勇者と魔王
「何でよ!何で私が!何て事してくれてんの!勇者とか意味わんないわよ!」
煌びやかな部屋でやさぐれ感満載の美女が大声で叫んでいた。
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「セラフィア今日は大事な勤めが控えておるのだ、きちんと禊を済ませ祈りの間で瞑想しておけ。」
「はい御爺様、私の体調は万全を超えて今迄に無い程の気力体力魔力霊力どころか神通力すら起こせそうなくらい充実しています。」
私は御爺様にそう答えてから祭壇の間を後にする、朝の祭壇への祈りを済ませたからだこの後禊に集中しなければならない。
「これから禊に入りますので私との連絡は禊が終わる迄お控えください。」
禊の間の控室を守っている教会内衛士に話を通してから控室に入り禊の衣を手に持って扉へ手を掛ける、教会は霊峰アストラル山の麓に建てられており禊の霊水はアストラル山からの枯れない霊脈からの流水が霊水として使われている、禊の衣に着替えてから両手を漱ぎ口と手と体を続けて漱ぎ全身に霊気を浴びながらゆっくりと入水する、肌を刺すような冷たい霊水だが自分の気と霊気が融合して熱を持つ、体から溢れ出る程の膨大な気を内包させてからゆっくりと出て祈りの為の儀式用の衣装を纏い目を伏せ気味に祈りの間を目指しそのまま瞑想に入る、ゆっくりと内包する気を全身に巡らせ体の一部に変え馴染ませ時を待つ。
「セラフィア様祭壇の準備が整いました。」
若い修道女が呼びに来たので祭壇が設えてある禊の間に向かい祭壇の前で祈りを始めて祝詞を口にする、勇者の希望は女で善性でいて強者を自分より強い者をと願うと召喚の渦が現れた。
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私は全てに失望した女神、人間から天に召し上げられ天使となり必死に善聖であれと働き格を上げ私の主神様に認められて女神となった、その後も必死に善性であれと善聖でなければと頑張って来たが・・・今の神界は昔とは違う神様達が人類を善へ導く事に飽いたのだ、それに伴い天使の選別も雑になり働かない天使まで現れたのだ、神の導きを無くした私の管理する星の人類は好き勝手行動しだして暴れまわり始めた、そんな人類を私一人ではどうにも出来ず人類に失望し天使に失望し神に失望し・・・何もする気になれずにいた私の目の前に召喚の渦が現れたのだった。
「魔王討伐の為私の召喚に答えてくださり感謝します勇者様、私の名前はセラフィアと申しますまずはこの儀式の場から移動して頂き落ち着くまで暫し御休息くださいませ。」
私は混乱したまま女官二人に連れられ煌びやかな部屋に移動させられてから徐々に思考が追い付いてきて。
「何でよ!何で私が!何て事してくれてんの!勇者とか意味わんないわよ!」
叫んでからゆっくりと周囲を見回す、長椅子に深く座り直して深呼吸をしてから冷静に考える、あの私を召喚した女は何と言った?魔王討伐?この星は私が管理していた星、魔族は分かるが魔王が居るとは初めて聞いたもし本当に魔王が居るなら把握していなかった自分の管理が不十分だった事になる、『魔王が実在する?』確かめたい衝動が起き行動していた。
「まずは探索魔法か・・・むぅ魔族の生息域に一際強い魔力の持ち主が居るその者の魔力波動が光に近いし・・・行って見るしかないな。」
転移した先には若い男が豪華な椅子に座っていた。
「誰だ!・・・何て定番の言葉を言ってる俺って恰好良い?何て聞いてる場合じゃ無いか失敗失敗・・・やり直しだ!・・・お前は誰だ!我は魔王なるぞ!、ウーンイマイチ迫力に欠けるか。」
声を出している彼に対して私は混乱していた、魔王とは言ったが敵対意識を感じないし言ってる事が良く分からない、そう思って居ると。
「なぁどう思う?威厳を現すのに背後に何か背負うかどうか・・・後光じゃ昔に戻るしな、暗黒のオーラを纏ってる風に見せるとかどうだろう。」
混乱しながらも「私に聞いてるのか?」と返事をしてしまう。
「そりゃそうだろうここには俺達しか居ないんだから、お仲間だろう?何の役柄で来たんだ?まぁ余計な事かも知れんが『神界』の匂いが消せて無いぞ気を付けろ。」
彼は何を言っている?私が女神だと分かるのか?
