16. 椎名泉、賞金を稼ぐ
「主任、やっぱコイツ“霧の魔”だよな!?」
「あぁ、黒いコートに銀の重ね腕輪……間違いねぇ!!」
「マジかよっ!アンタらよくやってくれたっ!!」
「大手柄の大金星だ!!」
カウンターの向こう側にいる局員から、次々と歓声と拍手が上がる。ザンさんとアカシアさんの方を見れば、うんうんとニッコリと頷いている。
……どうやら俺だけが状況を理解できていないらしい。
「な……、え、き、霧の…何? 有名な手配犯だったのか?」
「あ、シーナ、気づいてなかったんだ?」
そう言ってショウはこてんと首を傾げる。
「俺はさっき戦ったときに気づいたよ。“霧の魔”ってね、ここ最近ラカイを荒らし回ってた奴だよ」
「町中でお金を持ってそうな人の鞄を奪ってくんですよっ!追いかけようとしたら、霧を撒かれて視界が悪くなったところに水魔法をドン!重傷者がもう何人も出てるんです――っ!」
「全くけしからん奴だよなァ!」
「……マジか」
……俺が思ってた“ひったくり”とレベルが違う。さすが魔法が一般化した世界だ、犯罪の凶悪さが全然違う。
……ひったくりくらいどうにかなるだろ、とは二度と思うまい。
俺が一人死んだ魚のような目をしていると、主任と呼ばれていた局員が興奮気味に駆け寄ってきた。
「それで!?これを捕まえたのはアンタなのか!?」
「いや、俺じゃねェよ。こっちのシーナがやった」
「え、ちょ」
だから俺じゃないってと声を上げようとしたが、局員にグイグイと詰め寄られて、それは叶わなかった。
「ほぉおお……!ヒョロっちい癖に大したもんだなぁ!」
「いや、倒したのは俺じゃなくて、こっちのショウなんだが……」
「なに?そうなのか?」
「いやいや、追い詰めたのはシーナでしょ。えーとね、俺が最初に追いかけてたんだけど、すぐに撒かれちゃったんだよ。それでやっと見つけたと思ったら、シーナの前で犯人が地面にうずくまってたんだ。そこで俺が雷魔法で気絶させたってだけ」
「ほお、なるほどな!」
そう言って局員が感心したように頷いていると、横からヒョコリとアカシアさんが顔を出す。
「あっ、ハイハイ、質問デースっ!! シーナさんはどうやって犯人さんに勝ったんですか!?」
「え」
「それは俺も思ってた!すごい強い魔法の使い手だったし、普通に戦っても勝てるわけないと思うけど……?」
ショウは不思議そうに首を傾げる。そしてキラキラとした目で見つめるアカシアさん含め、周囲の視線が一気に俺に集中した。
「えーっと……」
……うーん、視線が痛い。どうしたもんかな。転移能力があることは言いたくないし、かといって、他に霧をどうにかできそうな言い訳も思いつかない。……となると、
「まぁ、その、魔法を使われる前に、サクッと倒した?みたいな……」
……と、言うしかないだろう。
「まさかのスピード勝負!?」
「……霧の魔、手が早い足が速いで有名だったよなァ?」
「すごいねシーナ!意外と戦い慣れてるんだ!」
……そ、そうだった。俺みたいなモヤシが速攻勝負で勝ちましたは不自然だよな。
俺は慌てて弁明し直す。
「ええと、足場が悪い場所に誘い込んで転ばせたんだよ。犯人がうずくまってたのはそのせいだ」
「あぁ、そういえばあそこ、地面がへこんでる所があったなぁ……」
「なるほどっ!シーナさんの作戦勝ちってことですねっ!!」
「そんな……かんじかな……」
アカシアさんのキラキラした目に耐えられず、俺はまた遠い目になりながら苦笑いだけしておいた。
その後、発端となった事件のことと、取り押さえた前後状況について、改めて局員に説明した。
聴取から開放されたのは、それから30分経った頃。
「――ふーむ、なるほどな……よし、聞きたかったことはこれで全部だ!ま、なにはともあれお疲れさん!お手柄だったな!」
「ど、どうも」
主任さんはニカッと笑って俺とショウの肩を叩いた。
「あっ、そうだ、ちょっと待てよ……ほれ、協力金だ!」
そう言って主任さんは机の下から小さな麻袋を取り出した。机に置いた瞬、ジャラリと金属が擦れる重い音がする。
「賞金なんかあるのか」
「今回の件は厄介な犯人だったからな。そういう場合は協力金が貰えることが多いんだよ。今回は50万リタスだな」
「ご、50万リタス!?」
俺の社畜時代の一ヶ月の給料よりうんと高い。それを数十分で稼げてしまったことに驚きだ。
しかしそれが適正価格なんざろう、ショウは平然と麻袋を受け取った。
「ありがと、主任さん!じゃあハイ、シーナ、コレね!」
「え?あ、あぁ」
金額にしばし驚いていたが、ショウの言葉で我に返る。ショウは俺に向かって麻袋を差し出していた。
荷物はシーナが持っててね、という意味かと思って麻袋を受け取るが、ショウはあっけらかんと言い放った。
