2.梅月
前回から長い期間が空いてしまって申し訳ありません。梅月視点になります。
恋人がいた。誰よりも愛らしく、誰よりも美しかった。私たちは何気ない1日をいつも幸せに暮らしていたと思う。だが、彼の人はある日、私の前から消え去った。
それからの私は壊れたようにずっとその人を探し続けた。そして、ある日、ついに。見つけたのだ。だが、その人は新しい者と暮らしていた。聞けば最近現れた者らしい。
私は彼らが幸せそうに過ごしているのをこっそりと見ているだけで良かった。良かったのだ。
ある日、いつものように彼の屋敷にいくと、燃え殻と化していた。愛しい人は亡くなり、残されたのは小さな輝夜のみだった。あの人は下界に落ち、また戻ってくるのだろう。それがいつになるかは分からないが。
私は、あの人が帰ってきてすぐに私の元に戻ってこれるように幼き輝夜を引き取り、育てることにした。
「輝夜、おいで。私のところに。」
それからは私は輝夜が不自由をしないよう経験の多い女房を手配し、玩具や楽器などを与えた。
幼い輝夜を見ていると今は亡きあの人を思い出し、胸が締め付けられるが、あの人の唯一残した形見だと思い精一杯育てた。
幼かった輝夜も立派に成長し、他の月の住人より一層の美しい輝きを放つようになった。
梅月がいつしか輝夜を今は亡きあの人と重ねて見るようになったのもなんら可笑しいことでは無いだろう。
周りの目には触れさせず女房も最小限に抑え、だが輝夜が不自由をしないように力の限りを尽くした。
ある日、同僚達を呼んで私の屋敷で宴を開くことになった。
雅な舞や琴笛の音色、美しく過ぎ行く時と美味な酒に人々は酔いしれた。
「そういえば梅月、君はとても美しい人を囲っているそうじゃないか。」
酔ったのであろう梅月の友が笑いながら話しかけてきた。ここでむとした顔をすれば余計一層聞かれることになるだろうことは簡単に考えられた。
「いやなに、昔の想い人の連れ子だよ。」
梅月は何でもないように答えた
「1度会わせてはくれないかね。いや、やましい気持ちがある訳ではないのだよ。1度だけでいいんだ。噂の君が必死に隠している美人というものをこの目で拝んでみたいんだ。」
「駄目だよ。僕の宝だ」
はっきりと告げる。梅月は自分のものに他人が触れることを嫌う。そんなことこの友人が知らぬことはないだろうが、今宵は酒の力がこの友の言動を大きくさせたのだろう。
「そ、そうか。それはすまなかったな。あまり気にしないでくれよ。俺も酔ってしまって冗談を言っただけなんだ。」
梅月は笑った。
「そうか。それならいいんだよ。」
私は輝夜の元へと向かった。
輝夜もいつか居なくなるかも知れない。
そうだ。私の元に繋ぎ止めておけばいい。
私の腕の中に収めておかなければ。あの人のように居なくならないように。
「宮様。どうされましたか?」
輝夜はいつものように、静かに書を読んでいた。地に降りていた者が書いたという書だ。
あぁ、そんな物は燃やしてしまわなければ。輝夜を後ろから抱きすくめる。
「宮様っ?......」
輝夜の身体が強ばる。
もがくのでどこかへいかぬようにより一層力を込める。
「宮様っ、、苦しいですっ、、、!」
そうか、苦しいのか。私と同じなのだな。
輝夜を抱く力を少し緩めた。
「宮様どうされたのですか?」
輝夜が相も変わらず可愛らしい顔で見上げてくる。
「お前は私から離れるのか?なぁ、離れないよな?」
輝夜に問う。
「宮様、何を仰っているのです?何があったのです?」
「は、離してください。宮様怖いです。」
怖い?それはいけない。守らなければ。この小さな子を。
「さぁ輝夜、これを飲むんだ。」
胸から出した小さな陶器の小瓶を輝夜の口に押し付け、中の液体をそそぐ。それははるか昔から伝えられている妙薬だった。
大半が顎をつたい単を濡らすが、少し口に入ったようで、輝夜はこくりと1口飲み込んだ。
「んっ、、、、あっ、、、、」
輝夜は私の腕の中で気を失った。
よろしければブックマーク、感想を頂けるとモチベーションに繋がります!