38.南陽への侵攻(2)
建安21年(216年)11月 荊州 南陽郡 宛
新野を1週間ほどで落とした俺たちは、早々に南陽の首都である宛へ兵を進めた。
10万近い軍団の圧力によって、途中の育陽と棘陽はあっさりと降伏。
おかげで順調に進んだ我が軍は、早々に宛城を囲んでいた。
「予想どおり、城にこもったな」
「ハハハッ、新野をあんなに早く落とされちゃあ、どうしようもないでしょう」
「だよな~。龍撃砲のおかげで、敵の目論見は崩れっぱなしだろうからな。それにしても若は、どうやってあんなの考えたんです?」
そう言ってはしゃいでるのは、甘寧と呂範だ。
ちなみに龍撃砲というのは、平衡錘投石機のことで、発案者である俺が名付けた。
あれだけの破壊力や轟音を目の当たりにすれば、それを龍の攻撃に見立てても異論はないであろう。
そしてあの攻撃で新野が早々に落ちたため、曹操軍は兵力の集結が間に合わず、城にこもるしかなくなったという寸法だ。
おかげで楽観ムードが漂っているのだが、それを戒める声もあった。
「しかし今回は敵の兵力も多いようだし、曹仁も必死で守るだろう。油断は禁物だぞ」
「ですな。援軍も動いていると聞きますし、ここは慎重にやるべきかと」
そう言ったのは周瑜と陸遜。
孫呉でも一二を争う智将たちである。
ちなみにゲームとかで同じ軍師系に位置づけられる呂蒙クンは、江東の守りを指揮しているので、ここにはいない。
そして2人の言うことには、俺も賛成だった。
「周瑜や陸遜の言うとおりだ。敵はあの曹操軍だからな。そうそう簡単に勝たせてはくれないだろう。全員、気を引き締めてかかってくれ」
「「「おうっ!」」」
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そして攻城戦に取り掛かったのだが、やはり一筋縄ではいかなかった。
今回も大軍で城を包囲し、圧力を掛けているうちに龍撃砲を組み立てようとする。
最初は思惑どおりに進みそうだったのだが、途中から敵が騎兵隊を繰り出してきた。
その数はさほど多くなかったが、奇襲をくらったおかげでけっこうな損害が出てしまう。
おまけにそれに合わせて、城内からも兵が出てきたため、さらに出血が広がったのだ。
おかげで龍撃砲を組み立てるような余裕を作れず、戦線は膠着していた。
「まいったな。しっかり対策を立てられている」
「ええ、あらかじめ騎兵を分散させていたようですね」
「おまけに騎兵を率いていたのは、ありゃ張遼じゃないか?」
「はい、噂にたがわぬ戦いぶりです」
今回、騎兵が出てきたのは、城外にあらかじめ分散されていたからだ。
しかもそれを率いていたのが、名将として名高い張遼らしい。
どうやら曹操もけっこうな危機感を持って、南陽の守りを固めていたようだ。
しかし俺にだって、頼りがいのある味方はいるのだ。
「今日のところは敵にしてやられたが、このままやられっぱなしじゃあ、ないよな?」
そう言って周瑜に目を向けると、彼がニヤリと笑った。
「もちろんです。今日は意表を突かれましたが、敵のやりようが分かれば対処はできます。なあ、陸遜」
「ええ、監視網を張り巡らせたうえで、敵を早期に発見し、こちらも騎兵をぶつけてやればいいのです。そのための計画は、すでにできております」
「さすがは周瑜と陸遜だな。それじゃあ、こっちの騎兵は、アレを使うとするか」
「おっ、なら俺の出番だな。腕が鳴るぜ」
「ああ、頼むぞ、甘寧」
アレとは鐙のことで、まだ一部の精鋭部隊にしか採用していない。
数が揃ってないのもあるが、無秩序に使用すると、その存在が敵にばれやすくなるからだ。
そこで精鋭部隊にのみ採用して、いざという時の切り札に使うつもりでいた。
その部隊の指揮を執るのが甘寧なので、彼が張りきっているというわけだ。
こうして初日は敵に遅れを取ったものの、士気は高いままに軍議を終えた。
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グッドモーニング、エブリバディ。
孫紹クンだよ。
翌日も朝早くから、宛城の攻略が始まった。
ただし今日は昨日よりも慎重に、敵の奇襲に注意しながら部隊を展開している。
やがてその甲斐あって、こちらの監視網に敵が引っかかった。
「西南西から敵、騎兵隊が接近!」
「よし、西側の守りを固めて、甘寧を向かわせるんだ」
「はっ」
西南西に潜ませていた偵察兵から、狼煙が上げられた。
すかさず我が軍は西の守りを固め、甘寧の部隊を差し向ける。
おかげでそちらの被害はほとんどなかったのだが……
「北西からも狼煙が上がりました」
「チッ、敵もいろいろ考えてるな」
「そうですね。しかしまあ、それも想定のうちですよ」
「さすがは周瑜だな。ま、あせらずにやろう」
「御意」
さすが、敵もさるもの。
時間差をつけて、騎兵隊を繰り出してきやがった。
しかしこちらも、ある程度はそれを想定して、備えをしてある。
「敵騎兵隊、後退したようです。味方の損害は軽微」
「ふむ、強弩部隊が役立ったようですな」
「ああ、このための切り札だからな」
敵の奇襲を受けそうな部隊には、強弩を集団で運用する部隊を配置してあった。
この強弩は威力が強いだけでなく、テコの原理を応用して弦を引きやすくした新型だ。
曹操軍の誇る騎兵隊に対抗するため、もう何年も前から研究していたので、それなりの完成度に仕上がっている。
もっとも生産性はお世辞にもいいとは言えず、まだ数が少ないのが難点だ。
それでも敵の騎兵攻撃の阻止には役立ったようで、昨日のような損害は出ていない。
そして甘寧の方も、たしかな手応えを感じているようだ。
「やれやれ、今回は敵にかき回されちまったぜ」
「お疲れさん、甘寧。それでもちゃっかり損害は与えたんだろ?」
「ええ、まあ。なにしろアレを使ってますからね。多少は敵を用心深くさせるぐらいは、できたんじゃないすかね」
「それで十分だ」
敵にはまんまと逃げられたが、それなりの損害は与えたらしい。
多少でも敵の動きを牽制できるなら、決して無駄ではないだろう。
「それにしても、さすがは曹操軍。いろいろ考えてるな。中原を制しただけはある」
「ですな。しかしまあ、これ以上、好きにはさせませんよ」
「ああ、頼んだぞ、みんな」
敵は強大だが、俺にも頼もしい味方がいる。
この調子でさっさと、南陽を制圧したいものである。




