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自信家  作者: 七宝
2/6

キヨシ

 学校に行くと俺の席に高峰あやのが座っていた。


「昨日断っただろ。ブスはやだ。無理なもんは無理」


 しまった、つい普段の口調で喋ってしまった。


「その話だけど、私はラブレターなんて書いてないのよ」


 えっ、じゃあ一体誰が⋯⋯


「あなたが貰ったっていうラブレター見せてちょうだい」


 え、そんなのもう捨て⋯⋯いや! 昨日家に帰ってご飯食べてそのままの服で寝たからそのままポケットに入ってるんだった! 俺風呂入らなかったんだ! 汚ぇ!


「はい、これが下駄箱に入ってたんだ」


「ふーん、これが⋯⋯そもそも私はあなたの下駄箱がどこなのかも知らないし、こんなミミズが這ったような弱々しい下手な字書かないわよ」


 誰が何のためにこんなことを⋯⋯


「まあ、よくあるイタズラだと思うわ。私を直接いじめる度胸のないやつが口の悪いアンタを使って嫌がらせをしたのよどうせ」


 なるほど、経験者は語る、か。


「とりあえず解決したんだし、そろそろ椅子返して」


 ずっと高峰あやの座りっぱなし俺立ちっぱなしだったから。


「分かったわ、じゃあね」


 ふう、一難去ってまた一難。あ、違うか。一難去っただけだ。この場合なんて言えばいいんだ? 一件落着か?


『キャーーーーーッ!』


 窓際の方から悲鳴が上がった。何事だ。


「どうした!」


 朝のホームルームを始めようとしていた担任の田端が聞いた。


「キ、キヨシ君が今落ちて⋯⋯」


 なんだと⋯⋯! 今日謝ろうと思ってたのに、もしかして俺のせいで飛び降り自殺を⋯⋯? もし遺書でも書いてあって俺の名前があったら⋯⋯どうする? 一番に見つけてどこかに隠すか? やばい、田端が屋上に走っていった!


 案の定屋上には靴と一緒に遺書と思われるものが置いてあった。筆圧が弱く、汚い字で書かれていたので読みにくかったが、こう読めた。



 タケオくんへ


 僕と一緒に死ね



 ゾッとしたが、同時に安心した。俺のせいで自殺を図ったとは書かれていなかったからだ。


 しかし、このことはすぐにニュースになり大きな騒ぎとなった。警察も来て他の生徒から証言を得ようとしていた。


 みんな口を揃えて俺がキヨシをいじめていたと言った。俺は改心したのに。一日早ければ結果は違っていたはず。どうなるんだ? 俺は。少年院か? 三年生だから少年院はもうないのか? じゃあ刑務所か? 俺はどうすればいいんだ?


「ちょいと待ちなぁ!」


 この声は、高峰あやの! 助けに来てくれたのか!


「キヨシのことはあんた達もいじめてたはずよ。私とフケ子、そしてキヨシの三人を三大ブスと揶揄してたわ!」


 キヨシも三大ブスの一人だったのか! フケ子って誰だ? 高峰しか知らんかった。


「その主犯格がタケオ君なんだね?」


 警察のおじさんが俺に聞いた。どうすればいいか分からない。認めたくないが認めるべきなのか⋯⋯どうすれば。


「そうです! タケオが主犯です!」


 ユウジが俺を裏切った。


「俺のせいにするなよ! お前だってキヨシのこと毎日百発ずつ殴ってたじゃねえか!」


「あれは殴ってたんじゃない! ⋯⋯触診だ!」


 自分だけ逃げようっていうのか!


「お前が悪いんだ!」

「いやお前だ!」

「お前だ!」

「お前だ!」


 ついにはつかみ合いの喧嘩になり、担任が止めに入った。


「お前らはどっちも悪いんだよ! だがな、一番悪いのは俺だ! 昨日まで知りもしなかった! 俺を逮捕してください! それでこいつらのことは許してやってください、お願いします!」


 自分を犠牲にする担任の田端。


「許してって言われてもねぇ、それを決めるのは僕じゃないしねぇ⋯⋯」


 警察官は困っている。


 とりあえず俺やユウジも含めて生徒は帰ることになった。また後で家に警察が来るそうだ。ノイローゼになっちまうよ。


 帰り道で一人の女子に話しかけられた。


「タケオ君、ちょっといい?」


 この子は確か⋯⋯そうだ、さっきキヨシが落ちてきた時に叫んでた藤野なんとかだ。名前なんだっけか。


「キヨシ君、落ちてる時笑いながら『ざまあみろ』って言ってたの」


「え、なんでそれを俺に言うの⋯⋯怖いじゃん」


 性格悪いわ、わざわざこんなこと言いに来るなんて。


「私だって怖いのよ。だから誰かに話さないと辛いの。そもそもアンタがいじめなかったらこんなことにはならなかったんだから、アンタが悪いのよ。話はこれだけよ、じゃあね」


 何だろうか、心臓がとてつもなく痛い。俺は恐怖しているというのか、キヨシごときに⋯⋯

 

「ごめんくださーい!」


「石田さーん! 息子さんのことで思うことはありますかー?」

 

 家に帰ると記者がたくさんいた。家の戸全てに鍵がかかっている。家族は無事なようだ。


「あ! タケオ君! キヨシ君のこと、なんとも思わないんですか? ぜひインタビューに答えていただきたく⋯⋯」


 こんなものに付き合っている暇はない。玄関は記者が多すぎて入れない、勝手口から入ろう。

 俺は持っていた鍵で家の中に入った。

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