「君は私のモルモットだ」
よろしくお願いします。
「今日から君は、私のモルモットだ」
「それって私がモルモットみたいでかわいいってこと?」
「ん?」
とある男の家のリビングにて。白衣を着た青年と制服姿の少女が対峙していた。
対峙、と言っても少女の方は気の抜けた調子でくぁー、とあくびをしている。頭にちょこんと生えたアホ毛が愛らしい。
「確かに、君が可愛らしいことは認めよう。だが、モルモットとは可愛いという意味ではなく、実験台という意味だ。分かったか?」
「ん! 試食係なら任せてよ〜」
「……はぁ」
彼女は、どこから取り出したのかドーナツを頬張りながら、グッと親指を立ててサムズアップしていた。
これは、ひょんなことから出会った少年科学者と家出系モルモットJKが織りなす、恋の経過観察である。
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「う〜ん、今日はどうやって食い繋ぐか……」
私、朝比奈楓は、いわゆる家出女子だ。毎日違う場所で寝て、お金がなく、不定期にしか食事は取れない。
私は制服姿のまま家を飛び出したことをかなり後悔している。夜中に歩き回れば、確実に補導される上、今いる地域の学校ではないため、他の人たちから好奇の視線を向けられる。すでに県境は跨いでいるのだ。
私は、今日の日銭を稼ぐために、日給制の単発バイトを探すことにした。
「う〜ん、いいのが無い……」
こちらは家出をしている身。贅沢など言ってられないが、如何せん良いのが無い。給料があまりに安かったり、労働時間が極端に長かったり、かなりの重労働だったり。どうせまだ家出生活は続く。重労働などしていたら、体力がいくらあっても足りない。
「どうしよう……ってわっ、すみません!」
「あ、あぁ。大丈夫だよ」
私は考え事に夢中になっていて、誰かにぶつかってしまったようだ。私が頭を下げていると、不思議そうな声が降ってきた。
「あれ、君の制服、神城高のところのだよね……? ここから結構な距離があると思うけど……」
「あ、はい。そうなんです。実は……」
私がぶつかったのは、どうやら理系っぽい学生だった。背が高くてモデルさんみたいだ。私は、彼に事情を説明した。家出したことやお金がないことに、いいバイトが見つからないこと。私可哀想でしょアピールはイタイと思われるかもしれないが、今日の寝床と明日の朝ご飯の方が重要だ。
「……ふむ。そんな事情を抱えていては、警察も行けませんよね。どうです? うちに寄っていきますか? 流石にここで見捨てるというのは良心が痛みますし」
「本当ですか! ありがとうございます! ぜひお願いしますっ!」
私は、思いがけない幸運と優しいお兄さんに感謝しつつ、彼の後をついていくのだった。
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女子高生を拾った。
こういうと聞こえが悪いが、要は人助けだ。たまたま研究室のインスタント麺のストックが切れたので、買い出しに来ていた。そこで、神城高校という、超名門校の制服を着た少女に出会ったのだ。家出をしてきたらしいが、無計画だったらしい。俺はこれを僥倖と捉え、とある実験を手伝ってもらうつもりでいる。
「おっと、そういえば自己紹介してなかった。俺は水樹涼太。高校2年だ。よろしく」
「えっと、私は朝比奈楓! カエデって呼んでね。お手伝いして欲しいことがあったら言ってね。お世話になりっぱなしは悪いからね。よろしくお願いします!」
彼女が右手を差し出してきたので、握手する。彼女の手は柔らかくていい匂いがした。まさに女の子、って感じがして、すぐに手を引っ込めたことを少し後悔している。
「ついたぞ。ここだ」
「わーお。立派なおうち。ここに1人で住んでるの?」
「あぁ、そうだ」
数分後に到着した俺の家は一軒家。1人で暮らすにはあまりある。俺はコンビニの袋を片手に玄関の鍵を開ける。
「よし。入っていいぞ」
「お邪魔しまーす」
俺はすぐに電気をつけてお茶の準備をする。といっても、冷蔵庫で冷やしていただけの麦茶だが。
「あ、荷物はその辺にまとめてくれてていいぞ。どうせスペースは余ってるんだしな」
「分かった。ありがとね」
「ところで、どうして初対面なのに家に来るかと言われて、何か疑わないのか? 普通怪しいと思うだろうが……」
「えーっとね、君が信用できそうだった、っていうのが一つ。一応名門校に通ってたんだけど、そこで人の目を見て大体の信用度を測れるようになったんだ。リョウタくんがいい人って、分かったから」
「ふむ、興味深い能力だな……」
「逆に聞くけど、どうして私にあんな提案をしたの? リョウタくんにメリットは無さそうだけど……」
「ははは、それはだね……」
俺は一度席を立ち、クローゼットから白衣を取り出す。実は、俺には人生で一度行ってみたい言葉がある。
「おぉ、科学者さんみたーい!」
「その通り、俺は科学者だ。そして……」
「今日から君は、私のモルモットだ」
これだ、人生一度は言ってみたかった。ザ・科学者って感じで好きなんだよなぁ。
「それって私がモルモットみたいでかわいいってこと?」
俺の研究は、早くも難航の兆しを見せていた。
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作者は狂喜乱舞します。