36.孫紹、呉王になる
建安21年(216年)8月 荊州 南郡 襄陽
曹操と劉備が王になったので、俺も呉王になることにした。
しかしこういうのには手順がいるもので、その辺は周瑜が根回ししてくれた。
彼は支配下の郡太守や重臣を抱きこみ、俺に王になってほしいという、嘆願書を出させたのだ。
この辺、臣下団もノリノリだったようで、話はトントン拍子に進む。
そして俺は表向き、恐れ多いということで3回ほど断ったうえで、やむなく受け入れるふりをした。
めんどくさいけど、徳の高さを示すには仕方ないのだ。
かくして呉王に就任した俺は、じゃんじゃんと臣下に役職を与えることとなる。
主な顔ぶれとしては、こんなところだ。
【文官】
孫権:太傅
張昭:丞相
諸葛瑾:司空
魯粛:太尉
顧雍:司徒
尚郎:太常
劉巴:大司農
孫郎:益州牧
孫瑜:荊州牧
孫皎:交州牧
【武官】
周瑜:大司馬
黄忠:前将軍
黄蓋:後将軍
韓当:左将軍
朱治:右将軍
蒋欽:安東将軍
厳顔:安西将軍
呂範:安南将軍
賀斉:安北将軍
周泰:征南将軍
甘寧:征北将軍
呂蒙:征東将軍
陸遜:征西将軍
魏延:鎮東将軍
朱桓:鎮南将軍
孫韶:鎮北将軍
凌統:鎮西将軍
まず孫権を太傅に任命し、俺の後見役兼、ナンバー2的位置づけにした。
そして張昭を丞相にして、政務全般を任せる。
周瑜は大司馬として軍のトップに据え、中原への侵攻指揮を任せることになる。
ちなみにここに程普の名前がないが、彼はそれまで敵対気味であったことから、自ら身を引いた。
俺としてはそんなわだかまりはないんだが、すでに66歳なのもあって、引退を認めた形である。
史実だと今年、死んでるしな。
死んでるといえば孫瑜や甘寧もそうなんだが、歴史が変わっているせいか、それとも張機医師のおかげか、生きながらえている。
周瑜もまだまだ元気だから、この世界の孫呉は相当に強力だ。
その力をもって、なんとか中原を制圧したいものである。
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建安21年(216年)9月 荊州 南郡 襄陽
呉王就任による熱狂も治まってくると、いよいよ中原への進出が現実味を帯びてくる。
俺は襄陽に主な武官を集めると、侵攻案について話し合った。
「いよいよ中原に打って出るつもりだが、皆の存念を聞いておきたいと思う。まずは周瑜の方から、侵攻案を説明してくれ」
「かしこまりました」
俺の指示に従い、周瑜が中華全土の簡易な地図を取り出し、説明を始める。
ちなみに俺は当主、しかも呉王となったからには、臣下に敬語も使えない。
いまだに慣れないが、当主らしい振る舞いをしようと、模索しているところだ。
まあ、そのうち慣れるだろう。
「基本的に我が軍の主力は、この襄陽から南陽へ打って出る。それと同時に益州の劉備からも兵を出してもらい、涼州の軍閥と共に、関中を攻略させる。逆に江東では守りに徹し、敵の兵力を引きつける方針だ」
すると呂蒙が口を開く。
「江東で守るだけでは、敵を十分には引きつけられないのではありませんか?」
「そのとおりだ。そこで江東では挑発をしつつ、敵を引きこむような作戦を展開したい。その指揮は呂蒙どのにお願いしたいと思うが、いかがかな?」
「フハハッ、それこそ我が本懐。この呂蒙、謹んでその役目、受けさせてもらいましょう」
「うむ、頼んだぞ」
江東方面の司令官が決まると、今度は甘寧が楽しそうに訊ねた。
「フヘヘ、それで南陽は、どうやって攻略するんですかい?」
「それはもちろん、淯水を遡上して宛を目指す」
「へえ……だけど新野だって、けっこう強化されてるんでしょ?」
「ああ、決して楽ではないだろうな。しかし我らには、あれがあるからな」
「あれですか。まったく孫紹さまは、いろいろ考えつきますね」
「そうだな。おかげで常識はずれの短期間で、攻略はなるだろう。もちろんお前たちの働きしだいではあるが」
「ヘヘ、それは任せてくださいよ」
実は俺が当主代行になってから、いくつかの新兵器を開発していた。
それまでに比べると、とんでもない資金と人材を投入しているので、すでにいくつか目処がついている。
それが有効に働けば、当面の攻略はたやすいだろう。
ここで陸遜から、当然の質問が上がった。
「出兵規模は、どれぐらいになりましょうか?」
「襄陽から10万、江東で2万、そして劉備が2万を出す予定だ。涼州でも、おそらく1万は集まるだろう」
「「「おおっ」」」
周瑜の回答に、驚きの声が上がる。
数年前は5万人が精一杯だったのに比べると、格段に増えた。
孫呉もずいぶんと大きくなったものだ。
しかし陸遜はいぶかしそうにつぶやく。
「劉備が2万とは、少なすぎるのではありませんか?」
「ああ、それは兵站の都合で、当面は2万に限るということだ。いずれ関中に拠点ができれば、追加で出すそうだ」
「ふむ、たしかに漢中から涼州への道は、険しいと聞きますからな」
「そうだ。韓遂や馬超の協力があれば、それなりの戦力にはなるだろう。劉備も今回は張りきっているそうだからな、曹操軍の一部を引きつけるぐらいにはなるだろうよ」
俺もちょっと少ないとは思ったのだが、漢中から北に出る道は、けっこうな難所なのだ。
史実でもこれが兵站のネックになって、何度もの北伐が失敗している。
今回は涼州の韓遂や馬超が協力してくれることになっているので、ある程度の敵戦力は引きつけられるだろう。
その後もいくつかの質疑応答があって、会議は一段落する。
そこで最後に、俺が声を掛けた。
「敵は強大な曹操軍だが、十分に勝ち目はある。今回は南陽だけでなく、豫州まで手を伸ばしたいと思っている。皆には存分に腕をふるってもらいたい」
「「「おおっ!」」」
こうして俺たちは、中原への侵攻に向け、動きだしたのだ。
 




