雨に溶けた補助線
「いやぁ、良い情報だったよ。お蔭でこっちは助かった。はい、コレ。ボーナスだから」
男の耳を舐め上げるような声が甦る。白髪交じりの男はそう言って、宮川にぶ厚い茶封筒を差し出した。宮川はそれで中古のシーマを買った。
息をするのが辛い。身体中に痛みが走っていた。頬を突く雨は微温くこそばゆい。宮川はゆっくりと瞼を開けた。全てがモザイク柄に滲んでいた。暗いのだけは判った。
シーマが潰れたのが判った。雨降る国道を飛ばして、ガードレールに衝突していた。濡れて闇に溶けたアスファルトを思い出した。ヘッドライトで照らすも、闇しか見えなかった。
カネが欲しかった。配達員をしている宮川に、白髪交じりの男は相当の対価を支払った。世帯の家族構成や転居先、配達物数でも貰えた。宮川はそれをクルマのための貯金にした。
「内畑町の伊藤明彦さんをご存知ですか?」
ジャーナリストが尋ねてきた。伊藤は宮川の配達地域に住んでいる、土地持ちの独居老人だった。今は、その土地はマンション建設予定地となっている。
「一年前から行方不明なのですけれども」
白髪交じりの男の耳をざらりと擦るような高笑い声を思い出し、宮川は身体を震わせた。男は行政書士や不動産の資格を持っている。土地の転売、保険金詐取。茶封筒の厚みはどこから捻出されたのか恐ろしくなった。払拭にアルコールを飲んだが、無意味だった。男を尋ねようとクルマを飛ばした。
もうシーマは動かない。息を吐く度に、喉元が焼けるよう。宮川は身体を動かして外に出た。ここから離れようと、脚を引き摺って歩いた。視界は暗色に滲んでいた。痛みに顔を歪ませると、クラクションが鳴り響いた。視界は一転して白色の光に侵された。
警察は宮川の体内から検出されたアルコールから、飲酒運転による自損事故から逃走を図り、事故に遭ったと処理した。
ジャーナリストは未だ伊藤明彦の身元を捜し追っている。