一話・そのきっかけ
著作権的には問題ないと思うがどうなのだろうか
第一話・始まりは唐突に
僕がいつものようにネットの海をさまよっていると、一通のメールが届いた。僕の携帯電話のメールアドレスに直接届いたそのメールは、中学時代の同級生からのものだった。
『突然悪い。ちょっと用事ができて大事な用事にいけなくなった。代わりに行ってくれ。頼むぜ相棒』
非常に馴れ馴れしい。おまけに図々しい。確かに家は近かったし幼い頃はよく遊んでいたが、最近は全く連絡を取っていなかった。こんな気軽に用事を頼めるような間柄では決してない。少しばかりの苛立ちが僕を突っつくが、思い返してみればこいつは昔からこういう奴だった気がする。
無視するのが手っ取り早く、普通な対応だろう。しかし、丁度スマホゲーのスタミナが尽きたところであり、アニメの時間までは少しばかり時間がある。この空白の時間の無聊を慰めるには丁度いいかもしれない。
「僕の知り合いじゃないわけだし、妙なことしても後腐れなし。やろ」
僕はメールに貼られているURLを検索した。
ウェブ上で動くチャットツールのようだ。ころころーという間抜けな名称らしい。自由にルームを作り、招待したい相手へルームのURLを送る。特に登録も必要なく気軽に使えるらしい。規約を読む必要はないだろう。どうせ読んでも意味が分からないし。そこそこ有名で利用者も多いようだし、悪質な詐欺ではないのではないだろうか。きっとそうだ。そうに違いない。
考えるのが面倒になり、僕はリンクを踏んだ。
ページが読み込まれ、UIが表示される。同時に一つのポップアップが表示される。
『webページからの要求:マイクへのアクセス 許可/キャンセル』
これは、ボイスチャット機能を使用するということだろうか。できれば通話はあまりしたくないのだけど、何もしゃべらなければ許可してもしなくても同じ。ということで許可。
すべてのUIが表示された。左側にメンバー一覧。中央にマップのようなもの。右側にメモ帳のようなもの。後はこまごました設定だろうか。実にシンプルだ。
唐突にイヤホンから音声が聞こえてきた。
『お、来たねー。こんばんわー』
部長というアイコンが輝いている。ハンドルネームなのだろう。機械音声っぽく聞こえているのは、ボイスチェンジャーでも使っているのだろうか。
『薄荷さんですかね。いらっしゃい』
次の発言はねねという人によるものらしい。こちらも機械音声だ。やや女性っぽく聞こえる。
『ちわっすー』
最後に発言した人はハートという人。男の声に聞こえるが、やはり機械音声。
これはもしや、そういうルールでもあるのだろうか。生声禁止みたいな。だとすると非常にまずい。僕はボイスチェンジャーなんて便利なツールは所持していない。追い出されて終わりという未来が見える。
『もしもーし。薄荷さん? あ、声が気になりますか? 勝手に機械っぽく変換してくれるので大丈夫ですよ。男っぽくしたいとか女っぽくしたいとかのパラメータもいじれますよ』
少し考え、薄荷というのが自身のハンドルネームを差していることに気付いた。そういうところの情報もメールに書いて欲しいのだが、今更行ってももう無駄だろう。
しかし、そうか。勝手に声を変えてくれるのか。ならば。
「すみません。マイクの準備していました」
『あ、そうだったの。急かして悪かったね』
『ねねさんはせっかちっすっしねー』
『いやいや、本当に困っているかもしれないじゃないですか。というかハートさん音量大きいです。マイクから少し離れてください』
この三人に僕を加えて四人。これで全員だろうか。だとしたらかなり人数少ないけど、いったい何の集まりなんだろうか。
ねねさんとハートさんが何やら言い合っていると、部長さんが仲裁に入った。
『まあまあ、今日は初めての薄荷くんもいることだし、二人とも落ち着いて。改めまして、薄荷くん、21からの集いへようこそ。事前に伝えていた通り、私たちはTRPGを遊ぶための集まりです。今回は、メンバーが一人ブラジルに出向いて人数が物足りなくなり、暇じ……追加メンバーを募集していたところ、ツイッターで一本釣りできた薄荷くんが新規に参加するという運びになりました』
『わーばちばちー』
『よろしくです』
「よろしくお願いしますー」
TRPG? なんだそれ。
『薄荷さんはTRPG初心者なんですよね?』
と、ねねさん。そういう設定なのか。まあ本当のことだし、その設定に乗っからせてもらおう。
「そうなんですよ。よくわからないまま乗ってしまって。いやー勢いって怖いですよね」
『いやいや、勢いは大事だよ。まあそんな難しいものじゃないから気楽に行こう』
なんかのゲームだろうか。遊ぶって言っていたけどMMOの類? いや、なんかコマみたいなのとかマップみたいなのが表示されているということは、ボードゲーム?
