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それゆけ、孫紹クン! ~孫策(オヤジ)の夢はオレが継ぐ~  作者: 青雲あゆむ
第2章 中華制覇編

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32.改革の始まり(2)

建安20年(215年)2月 揚州 丹陽郡 建業


「そうして信頼を得ながら、やがては彼らを絡めとることになるでしょうね」

「なんと!」


 まだ子供の俺が、けっこう腹黒い言葉を吐いたことに対し、多くの者がギョッとした顔をする。

 そんな中で、魯粛が興味深そうに話しかけてきた。


「ホホホ、どうやら山越と仲良くするだけでないことにこの魯粛、安心いたしましたぞ」

「もちろん、仲良くするに越したことはありませんが、それだけでは不十分です。まずは友好的な雰囲気を作っておいてから、徐々に我が軍の体制に組みこむべきでしょう」

「ほほう、具体的にはどうされるのですかな?」

「そうですね。まずは山越との間で、不可侵条約を交わします。そのうえで――」


 そう言いながら、俺はやるべきことを紙に書き出した。


1.山越と不可侵条約を結び、彼らが山岳地帯に住むことを認める。

2.血の気の多い連中を中心に、一部を平地へ移住させ、仕事を斡旋あっせんする。

3.適当な場所に交易所を設け、山の産物と穀物を交換する。

4.山に残った者を部族の有力者に統治させ、血縁化・従属化を進める。

5.条約を結んだ部族には、他部族との仲介をしてもらう。


 まずは部族を分断して、反乱させにくくしたうえで、交易で食料の供給元を掌握する。

 さらに有力者を官吏として取り立て、部族を恩恵と血縁関係で支配させる。

 いずれは各部族を監視する統括官などを置いて、山越全体を体制下に取りこむのだ。


 そんな話を聞いた者の反応は、さまざまだった。

 他人事のように見ている者もあれば、非常に感心している者、逆に俺を恐ろしそうに見る者などだ。

 やがて魯粛が楽しそうに口を開いた。


「さすがですな。先のことを見据えた、よい計略だと思います。一見、山越に甘いようでいて、いずれは絡め取ろうという辺りが、実に悪辣でよい」

「ですな。次期当主どのが、ちゃんと現実を見据えておられるようで、安心いたしました」

「フハハッ、敵を分断して取りこむなど、実に巧妙ですな。孫紹さまは政治も分かっておられる」


 それに諸葛瑾しょかつきん顧雍こようも、楽しそうに賛同している。

 さすが彼らは政治に詳しいだけあって、俺の狙いがよく理解できるのだろう。


 ちなみにこの策は、史実で諸葛亮が益州南部の異民族を、取りこんだ政策を参考にしている。

 劉備の死後、南征で恭順させた南蛮西南夷なんばんせいなんいを、諸葛亮は巧妙な政策で体制に取りこんでみせた。

 おかげでそれまでひどく反抗的だった異民族が、蜀にとって資源と兵力の供給源に変化したのだ。


 異民族たちにとっては災難だったが、これもまた時代の流れだったのだろう。

 そしてそれを参考にして、山越を抑えることができれば、我が軍にとってのメリットは大きい。

 治安に回す兵力を減らすどころか、逆に兵力として活用できるからだ。

 ここは優秀な者に指揮を執ってもらい、ぜひ成功させたいものだ。


「この件については、魯粛どのに指揮を執ってほしいのですが、いかがでしょうか?」

「かしこまりました。孫紹さまの望み、叶えてみせましょう」

「よろしくお願いします。それで、山越を巻きこみつつ、江東の守りも固めたいと思います」


 すると呂蒙りょもうがそれに反応した。


「守りを固めるだけですか?」

「ええ、長江に沿って、ある程度の領域は確保しますが、それ以上は攻めません」

「なぜでしょうか? 敵は合肥ごうひを中心にして、常にこちらをうかがっています。逆にそれを奪えれば、中原への足がかりになると思いますが」

「合肥を奪うには、相当な戦力が必要になりますよ。それに引き換え、我々が長江を盾に戦えば、逆に効率的に戦えるのです。江東では敵を引きつけておいて、中原には襄陽から攻めのぼるのが、最適でしょう」

