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それゆけ、孫紹クン! ~孫策(オヤジ)の夢はオレが継ぐ~  作者: 青雲あゆむ
第2章 中華制覇編

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41.豫州への侵攻(2)

建安22年(217年)4月 豫州 潁川郡 陽翟ようたく


 陽翟の郊外に野戦陣地を築いた俺たちは、初回の敵の攻勢をしのいだ。

 その後、夜を徹して陣地の守りを固め、さらにいくつかの見張り台を完成させている。

 そうして待ち受ける我が軍に、夜明けと共に敵が襲い掛かってきた。


「東正面から5千ほどの部隊が接近中」

「東南東から約3千の部隊、接近中」

「北北東からも数千の部隊が迫っています」


 各見張り台から、敵の動きがひっきりなしにもたらされる。

 その報告は俺、周瑜、陸遜の下に集約されたうえで、対応を検討していた。


「とりあえず正面は土壁を盾に防戦。東南東の敵には、呂範に動いてもらおう」

「そうですね。北北東には朱桓の隊を当て、甘寧に奇襲してもらいたいと思いますが、どうですか?」

「ああ、任せる」


 とはいえ、俺はほとんど戦の経験がないので、周瑜と陸遜にお任せだ。

 2人ともメッチャ頭がいいから、怒涛のように押し寄せる情報を見事にさばき、的確な指示を出している。

 そして出された指示は、伝令によって見張り台にもたらされ、そこから軍鼓と旗振りによって、前線部隊に指示が伝えられる。


――ドンドンドン、サッサッサッ


 これは事前に決めてあった、音と旗による符牒ふちょうで、すばやく情報伝達をする仕組みだ。

 それは”○○の部隊は△方面へ移動”とか、”□□は○○の応援に回れ”などの簡単な指示に過ぎない。

 しかし迅速に指示が伝わるので、広範囲の戦闘には都合がいい。


 そして細かい判断は前線の指揮官に委ねられており、それなりに有効に機能していた。

 このシステムは俺がふわっとした案を出したら、周瑜と陸遜を中心に、皆が整えてくれたものだ。

 これのおかげで我が軍は、敵の半数にもかかわらず、大した被害も出さずに戦えている。


 やがて敵は攻め疲れたのか、それともあまりの被害の多さに驚いたのか、兵を退いていった。


「ふう、とりあえずはしのげたみたいだな」

「ええ、しかしこのまま引き下がるとも思えません」

「ですね。今後も手を変え品を変え、攻めてくるでしょう」


 最初の攻勢はなんとかしのいだものの、まだまだ安心するには早いようだ。




 実際、その後の敵の攻撃は、厳しいものだった。

 その日の晩には夜襲があったし、翌日から大規模な攻勢が何度も繰り返された。

 それでも野戦陣地の守りと、効率的な指揮システムによって、俺たちは敵に大きな出血を強いていた。


 そうして粘り強く戦っていると、やがて敵が別の手段に出てくる。


「敵、投石機と共に前進中!」

「とうとう来たか。噂に聞く、霹靂車へきれきしゃってやつだな」

「フフッ、まあ、予想の範囲内ですけどね」


 霹靂車へきれきしゃとは曹操が”官渡の戦い”で、袁紹軍に対して使用したと言われている。

 これは人力の投石機で、数十キロの石を飛ばす能力がある。

 10人以上の人間がテコの片側を一斉に引っ張ることで、石を飛ばす構造だ。


 官渡の戦いでも袁紹側が、土壁や見張り台を築いて優位に戦っていたので、これを破壊するのに役立ったらしい。

 そして今回の戦いも、我が軍は土壁や見張り台を大活用している。

 いずれはそれを破壊する手段を出すと思っていたが、ようやくそれが出てきたわけだ。


 そして曹操軍はその数に任せて、数十もの霹靂車を出してきた。

 やがてそれらが目標を射程に捉えると、次々と石が飛びはじめる。

