表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/64

12.益州攻めの提案

建安14年(209年)12月 荊州 南郡 江陵


「まずは共同の益州攻めを、劉備に提案してみませんか?」


 俺のその言葉に、出席者の視線が集まる。

 すかさず周瑜が、懸念を口にしてきた。


「仮に提案したとして、劉備がそれを受けるとは限らないぞ」

「そうですね。おそらく劉備は、提案を受けないでしょうね」

「なぜそう思う?」

「劉備にとって益州は、自分の獲物だからですよ。共同で攻略しては、旨味が減ってしまいますよね」


 そう断言すると、龐統ほうとうが反論する。


「別にそうとは限らないだろう。むしろこれ幸いと、話に乗ってくるんじゃないか?」

「いえ、我らの力を借りては、益州を独占できないので、それはしないでしょう。建て前は同じ劉姓だから、攻めるのは忍びないとかなんとか、言うと思います」

「う~ん、それは十分にあり得るな……」


 実際に劉備は、孫権から益州攻めを持ちかけられた時、同じ劉氏を攻めたくないと言って断っている。

 それどころか、孫権が夏口に兵を派遣して、益州攻めの構えを見せると、劉備は長江流域に兵を配置して、通過をはばんだそうだ。

 それが舌の根も乾かぬうちに、自分で益州を取ってしまうのだから、孫権が激怒するのも当然だろう。


 すると今度は蔣琬しょうえんが、俺に問う。


「仮に劉備が断ったとして、奴らはどうするんだ? あいつらだけじゃあ、あまりに兵が足りねえだろう」

「そこは謀略じゃないですか? 例えば劉璋りゅうしょうから救援要請を出させて、味方のふりをして益州に入ります。その後に益州の兵を借りて、上手いこと手なずければ、攻略できるかもしれない」

「う~ん、そんなに上手くいくかぁ?」


 蔣琬が懐疑的な声を上げてるが、実際に史実では上手くやったのだ。

 この世界ではだいぶ勢力が小さいが、やりようはあるだろう。

 ここで周瑜が、その先を問う。


「ふむ、仮に共同攻略を持ちかけて、劉備がそれを断ったとしよう。その場合、我らはどうすべきだと思う?」

「遠慮せずに兵を出せばいいでしょう。ひょっとしたら劉備に邪魔されるかもしれませんが、その時は討ち取ってしまえばいい」

「フフ、相変わらずエグいことを言う。それでは逆に、共同攻略を受け入れたとすればどうする?」

「これも迷わず、共同で兵を進めればいいのです。運よく益州が取れれば、働きに応じて領地を分配し、またしばらく同盟関係が続くだけです」

「ほう、長く続くとは、思わないんだな?」

「続くに越したことはありませんが、期待できるものでもないですよね?」


 逆に問い返せば、周瑜も苦笑を浮かべている。

 やがて彼は表情を改めると、続きを促した。


「それでは仮に益州を攻略するとして、どんなやり方がある?」

「う~ん、私が思うに、ふたつの攻め方があると思います。ひとつは少数精鋭で、敵の本拠を突くこと。もうひとつは大軍をもって、順次、江州から攻め上がることですね」

「ふむ、まあ、そんなところだろうな。しかしどちらにしても、問題は多い」

「ですねぇ。言うはやすし、行うはかたしってやつですよ」


 龐統が2種類の攻略を提案したが、どちらも簡単ではない。

 少数なら敵の本拠に迫るのは容易だろうが、少なすぎれば敵の制圧に手間取る。

 多数なら少々の敵軍には負けないだろうが、すぐに敵に気づかれ、守りを固められてしまう。


 どちらかといえば、少数精鋭による奇襲が良さそうだが、それにしても入念な準備が必要となるだろう。


「いずれにしても、すぐにやれることではないな。まずは益州の内に味方を作り、手引きをしてもらう必要があるだろう」

「それが現実的でしょうな。問題はその準備に、劉備を巻きこむかどうか、ですが」

「う~ん、先ほども言ったように、劉備は乗ってこないと思うんですよね」

「そうだな。だけど決裂しても、奴らは勝手に動くだろう。それぐらいなら、なんとか説得して、益州攻めを有利に運びたいな」

「問題は、どうやってその気にさせるかですね」

「うむ……」


 周瑜、龐統と一緒に頭をひねっていると、蔣琬が口を開いた。


「なあ、ここで悩んでいても、仕方がねえんじゃねえか。まずは腹を割って、話してみちゃあどうだい? 案外、妥協はできると思うんだがな」

「ふむ、その根拠は何かな?」

「俺が調べた限り、武陵が発展してるといっても、しょせん過疎地だ。あそこだけで、益州を攻めるほどの兵力や兵糧、資金を調達するのは、はっきり言って無理だと思う。ならば話の持っていき方で、共闘はできるだろうよ」

「どう、話を持っていくのだ?」


 その周瑜の問いに、蔣琬は少し考えてから答える。


「そうだな……基本的には奴らが自立できるくらいの、領地を分け与えることになるだろうな。その代わり、奴らを矢面に立たせて、同盟の利を得られるようにする。具体的には漢中周辺を任せて、北の守りを固めてもらうってのはどうだ?」

「ほほう……武陵はどうするのだ?」

「もちろん益州のどっかと交換さ。具体的な分配は、奴らの働きしだいだがな」

「ふむ……孫紹はどう思う?」


 さすがは蔣琬。

 天下3分の計の肝を、きっちりと押さえていた。

 こう言われてみると、俺も案外わるくないように思えてきた。

 なまじ前世の記憶があるから、劉備には断られると思いこんでいたが、案外これならいけるのではなかろうか。


「そうですね。蔣琬どのの言うことが、最も現実的かもしれません。我らだけで益州を取るのは、かなり難しいですからね。まずは誘ってみて、もしも断られたら、また考えればよいでしょう」

「うむ、そうだな。いずれにしても、孫権さまの承認は必要だ。蔣琬に説明にいってもらおうと思うのだが、どうだろうか?」

「今日みたいな話でよければ、いくらでもするぜ。一度、秣陵ばつりょうにも、行ってみたいとは思ってたからな」

「ああ、頼む。それではもう少し詳しく、内容を詰めておこうか」


 その後もいくつか話し合って、孫権に説明する話を詰めた。

 そして孫権は今、秣陵で江東の防衛に努めているので、そこへ蔣琬を遣わすこととなる。

 向こうでは魯粛に協力を仰ぐが、無事に孫権の許可が得られるといいな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋戦争の歴史改変モノを読みたかったら、こちらをどうぞ。

未来から吹いた風 ~5人でひっくりかえす太平洋戦争~

現代人が明治にタイムスリップして、歴史をひっくり返すお話です。

― 新着の感想 ―
[気になる点] 武陵って守備任せただけだから代わりに領地渡さなくてよくない?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