「匂いとは何だ?どういう事なんだ?」
「だからお仲間だろう?俺は元神だぞ、知ってて来たんじゃないのか?堕天の罰則でかなり力を削がれたがマダマダ人類よりは強いから魔王になってみたんだが・・・する事無くて暇してた所にお前が現れた訳だがお前の役柄は何だ?・・・ってかチョイ待ち、お前堕天の割りにほぼってか一つも力削がれて無い何だそのステータス、普通堕天の時人類化で神域分削られるのに罰則無しってどんなチートだよ心臓に堕天紋刻まれてるんだから降臨じゃないだろうし、何で??」
「わ、私は勝手に召喚されただけで・・・あ・勇者様って言われて・・・魔王討伐とか・・・」
「マテマテマテ!!!許せ許せ!!!この通り見逃してくれ!!!!」
突然椅子から飛び降りて私の足元に土下座しながら泣き言を言い出したのを見て驚きながら答える。
「イヤ、自分が管理を任されていた星に魔王が居た事を把握出来て居なかったので確かめたくて来ただけで・・・討伐とか考えてはいないが、それだけ強くて何故戦わないのか疑問も残るが・・・元神様なんだろうし何もしませんよ。」
何もしないと言った途端椅子に戻りながら言う。
「戦うも何も俺のステータスはどこまで行っても人類の最高峰お前は神の最高峰、裏技で限界突破も持ってるんだが・・・レベルを上げられんのだ、お前自分のステータス確認してみろ。」
言われて自分のステータスを見てみる。
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アリシア・フローレン 18才 女
レベル 1
種族 人間(+女神)
職業 勇者(天職 女神)
称号 元女神
体力 22(+???)
筋力 18(+???)
敏捷 12(+???)
耐性 10(+???)
魔力 33(+???)
魔耐 20(+???)
運 9999(限界突破レベルMAX) (+???)
技能 なし(女神からの引継ぎ技は全て使用可能)
特殊技 ヒロイン願望(女神からの引継ぎ特技は全て使用可能)
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私が自分のステータスを確認しながら絶句してると。
「確認したか、お前のステータスは女神のままなんだ戦ったら一瞬でおれが消し飛ばされる未来が見える、ってか運カンスト+女神分って何だよ!転んだら城を拾うレベルだろ!有り得ねぇよ!体力がどうのとか魔力がどうのとかのレベルじゃねぇだろ、お前が何もしなくても俺が切り掛かったら大怪我させられるレベルだぞ、元神だった俺さえ運は99でカンストなのに・・・そもそも運に限界突破が有るなんて初めて聞いた誰も知らんぞそれお前専用かもな、まぁ元女神様は『ヒロイン願望』なんて可愛い特技をお持ちなようでホンワカしちまったが・・・後はステータス偽装しとけよ、俺じゃ無かったら泡吹いて倒れてるぞ。」
魔王に言われてから徐々に思考が回り始める。
「そ、そうか偽装か・・・ナルホドやってみよう。」
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アリシア 18才 女
レベル 1
種族 人間
職業 薪売り
称号 薄幸の美少女
体力 22
筋力 18
敏捷 12
耐性 10
魔力 33
魔耐 20
運 -99
技能 なし
特殊技 なし
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「これでどうだろうか?」
聞いてから魔王に対して普通に相談してる自分に驚く。
「あ・うん・良いんじゃね・・・そんな事よりお前は俺を倒しに来たんだよな、それおかしいからな俺等は人間共の生息域に何もしてねぇのに何で魔王討伐って事になるんだ?」
