江戸時代・バロック・闇金
毎度、馬鹿馬鹿しい噺を一つ。
ちょいとイヤらしい話をするようですが、今日は、おカネがテーマです。
皆さんは、トイチとか、カラス金とかいう言葉をご存知でしょうか? 念の為にご説明いたしますと、トイチとは十日で一割の利子が付く融資のこと、カラス金とは、朝に借りて夕方に返す、または夕方に借りて朝に返すという形態の貸金業者のことでございます。どちらも江戸の庶民には馴染み深いものでした。
たとえば、行商人の染兵衛さんが、朝にカラス金から百文を借りました。染兵衛さんは、借りた百文を懐に市場へ行き、卸値で野菜を仕入れ、天秤棒を担いで町内を売り歩きます。
「かぶら~、かぶら。にんじん、ごぼうもあるよ~」
「にんじん一つおくれ」
「へい、まいどあり~」
日が暮れる頃には、染兵衛さんのカゴは空になり、前掛けのどんぶりには百三十文の売り上げが貯まりました。染兵衛さんは、そこから元本の百文と利子の十文をカラス金に返したので、その夜の染兵衛さんの懐は二十文残りました。
とまぁ、こんな具合にうまくいけばよろしいのですが、現代の感覚からすれば、いささかトイチは高金利でございます。貸金業者としては、立派な闇金でしょう。
もしも染兵衛さんが夕方に返さなかったらどうなるか、ちょいと計算してみましょう。
カラスがカァと鳴くたびに十パーセントの利子が発生するとして、借りた日の夕方に十文、二日目の朝に二十一文、同じ日の夕方には三十三文に膨れ上がります。こうなると、たとえ二日で野菜を売り切ったとしても、まだ三文足りないということになりますから、商いはあがったりでございます。
それでは、返せないとどうなるか? もちろん、コワーイお兄さんがやってきます。
「やい、染兵衛。貸した金、耳を揃えて返してもらおうか」
「許してくだせぇ。あっしの手元には、もう鐚一文もないだよ」
「よーし、わかった。それじゃ、身体で払ってもらうまでだな。おい、子分ども。その女を連れて行け」
「ひいぃ。それだけは、ご勘弁を~」
ドラマなら、このあとに御隠居が登場し、印籠を見せて一件落着するところでしょうか。そこへ至るストーリーとしては、庶民がカラス金に手を出さねば生計が成り立たないのは、悪代官が法外な年貢を搾り取っているからだと判明し、屋敷の地下から埋蔵金が出てくるといった具合でしょう。
さて。江戸の闇金についてお話ししましたが、バロック華やかなりし太洋の西側でも、おカネをテーマとした喜劇がございますね。そう、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」です。
期限までに返せなかった場合は肉一ポンドという約束が出てきますが、はたしてシャイロックは、四百五十三グラムの人肉を得て、何に使うつもりだったのでしょうね。ひふみん教授は、どう思われますか?
「バロックは対称美に反する。そもそも論として、三題噺というのが気に入らないね。三拍子、三々七拍子、三々九度、三本締め。なぜ奇数を多用するのか、理解に苦しむ」
相変わらずのようですね。聞く相手を間違えたかもしれません。今度、日を改めて三段論法について質問してみましょう。
以上、江戸時代・バロック・闇金の三題噺でした。おあとがよろしいようで。