「むう……」


 基本的に曹操軍の強みは、騎兵と歩兵の連携にある。

 しかし長江流域には湿地帯が多く、水路も縱橫に走っているので、騎兵は運用しにくく、逆に船で兵力を好きな場所へ投入できるのだ。

 つまり優勢な水軍を持っている方が、戦いの主導権を握りやすい。


 ただしその戦場は限られるし、こちらにも偵察や情報伝達の手段がいる。

 そのための防衛体制の構築を、誰かにやってもらいたかった。


「ということで呂蒙どのには、防衛体制の構築をお願いしたいのですが、いかがでしょうか?」

「む、私にですか? しかし私などはまだ若輩で……」


 呂蒙にその仕事を頼もうと思ったら、彼は程普や黄蓋の方を見ながら遠慮する。

 たしかにすでに60歳を超える武将もいる中で、今年38歳の呂蒙を責任者にするのは、少し抵抗があるかもしれない。

 しかし彼は歴史にあるように、独学で勉強を重ね、優秀な指揮官に育ちつつあるのだ。


 それに彼は以前から俺に興味を持っていたようなので、味方につけておきたい。

 すると黄蓋がそれを支持してくれた。


「ふむ、呂蒙どのは思慮深いので、そのような仕事に向いているのではないかな。しかし若、我々のような老骨には、仕事をもらえないのですかな?」

「とんでもない。他の皆さんには、先ほど言った豪族の引き締めをやってもらいます。まだまだ引退など、させられませんからね」

「フハハッ、これは厳しい。しかしやりがいはありそうですな」

「そうですね。しかし無理は禁物ですから、具合が悪ければお医者さんへ行ってください。治療費はこちらで持ちますから、他の皆さんも気軽に行ってくださいね」

「おお、それは嬉しいですな。最近、張機ちょうき先生のお弟子さんも、増えているようですからな」


 数年前に南陽から招聘した張機が、着実に弟子を増やしてくれていた。

 おかげで最近は領内に医者が増え、多少は医療環境が良くなっているのだ。

 俺が歴史を変えたこともあるだろうが、周瑜がまだ生きているのには、張機の功績もあると思う。


 そんな話をしていると、張昭から質問が上がる。


「孫紹さま。領内の開発については、どのように考えておられますか?」

「それについてはまず、水路や堤防、港の整備ですね。水運を活発にすると同時に、農地の開発もできます。さらに連絡網の整備も、早急に進めましょう」

「連絡網と言いますと、早舟ですか?」

「それもありますが、伝書バトを使います」

「伝書バトというと、孫紹さまが交州から持ち帰った、アレですな」

「ええ、もっと数を増やして、交州や益州とも連絡が取れるようにしたいですね」


 すでにカワラバトの育成には成功しており、建業と襄陽の間で、試験的な連絡に使っていた。

 それを他の重要拠点にも展開し、連絡網を作り上げるのだ。


「ふむ、それは良さそうですな。経済関係はどうなりましょうか?」

「水路や連絡網の整備によって、経済も活性化するでしょう。私たちはそれを支援して、さらなる税収を得たいですね。交州との交易も、もっと増やしたいです」

「そうすると、銭が足りなくなりそうですが」

「ああ、荊州には貨幣政策に詳しい、劉巴りゅうはどのがいます。彼を中心に、貨幣の供給を増やす政策を進めましょう」

「う~む、なるほど。すでにそこまで考えておいででしたか。いずれにしろ、これから忙しくなりますな」

「ええ、やることはいくらでもありますから、人材も募りますよ。皆さんも、がんばってくださいね」


 すると多くの者が、苦笑しながらぼやいた。


「やれやれ、孫紹さまは人使いが荒いようだ」

「まったく。先が思いやられますな」

「当面は楽はできそうにない」

「しかし何やら、楽しそうではあるぞ」

「そりゃあ、中原に打って出ようというんだからな。お前ら、気合い入れろよ」

「ま、やってみますか」


 こうして孫軍閥は、新たな目標にむかって、動きだしたのだ。

ちなみに”江東の2張”の片割れである張紘は、212年ごろに他界してます。

張機を呼んだのが209年末で、荊州中心に活動してたので、彼は恩恵を受けられなかったんです。

しゃあない。

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