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それゆけ、孫紹クン! ~孫策(オヤジ)の夢はオレが継ぐ~  作者: 青雲あゆむ
第1章 実権掌握編

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18.襄陽攻略への布石

建安17年(212年)10月 荊州 南郡 宜城


 周瑜の要請で、俺は援軍を率いて荊州に赴いた。

 襄陽攻略の拠点である宜城に到着すると、さっそくあいさつにいく。


「お久しぶりです、おじ上」

「やあ、孫紹。わざわざ益州から、ご苦労だったな」

「いえ、それほどでも。しかし今回の件、おじ上らしくありませんね」

「フッ、そう言ってくれるな。妙なしがらみが、絡んできてな」


 周瑜が苦笑しながら、事情を説明しはじめた。

 そもそも周瑜は、益州攻めが終わってから、さほど時間をおかずに、襄陽を攻めるつもりだったそうだ。

 しかしそれを孫権に上申したところ、合肥ごうひも一緒に攻めたいと言われてしまう。


 しかも合肥を陽動でなく、襄陽と同等の主目標とされてしまったため、兵力と時間が取られた。

 おかげで曹操に守りを固める暇を与えてしまうわ、こっちは攻略の兵力を減らされてしまうわで、今回の結果に至ったらしい。


「なんでまた、そんな馬鹿な話に? 孫権さまには以前から、江東は守りを固めて、襄陽から討って出るべし、という話をして、納得してもらってましたよね?」

「うむ……どうやら程普どのをはじめとする、諸将に押し切られたらしい。しばし武功を立てていない者も、多いからな」

「ああ、そういうことですか……」


 だいたい想像はついていたが、やはりひどい状況だった。

 実は益州攻めは荊州の人間を中心にしたので、本拠地の揚州で武功を立てていない者が多かったのだ。

 なまじ益州を短期間で、しかも4万程度の兵力で攻略していたため、勘違いする者も多かったのだろう。


 襄陽にしろ合肥にしろ、城ひとつ落とすぐらいなら、楽勝だと考えてしまったようだ。

 結果、戦力を分散して不用意に攻めかかり、無様な結果に終わったというのが真相だった。


「それにしても合肥の方は、敵以上の戦力があったのですよね。それで大敗するとは、何があったのですか?」

「うむ……なまじ優勢なだけに油断があったのだろうな。城を包囲しようとしたところで、張遼ちょうりょうが騎馬隊で出撃してきたそうだ。そのあまりの勢いに押されて痛撃をくらい、右往左往しているところを、曹操の本隊にやられたらしい。噂では、孫権さまの身も危うかったようだぞ」

「う~む、張遼、おそるべしですね」

「ああ、そうだな」


 それは215年の合肥攻めに、似たような状況である。

 史実でも孫権は、10万(実際には5万くらい?)という大軍で、合肥を攻めたという。

 対する曹操軍は7千人しかいないにもかかわらず、曹操の指示で張遼が打って出て、孫権軍を翻弄したのだ。


 退却時に、あわや孫権が討ち取られそうになったって話も、そっくりである。

 これが歴史の修正力というやつか。


「こちらはどうだったんですか?」

「どうもこうも、襄陽ほどの堅城に、3万も兵が入ってるんだ。全く歯が立たなかったよ。ちょっとやそっと誘っても、敵は出てこないしね。益州を取ったすぐ後に、攻められなかったのが痛かった」

「まあ、そうでしょうね」


 そもそも周瑜が指揮を執っているのが明らかな状態で、敵が出てくるはずもないのだ。

 曹操軍は4年ほど前に、ひどい目に遭わされているのだから。


「おじ上のことですから、何か仕込みはしているのでしょう?」

「いや、密偵を忍ばせるぐらいはしているが、大したことはできていない。せいぜい、城内の様子を知るぐらいだな」

「おじ上にしては、消極的ですね。何か問題でも?」

「問題というか、これだけ守りを固められると、何もできんのだ。このままでは一旦、兵を退くしかないと思っている。しかし孫紹なら、何か思いつくのではないかと思い、来てもらったわけだ」