 それらが命中すれば、人間などはひとたまりもないし、土壁や見張り台もダメージを受ける。


 しかしこちらだって、負けてはいない。


「放てっ!」

「「「おう!」」」


 こちらもこっそりと準備しておいた投石機が、次々と石を飛ばす。

 それはやはり人力の投石機で、西洋ならマンゴネルと呼ばれるものだ。

 どうせ必要になるだろうと思って、龍撃砲と並行して開発させていた。


 その性能は霹靂車に劣るものではなく、むしろ固定式にしている分、有利なほどだった。

 おかげでそれなりの打撃を与えられて、敵の勢いをそぐことに成功する。

 しかし曹操軍も容易には退かず、しばし投石機と白兵によるなぐり合いが続いた。


 結局、何度かの小休止をはさみながら戦闘は続き、その日が暮れていった。


「今日も厳しい戦いだったな。彼我の損害はどうなってる?」

「そうですね……味方の死傷者が現在、8千人に届こうかという状況です。しかしおそらく、敵にはその3から4倍の被害を与えているかと」

「私もその見積もりに賛成です。こちらも苦しいですが、敵はもっと苦しいでしょう」

「う~ん、しかし問題は、兵の補充だな。敵の状況はどうなっている?」


 俺の問いに、陸遜が情報を取り寄せてから、まとめてくれた。


「龐統からの報告によると、敵はすでに周辺で多数の兵を集めているので、これ以上の徴兵は難しいだろうとのことです。おそらく他の州から兵が送られているでしょうが、それには時間が掛かります」

「ああ、そうか。そういう意味では、南陽から兵を呼び寄せられる俺たちの方が、有利そうだな」

「そうですね」


 現状、宛を拠点に龐統が、江東でも魯粛が、それぞれ諜報活動を行っていた。

 俺たちは中原にも伝書バトを持った密偵を潜ませているので、わりとホットな情報を仕入れやすいのだ。


 そして曹操軍は20万人もの兵を集めるため、この豫洲を中心に徴兵を行ったはずだ。

 いかに豫洲の人口が多いとはいえ、無理なく集めるには限界があるだろう。

 そこで他州から兵を送っているはずだが、それには時間が掛かる。


 その点、俺たちは南陽という後背地で、兵を練成中だった。

 なので現在のような消耗戦を続けていても、当面はなんとかなるということだ。

 もちろん長期戦に持ちこまれれば、こちらが不利になる。

 しかしこちらにも、隠し玉が用意してあった。


「よし、例の仕込みが成るまで、敵の消耗を強いる方針を継続だな」

「御意」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 それから半月ほど、俺たちは敵の攻勢に耐えつづけた。

 相変わらず曹操軍は、数にものを言わせて、入れ替わり立ち替わりで攻撃してくる。

 それを俺たちは野戦陣地と指揮の工夫で、なんとか耐えしのいでいた。


 そして敵にも疲れが見えてきた頃……


「敵の一部に、戦場を離れる動きが見られます」

「ふう、ようやくか」

「ええ、どうやら上手くいったようですね」

「フフフ、龐統と魯粛が、やってくれましたか」


 これは何を言ってるかというと、龐統や魯粛が中原で、反乱を起こさせたのだ。

 彼らは情報を集めるだけでなく、中原の反乱分子に連絡をとって、情報と資金を渡していた。

 いかに曹操が中原の覇者といっても、反乱分子がいなくなるはずはない。


 史実でさえ多くの反乱が起きていたのに、それよりも押しこまれた状態ではなおさらだ。

 そしてそれらを示し合わせて、複数箇所で同時に反乱を起こさせたのだ。


 その結果、足元が怪しくなった曹操が、兵を呼び戻したという寸法だ。

 敵がどれだけここに兵を残すかにもよるが、こちらが圧倒的に有利になるだろう。

 この隙にまずは、豫州を攻め取ってやろうじゃないか。

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