「RPGなんでしょうか。ドラクエとかFFみたいな?」
『んん。どうしよか。まあボードゲームなんだけど、少し毛色が違うんだよね。ねねさん。説明お願い』
『はいはい』
部長さんは説明が苦手なんだろうか。
『TRPGとはテーブルトークロールプレイングゲームの略です。日本語にすると会話をしながら役割を演じる遊戯、でしょうか。RPGの経験はありますか?』
「FFなら。ドラクエはあんまり」
『なるほど。FFではプレイヤーは光の戦士という役割を演じることになるわけです。ドラクエでは勇者ですね。そういったゲームは自身の役割を演じながらゲームをするわけですが、ゲームを進めるのに他人との会話は必要ありません。自身とゲーム機があれば基本的に完結しています。ですので、T、テーブルトークの部分が消えて、RPGと呼ばれているわけです。逆に言えば、FFとかドラクエが自身と他人との会話のみで進む場合は、TRPGと呼んでもいいのではないでしょうか。厳密な分類はよくわかりませんけどね。というのも、ドラクエはウィザードリィとウルティマというPCゲームを原型としたゲームですがその二つのゲームにも原型があります。それがD&DというゲームですがD&DというゲームはTRPGなのです。つまりはTRPGはRPGの亜流というわけではなくRPGの原初の形なのです。まあTRPGもウォーシミュレーションゲームの派生であってウォーシミュレーションゲームはチェスや将棋の派生と見るなら――』
『ストップ! ねねさん、話逸れてる逸れてる』
すごい早口でしゃべってる。滑舌がすごくいいのが救いか。現実でやったらこれだからオタクはとか馬鹿にされそうなしゃべり方だ。というか何を言っているのかよくわからなくなってきた。
そんな僕の思いが届いたのか、部長が要約してくれる。
『要するに、ゲーム機を使わないでドラクエみたいのをやるのがTRPG。で、ゲーム機なしでどうやるかというと、一人がゲーム機の役目を請け負うんだよ。その人を一般的にGM、ゲームマスターという。プレイヤーが自分のキャラクターに目の前の宝箱を開けさせたいなら、GMにそう告げる。GMは可能かどうかを判断し、開けることが可能だったなら宝箱の中身を口で描写する。その描写を聞いてプレイヤーはどうするか考える。考えた結果の行動をGMに伝える。GMはその行動を処理する。その繰り返しで物語、いわゆるシナリオを進めてゲームをハッピーエンドに向かわせるのがTRPGさ』
んむむ。
「GMのやっていたことをゲーム機に処理させているのが現在のドラクエですか?」
『そういうこと。GMへの指示は声で、ゲーム機への指示はコントローラーでってかんじで少し形は違うけどね』
『因みに、乱数の生成にはダイスを使うよん。6面ダイスがいわゆる普通のサイコロだけど、それ以外にも4面、8面、10面、12面、20面とか、システムによって色々振れて楽しー』
四面ダイス? 六面がサイコロということは、正四面体のダイスだろうか。
「システムってなんですか?」
『RPGでもカセットには色々種類があるよね。で、カセットが違うと世界観から出てくるアイテムまで全然違うよね。それと同じで、TRPGにも世界観やルール周りをまとめたシステムってのがあって、それを選んで遊ぶんだ。RPGの有名どころはドラクエ、FF、テイルズ、motherとかで、TRPGの有名どころのシステムはソード・ワールド、パラノイア、CoCとかだね。ほら、市民、幸福は義務です。とか、SAN値が減る! とか聞いたことない?』
「あります。それって元ネタTRPGだったんですか」
『そうそう』
なるほど。多分分かった。つまりこれからゲームをすると。
……何もわかってない気もする。
『まあ、案ずるより産むがやすし。やってみたら雰囲気も掴めますよね。今日は何のシステムするんでしたっけ。ガープス?』
『え? マジで?』
『やるわけないでしょ。今日はキャラクター作成が簡単な』
『キルデス?』
『ドラグブライドだ』
『違うって。CoC、クトゥルフ神話TRPGをやってもらうよ。これが一番初心者に優しいからね』
『えー、初心者にクトゥルフはきつくないっすか? 探索者死にますよ?』
『いやいや、キャラ作簡単だし、何より世界観の説明が楽。それはつまり行動基準を考えやすいということであって、ロールをしやすいということでもある。これが何より重要。まあ、最初からそんな飛ばすシナリオはしないから、やるよ』
『はーい』
『うっす』
「……わかりました。多分」
なんだろう、何が始まるんだろうか。僕はもやもやした不安と、僅かばかりの期待を抱きながら、ペットボトルから水を口に含んだ。




