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いないいない、ばぁ。



読者様の意見がとても気になるタイプです。

酷評でかまいません。ツマンネの一言で結構です。評価とコメントの方、是非お願いします。

もし、協力していただけるなら、どこがおもしろく、どこがつまらないか、詳しく教えていただけると大変ありがたいです。よろしくお願いします。










書斎風の部屋で、机に向かい本を読む初老の男。

ギィ。扉の開く音。男、振り返る。そこには顔の無い青年が。

「どうしました」

男が問いかける。青年、扉の辺りで立ち止まったまま、無言。

「まぁ、とりあえずお入りになってください。さ。こちらの椅子にどうぞ」

男が椅子を勧め、青年はおずおずと椅子に向かい、座る。男と青年が向かい合う形に。青年、尚も無言。俯いている。男が話しかける。

「変わっていますね。目と口が無い。耳はあるんですね。お話は通じるようで幸いです」

青年、顔を上げる。男はそれをイエスのサインと受け取る。

「顔の無いあなたが私のところにわざわざ訪ねてきてくださった。目が無いのでなかなか難儀だったでしょう。口も無いので道を尋ねるわけにもいかないし」

青年、何度も頷く。少し身体を前に乗り出す。男が話を続ける。

「そんな苦労をしてでも来て頂いたということは、相当お困りのようですな。一体どうしたんですか?」

青年、興奮気味に、自分の顔を何度も指差す。男は了解する。

「は。顔が無い事にお困りなんですね。そうですね。目や口がないと不便でしょうと、私もさっき申し上げたばかりでした」

青年、頷く。

「しかし、顔が無いと一口に言いましても色々あるのです。生まれつきのっぺらぼうの方もいらっしゃいますし。あなたはそうではないようですね。今朝目が覚めたら顔が無かった。いや、目が無いのですから目は覚めませんね。失礼しました。朝起きてみたら顔が無かった。という事ですね」

青年、イライラした様子。机の上にメモ用紙が置いてあるのを見つけ、何枚かちぎる。同様に置いてあったペンを取り、メモに殴り書きをする。男がそれを見る。

『なんでこんなことに、なおるのか』

男、青年を見る。青年は少し震えている。男は答える。

「なんでこんなことに。それは、正直解りません。生物学的にも物理学的にもありえないことです。人間の器官の一部が一夜のうちに無くなってしまうなんてことは。ちなみに、様々なケースが報告されています。口と目が無くなった、口と耳と鼻が無くなった、口と目と鼻が無くなった、口と目と耳と鼻がなくなった等々。今のところ、口が無くなるのは共通しているようですが」

男、口に人差し指をあてる。(喋るな)

「一度、口の無い方の唇にあたる部分を切開してみました。中には何も無かった。口腔が無かったんです。ごく正常な肉がありました。で、これはレントゲン検査の結果ですが、発声器官も無くなっていた。そんな器官は最初から無かったように。」

青年は大量に汗を流し、ガタガタと震えている。痙攣が始まっている。椅子から転げ落ちた。小刻みに震えながら、たまに大きく脈打つように痙攣している。両手で両耳を押さえていた。(聞きたくない)

男はそれをちらりと見、目を反らした。(見たくもない)

「で、治るのか、という事ですが。結論から申し上げます。治りません。というか、治すべき部分がありません。口も目も鼻も、最初からそんな器官は無かったようになっている。一夜の内にあなたは、口と目と鼻のない普通の人間になったという事です。もっとも」

ふいに、青年の顔から鼻が無くなった。息が出来なくなり、苦しみ始める。声を出す為の口のない青年はあくまで静かに、前衛的なダンスを踊るように痙攣しながら苦しみもがいた。耳から大量の黒い血液と、リンパ液と思われる透明な液が溢れ出してきた。しばらくして、青年はひとつ大きな痙攣をし、動かなくなった。

部屋に異臭が立ち込めた。男は鼻をつまんだ。(臭い)

静かになったので、男は話を続ける。

「もっとも、口の無いあなたは食事を摂取する事が出来ず、点滴による栄養補給に頼ることになったでしょう。が、今しがた鼻が無くなり、呼吸が出来なくなった。きっと、肺も無くなっていたでしょうから、人工呼吸器も通用しなかったでしょう」

男は手馴れた様子で、動かなくなった青年の姿勢を整え、青年の手を取り合掌させた。

男がつぶやいた。

「どうしてこんなことに」

男の目から涙が溢れてきた。

人類の終わりを確信していた。

男は両手で顔を覆った。(いない、いない)


ばぁ。




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