女子になって、自覚する
全然進んでなくて申し訳ないです。筆者からしても書きたいところへが遠くて遠くて……
とまあ、事の顛末はわかっていただけただろうか。
このようにして妹ー優希ーの体の中には僕が入っているわけだ。それが中学校卒業式後に起きた事件。
そうして僕はーああ、一人称では一応、僕のままにさせてもらうー優希として生きていくことになった。つい数時間前の出来事何だ。その時、確かに僕は覚悟を決めた。優希として生きていく覚悟を。でも、すいません。僕、すでに心が折れそうです。
あの後、二人で家に帰った僕たちは、旅行に出発するまでのわずかな時間を使って、詳細な打ち合わせを行った。
そこで決まったのが、「旅行前の時間を使って、どうしてもバレたくないものを処分する」ことだ。今後はお互いの部屋は入れ替わるわけで、こうなってしまったらプライベートなんてないようなもの。それでも、どうしても知られたくないものだけは移動したり、処分したりする。
それがお互いにとって必要だったこと。それから交友関係なんかの情報交換。こちらは幸いにして、中学校卒業のタイミングだったため長くは続かなかった。僕は元々友達は少ない方だっしね。優希にしても、高校に進む予定だったのは全寮制女子高校。同じ高校に行く女子もいないため、そこまで伝えるべき内容は多くなかった。
ただ、問題はその後だった。優希から女子としてのあり方をいろいろと文句を言われたためだ。歩き方、話し方、姿勢、服装、髪型etc……
正直、地獄だった。その時は親の呼び出しのおかげでどうにか免れたわけだが、優希は「まだ足りない」と呟いた。うん、もうやめて?はぁ……しかし、今後が不安でしかない。いや、つい数時間前にお前、覚悟を決めたのだろうと言われれば何も言い返せないのだが。
まあ兎にも角にも、そんなこんなで今、旅行先にいるのである。
旅行先はー東京。
摩天楼が立ち並ぶ東京都心。
かと思えば突然現れる緑地。
歴史溢れる寺社に城郭。
溢れんばかりの人。
普段とは違ったその街に来ている。女子、それも客観的にて美少女の姿で。
だからこそか、ある程度は予想されうる事態だったかもしれない。。ナンパされることは。
え?家族はどうしたって?はぐれましたけど、何か?
いやいや、あんなに人がいたら仕方がないでしょう。今の時代、一人一台以上のスマホを持っているのだから、連絡は取れる。各自適当に観光をして、一時間後に集合しようと言う話になったのだった。
なんて、現実逃避をしていたわけだけれども、まさに現実の危機は迫っていて。
「ねえ、君一人?俺たちと遊ばない?」
しかしこんな典型的なナンパ師が実在していたのかと思うと、少し感動する。おっと、いけない、いけない。半ば現実逃避したかのように思考の海へと潜ってしまうのは僕の悪い癖だ。それであんなことになったのだから。
「すいません。待ち合わせしている人がいるので」
はっきりと、お断りの言葉を告げる。それでもできるだけ角が立たないように。
「いいじゃん、遊ぼうよー」
しつこい。女子中学生を複数で取り囲む、なんて犯罪的な図柄だ。僕を囲んでいるのは大学生風の若者が三人。顔は……まあ良くもなく悪くものなくだろうか。確かに声をかけ慣れているのか、遊び慣れているのか、そのような雰囲気が感じ取れる。
とは言え、良くある小説の典型のように、僕から手をあげるわけにもいかない。過剰防衛だろうし、そもそも僕は武術の心得はない。手を出したら途端、やり返されておしまいだろう。
「ですから、すいません。家族と合う約束がありますから」
できるだけ相手を刺激しないような言い方を心がける。小説や映画、アニメの世界と違うのは向こうも同じ。丁寧に断っておけば、そうそう手は出してこないはず。こんな都心の、人通りの多いところで、女子学生に手を出すリスクは高すぎるだろう。遊び慣れていそうな彼らなら、そんなことはしないはずだ。
「少しくらい遅れても大丈夫だって、ね?」
優しさを装いながら僕の方に手を伸ばす。
ひっ……
背中に言いようのない不快感が走る。
怖い。
力では勝てない相手が、僕に手を伸ばしてきた。
咄嗟に声が出てしまう。
「やめてください!!」
その声は先ほどまでとは打って変わって、迫真なものだったからか、或いは単に声が大きくなってしまったからか。
とは言え幸か不幸か、ナンパの男たちは一瞬怯み、周りの注目が集まる。
少しの間が生まれる。
男たちは何やら興の削がれたような顔をしていう。
「ああ、悪かったよ。じゃあな」
そうして、彼らは立ち去って行った。
勿論、残る僕にも人々の好奇の視線は注がれたままだ。僕は赤面を隠すように俯きながら、早足でその場を立ち去った。
しかし、あの時の僕は冷静ではなかった。結果的に上手くあの状況から逃れられたとはいえ、もっと冷静にいるべきだったように思う。それにあの男たちも害意があって手を伸ばしたわけではなさそうだった。あれでは過剰反応だ。
ただ大切なのは、どうしてあの状況で思わず声が出てしまったのかということ。普通の女子ならどうだっただろう。それはわからなけれど、少なくとも僕は、僕の精神は今まで十数年間男として生きてきたものだ。今までの僕なら、あの状況で声を挙げていただろうか。あんな状況にはならないだろというツッコミは無視して、答えは否だ。あのような時に声を上げるタイプではなかったはずだ。
僕の精神が、優希の肉体に引っ張られている……?