイ、お前ら無事かァ!?」


 バアンと大きな音を立てながら、玄関の扉が開かれた。声の主は外で見張りをしていたザンさんだ。


「ザンっ、こっちは終わったよっ!」

「そ、そうか……中で凄ェ音がしたから、どうなってるのかと思ったぞ……」


 アカシアさんは瓦礫と化した山の上を飛び越え、玄関の方に着地した。

 ザンさんはほっとした表情で彼女を迎えるが、目の前の瓦礫の山を見つけ、そのまま天井の方に視線をうつして――


「――ってオイ、どーなってんだこりゃアァァア!?」


 瓦礫の山の上、そこが3階分の吹き抜けスペースになっていることに気づいたザンさんは、目を剥いて大声を上げる。


「シーナさんがボンって床を燃やしちゃったんだよ――っ!」

「床!?床だけ燃やしたァ!?」


 アカシアさんの無邪気な声に、ザンさんはまたひっくり返った声を出しながら天井を見上げる。


「ハァー……部屋の四隅から綺麗に落ちてやがる……どーやったらこんな綺麗に四角く燃やせるんだァ……?」


 その声は、疑いというよりも純粋な感心を帯びたような声だ。ザンさんは顎に手を当てながらうーん、と唸っている。


「えーと……ま、まぁ、経験……かな?」

「そうか!そりゃスゲェな!」


 ……“記憶喪失で魔法がうまく使えない”設定なのに、経験から凄技が使えてしまうというのは少々苦しい言い訳だが……。

 しかしザンさんは特に引っかからなかったようで、豪快に笑いながら俺の背中をバンバンと叩いた。


「――あ、そうだ、さっき近所の奥さんに警務局への通報を任せておいたぞォ。そろそろ到着するだろうから、犯人引き渡したら終了だなァ」

「そうか、ありがとう」


 ――これで一件落着だ。


 そう思って息をつこうとした丁度その時、肩に乗っていたツノウサギがぴんと姿勢を正し、鋭い声を上げた。


『――椎名さんっ! あのひと!』

「え」


 ツノウサギが前足を向けた方向を見れば、家具の上でうずくまっている男がこちらに手のひらをかざしていた。

 魔法を使うつもりだと察知した俺は、慌てて転移のためにその場にしゃがみ、床に手を伸ばす。


「床【転移――」

『ちょ、椎名さん、ここもう1階!』


 ……あ、しまった。


 床を転移しても下には基礎の部分くらいしかないし、魔法を避けるだけの高さが稼げないかも知れない。


 それに思い至ったとき、すでに転移能力が発動し、床は消失していた。

 そして家具が崩れる音と共に、それらと男の姿が視界からふっと消える。


「……んん!?」

『え、床抜けた!?』


 てっきり数十センチメートルほどガクンと下がってお終いかと思えば、その全てが視界から外れ、ガシャーンという派手な音と男のうめき声が足元の空間から響く。

 床板が消え去ると、そこにぽっかりと大きな穴が現れた。

 その穴を覗き込んだところ高さ3m程の空間があり、その中に落下したようだ。

 

『……なにこれ、地下室?』

「みたいだな……」


 土壁に土の床という簡素な作りではあるが、立派な地下空間だ。ツノウサギの言葉に頷いていると、左右からショウとアカシアさんも穴を覗き込んだ。


「……ねぇ、地下への階段なんかあったっけ?」

「うーん、なかったと思いますー……」

「隠し部屋ってことか……シーナ、上の家具だけ燃やせるかァ? 奴等を上がって来れなくするんだ」

「いい作戦だな。――家具と武器類【転移】」


 俺はザンさんの提案に頷き、トラック型に成形したしたヒノオ石を隅の方の家具に投げつけた。投げつけた石がコツンと当たれば、その瞬間家具は消える。複数回に分けて少しずつ消していった。

 ……“その辺まとめて一気に転移”としなかったのは、今回盗まれた宝石があの中に混ざっていた場合、一緒に消えてしまうからだ。転移するのは足場になる家具だけで構わない。


「ふぅ……まぁ、これで大丈夫か」


 窃盗団は地上から3m下。魔法やボウガンの矢が飛んでくることもないし、仮に諦めずに這い上がってこようとしても阻止可能だろう。


 ……まぁ、窃盗団たちを見る限り、もう抵抗する気もないだろうが。触れたものみんな燃え尽きる魔法――いわば即死魔法の使い手にちょっかいをかけようなどと思うまい。

 よしんば俺をどうにかしても真のラスボス(アカシアさん)が待ち構えているわけだし、それは賢明な判断だ。

 俺がようやく一息入れていると、穴の中を見ていたアカシアさんが不意に首を傾げた。


「あれ……? あの奥の箱、なんですかね?」

「箱?」


 アカシアさんが指差す方を見てみれば、割れた木片に埋もれるように、いくつかの小箱が転がっていた。 


「……あれは……、」

「……!」


 ショウとザンさんも気づいたようで、少し驚いた表情に変わる。

 そして俺がどれだと目を凝らそうとしたちょうどその時、背後から男の声が聞こえた。


「――おい、この騒ぎはなんだ!?」

お読みくださりありがとうございます。

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