魔王が引き気味に答えてきたので。
「私を召喚した女性が魔王討伐の為に勇者を呼んだとか何とか言っていたのだが・・・魔族が人類の天敵として位置付けされてるとか?」
「んなわきゃねぇよ、魔王とか恰好良いから俺等が四天王と共に名乗り始めたのは3年くらい前からだぞどう考えても人間共の悪意満載だろ、ちゃんと調べた方が良いぞ女神が人間共の思惑に踊らされちゃぁ笑うに笑えねぇぞ。」
「エ?たった3年?どういう事?」
「あーそこからか・・・わかった説明してやるよ俺達魔王と四天王は全員元神だ、神界で何もする事が無くなり5神で地上に降りて来たそれで堕天になった、人間より魔族の方が面白そうだったから魔族に擬態して活動している、魔族はトップを力で決める風習があるから年に4回開かれる闘技大会で上位独占して恰好良いから『魔王と四天王』って役職を決めてそのまま君臨中だ、四天王と魔王は持ち回りにしているし俺が魔王になってからまだ4週しかたってないぞ、ちなみに魔王職が一番暇でなりたくない職業不動の第一位だし内輪で楽しんでるだけなのに魔王討伐とかおかしいだろ、アリシアは何も知らな過ぎだ、俺がお前の地上世界での相談役になってやるから了解なら血の盟約を交わそうぜ、バックアップは任せろ。」
「血の盟約?それはなんだ?」
「あぁ、人間とかは裏切るヤロウが多いから血判を押した盟約書で縛るんだよ、まぁお前は女神だから破っても何ともないし簡単に白紙に出来るだろ、だがなこれが後々色々と役に立つんだ、念話とかは一般で飛ばすと感知され盗聴される恐れが有るが仲間として盟約を交わした者同士の念話は誰にも気づかれないから盗聴もされないとかな、分かったらこの盟約用の紙に血判を押せ。」
そう言いながら魔王が紙とナイフをこちらによこした。
「・・・・・・・・・・・」
その後無残に刃先が変形しゴミと化した高そうなナイフだった物が私の手に握られていた。
「・・・・・・・・・・・」
「ほ・宝剣が・・・何じゃそらぁ・・・クッ、あのステータスを見た瞬間から分かっちゃ居たんだが認めたく無かっただけだ、くそぅコノヤロウ自分で何とかしてくれ外部の力じゃアリシアに傷は負わせられないらしいしな。」
仕方が無いので自分で左目から多重波長量子光線を出して指を掠らせて血判を押してると城が少しだけ揺れた。
「・・・そんな技は周囲を確認してから出してくれないかな・・・床からどこまで続いてるか分からんほどの穴が空いてるんだが、下じゃ大騒ぎだろうなぁ・・・まぁいいや、それじゃぁこれで完了だ後は戻って特技使って誰かと入れ替われ、アリシアの特技は相手への完全憑依だが相手の意識を追い出し入れ替わる形の術だ、なのでまずは追い出された相手が入る器を創造してアリシアが入り自分が成りたい役柄の者と術で中身を入れ替えれば良い、大元の肉体は女神の時とは逆に実体化が基本化してるんだろう憑依の時は消えるからな、憑依体が女神としての力を受け止められない分は神化して背後に纏うようだ・・・器か・・・アリシアよチョット相談なんだが、器を魔族で創ってくれねぇかな人間が突然魔族になったらどうするか見物だしな、オイビビ!ビビ!」
スッゴイ美人の魔族が現れた・・・『クッ聖女といい魔族の女といい・・・』
「こいつは四天王の紅一点ビビだ、こいつと入れ替わってもらおうかな、そっくりな器を創ってくれビビにはアリシアになってそいつの補佐でもしててくれヨロシクな、入れ替わったら連絡くれこっちに飛ばすその時にビビもそこに向かわせる、とにかく誰が俺たちを狙わせて何を企んで居たのか調べ上げてくれ頼んだぞ。」
ビビ殿そっくりな器を亜空庫に入れ私は魔王に背中を押されるように転移した。