「あ、もちろん全部シーナが好きに使っていいからね」
「は?」
「ふだん俺に遠慮して欲しいものとか言わないだろ? それで好きなもの買いなよ!」
「いやいやいや、なんでだよ。お前が倒したんだろ」
どちらかが全部受け取るならショウの方が適当だし、そうでないなら協力して倒したということで半分ずつにすべきだろう。
そもそも今の生活費はショウに出してもらっているのだから、それを補填する意味でも俺が貰うわけにはいかない。
「でもそれはシーナのおかげでしょ?」
「それはそうかもしれないが、俺の生活費は全額お前が出してるんだからお前が受け取るべきだろ」
「いやだから、それは家事と畑の世話で相殺されてるんだって」
「いやいやいや」
「いやいやいや」
……押し問答の末、結局『こんなとこで揉めるな!』と主任に言われてしまい、とりあえず半額ずつ受け取る、ということになった。
ザンさんやアカシアさんにも犯人の護送や被害者救助をしてもらっているので金を渡そうとしたが、それも華麗に断られてしまった。なんでこんな欲のない人ばっかなんだよ。
俺にしてもショウにしても不服そうな顔をしながら、帰途につく。
大金が手に入ったのは嬉しいが、なんだか釈然としない。
そんな俺たちの様子を見て、ザンさんとアカシアさんは可笑しそうに笑った。
「笑い事じゃないんだって。俺、今無職でショウに養われてる状態なんだからな」
そう言ってザンさんの方にジトっとした視線を向ける。後ろからショウの「気にしなくていいって言ってるのに……」という不満げな声が聞こえるが、聞こえないフリだ。
「悪ィ悪ィ、そういやお前、仕事探してるんだったか?」
「あぁ。いつまでもショウの世話になってるわけにはいかないからな。……そうだ、ザンさん、ちょっと聞きたいんだが。この国に冒険者……みたいな職業ってあるのか?」
「冒険者ァ? あぁ……害獣討伐から薬草採取に雑用まで、いろんな仕事を斡旋してる冒険者ギルドってのがあるが、それのことか?」
「そ、それだ!それ!」
あるのか、冒険者ギルドが!
俺は思わず興奮気味にザンさんに答えた。
「え、シーナ冒険者になりたいの?」
「いいですねっ!ワタシも憧れてるんですよ――っ!」
「い、いや、まぁ、ちょっと考えてるだけだけどな……」
まだ獣と戦うのもそんなに慣れてないし、すぐには無理だ。もう少し体力と筋力をつけて、余裕を持って獣と相対できるように準備しておきたい。
「だがこの町にギルドはないぞ。最低でも馬車で片道3日の距離の――隣の隣の隣の街まで行かねェと」
「……と、遠いな」
そういえばこの町は東の果てにあるんだった。気軽に試せそうな職業ではなさそうだ。
それから俺は、ザンさんから詳しい話を聞いた。
冒険者の仕事内容と、そして金のことだ。
なんでも、ギルドの登録料に10万リタスが必要らしい。装備も買い揃える必要があるし、そもそも向こうまでの旅費だって必要だ。初期投資には結構金がかかるだろう。
……とはいえ、俺の所持金はショウに無理矢理握らされた25万リタスのみ。
「うーん……冒険者になる前に、もう少し金を稼いだほうがいいな」
まぁ、先が少し見えただけでありがたい。俺の中で冒険者になるという目標が明確化した。とりあえず体を鍛えつつ金を稼ごう。俺はそう決意した。
するとザンさんが何かを思いついたように手を叩く。
「……ならよォ、ウチでバイトしねェか?」
「あっそうだねっ!丁度いいと思います――っ!」
「バイト?」
聞けば、どうやらこの町の特産物である花がそろそろ開花時期らしく、ザンさんは毎年それを他の街に売りに行っているらしい。それを採取する人手が欲しいんだとか。
「群生地は森の浅い場所だから危険も少ないし、花摘むだけだから難しくもねェし。でも単価は高いから、ワリの良い仕事だと思うぞ!」
「マジか。ぜひやらせてくれ」
条件がいい上に、上司が安心と信頼のザンさんなのだ。これは非常にありがたい。
「これで脱無職だ……!」
俺はぐっと拳を握りしめる。
……まぁ、ただのバイトなんだけどな。それでも己の力で収入を得られるようになったというのはひとつの前進だ。
「ふふ、就職おめでとーございますっ!」
「協力金もあるし、夕飯は豪華にしよっか!」
「大袈裟だな……。お前の豪華飯が食えるのは嬉しいけど」
ただのバイトなのに、大学時代の就職が決まったときみたいに嬉しい。俺は軽い足取りでショウの家に帰った。
……まぁ、夕食中、家計にどれだけバイト料を入れるかで再びショウと大バトルになって、どっと疲れることになったのだが。
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