 周瑜はそう言って、意味ありげに笑った。

 どうやら何か企んでいるようだ。


「……おじ上、何を企んでいるのです?」

「企んでいるなどと、人聞きの悪い。ただ少し、君に活躍してもらおうと思ってね」

「それを企んでいるというのです。そもそも私が活躍したと言っても、誰も信じないでしょう?」

「そうでもないさ。君も大きくなって、孫策の面影が強く出てきた。君を支持する者も、多いのではないかな」

「おじ上! それでは孫家を割ることになってしまいますよ。そんなことをお望みなのですか?」


 ちょっと声を荒げて追求したが、周瑜は皮肉そうな笑いを隠さない。


「場合によっては、それもありかもしれないね」

「おじ上!」

「まあ、聞け、孫紹。私もこんなことは言いたくないが、今のままでは、孫家は危うい。領地も人員も増えたが、それが十分に統制できていないからだ。このままではいずれ、曹操に飲みこまれてしまうかもしれない」

「だからといって……」

「君だって、今のままではいけないと思ったから、益州を取ったのだろう? 毒を食らわば皿までだよ。それに孫権さまと、戦いになるとは限らないのだから」

「孫権さまが素直に実権を譲るとは、思えないのですが」

「それは分からないさ。逆にこのままでは、孫紹も幽閉されてしまうかもしれないよ」

「それはたしかに、否定できませんね……」


 実は孫策の従兄弟であった孫賁そんほん孫輔そんほは、曹操の離間の策にはめられていた。

 孫権よりも高位の将軍職を、曹操から与えられたため、その忠誠心を疑われたのだ。

 おかげで孫賁は飼い殺しにされたまま死に、孫輔に至っては幽閉の末に死亡している。


「大丈夫、君をそんなことには、絶対にさせはしない。それにはより多くの勢力を味方につけて、孫家の実権を勝ち取るんだ。そのためにも、協力をしてもらえないか?」

「……分かりました。ただし争いごとは、極力回避する方向でお願いします」

「ああ、私もそのつもりだよ」


 こうして俺は孫朗のみならず、周瑜からも促されて、孫家の実権を握るべく、動きだすことになったのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安17年(212年)10月 荊州 南郡 宜城


 その後、俺は周瑜たちの協力を得て、襄陽について調べまくった。

 密偵から情報を取り寄せたり、庶民のふりをして外から視察もしている。

 おかげでその攻略の難しさを、実感させられていた。


「聞きしに勝る堅城ですね、襄陽は」

「うむ、南北をつなぐ要地であり、荊州の都として栄えてきたからな。城壁は高く、水堀に囲まれているため、どうにも攻めにくい」

「ですね。そうなるとやはり、内から崩すしかありませんか」

「うむ。しかしそんな都合のよい内応者はいないし、密偵にも大したことは期待できんぞ」

「ええ、そうでしょうね。なので少数精鋭の決死隊を、城内に送りこみましょう。あれを使います」

「あれを使うのか……それにしたって、簡単ではないぞ。敵の抵抗もあるだろうから、そう大した人数は送りこめないだろうし」


 あれとは、以前から開発を進めていた秘密兵器だ。

 こんなに早く使うつもりはなかったが、ここが投入のしどころだと思う。


「そうですね。そのためにも、いろいろと陽動作戦を仕掛けます。3方から攻めかかったり、内部で火事を起こしたりとかですね」

「密偵に火事を起こさせるのか? しかし大した数はいないから、大規模なものは難しいぞ」

「それほど大きくなくても、いいんですよ。とにかく敵を混乱させるのが目的ですから。そうして混乱してる間に、決死隊を送りこみましょう。隊長は甘寧かんねいさんに、お願いできますか?」


 俺の要望に、周瑜が少し考える。


「ふむ、いいだろう。彼を建業から呼びよせよう」

「それでは準備が整いしだい、仕掛けます。絶対に襄陽を取りますよ、おじ上」

「ああ、孫紹が言うと、なんだか簡単みたいに聞こえるな」

「簡単などではありませんよ。この方法も、すぐに対策を取られてしまうでしょうからね」

「フッ、そうだな。失敗は許されないのだから、決死の覚悟で取り組むとしよう」

「ええ、その後のことは、また考えましょう」


 こうして襄陽攻略戦の作戦は固まった。

 はたして俺は、それを成し遂げることができるのか。

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