7-3 両親への報告
帰ってきましたよ、懐かしの実家。
馬を厩へ勝手に繋いで、玄関でちょっとアリサとお互いに顔を見合わせる。
こういうときってどうするのが普通なんだろう? 来客のように振る舞うべき?
「まぁ別に家出してたわけでもないし、普通に入ろっか」
「そうですの」
勝手知ったる実家。ごく普通に玄関のドアを開けて入る。
どういうふうに声をかえようかなって思ってると、来客かと思って降りてきたメイドのナタリーが俺たちに気づいたようだ。
「まぁ、坊ちゃま、お嬢様、この寒い中を。
誰かご主人様にお知らせして、坊ちゃまとお嬢様のお帰りよ」
なんかすごい騒ぎになった。
坊ちゃま呼ばわりされるのはひさびさすぎて、照れくさいものだ。
「はぁ、シモン様はお坊ちゃま育ちなんですね」
ヒルダがあらためて俺の顔をしみじみと見る。
「まったくそう見えないところが不思議よね」
ライナが失礼なこと言ってやがる。
結構、気品ある顔立ちだって言われてたものだぞ。
「アリサ、あれだよな」
俺は正面に飾られた家紋を改めてよく見てみた。
確かにそう言われてみれば、壁に埋め込まれているが盾のような気がする。
「間違いなさそうですの」
「俺もそう思う」
アリサの見立てでも間違いなさそうだ。
「シモン、アリサ」
母が慌てた感じで奥から駆けてきた。
「お母様」
アリサが母上に思いっきりぶつかるように抱きついていった。
先を越された感じだが俺も母上に駆け寄る。
母上の後ろから、父上が落ち着いた感じでこちらを眺めてる。
あっと忘れてた。
後ろを振り向くとヒルダとライナが暖かい感じでこちらを眺めててくれた。
俺は横にいた執事のハインにふたりを客間に案内してもらった。
「すまない、先に両親に話があるのでしばらく休んでてくれないか」
俺はヒルダとライナにそう頼んだ。
「私たちのことは気にせずにごゆっくりどうぞ」
言葉に甘えさせてもらうことにした。
俺たちふたりは両親の私室で話すことにした。
「ミカエルから手紙をもらって、だいたいのことは聞いていると思う。
シモンも時々でいいから、手紙とか書けよ」
父上の方から、そう
そういえば、家に手紙とか考えたこともなかった。
「すみません、そういうこと考えたことなかった。
それでつもる話はいろいろあるんだけど、一番大事なことをまず」
俺が真剣な顔で言うのを見て、父上も姿勢を正した。
「なんだ?」
父上が問い返すのに対して、俺は勇気を出して言おうとするが、なかなか次の言葉が出てこない」
父上も母上も、俺の言葉をじっと待っててくれてる。
俺がアリサをチラリと向くと、アリサはキョトンとした顔をしている。
俺はあらためて父上のほうを向くと、
「旅が一区切りついてからのことになりますが、アリサと結婚します」
そう言い切った。
「お兄様……」
アリサがなんかウルウルしている。
母上は驚いた素振りも見せず微笑んでくれている。
父上は俺の目をジッと見た後に、
「まぁなんだ。俺らからしたら今更かよって気がしないでもないんだが……
アリサがあんなに張り切って出ていったんだし……
シモンとアリサからしたら、大事な話だから茶化したらダメだよな」
と、ゆっくりと語った。
「はぁ」
思い切って話した割にこの反応でちょっと拍子抜けした感じではある。
「それで、一区切りってのはどのあたりを考えているんだ?
そっちについては半信半疑ってとこなんだが、勇者なんだろ?
魔王倒すまでお預けってことか?」
父上がもっともな疑問を返してきた。
「それについてはこう考えているんですの」
そっちの話はアリサのほうが詳しい。
ライナと試練に行っている間に、ユイナさんといろいろ相談して魔王との戦いについて仮説を立てたようだ。
俺もその内容については、この旅の途中で聞いたばかりの話なんだ。
「アリサがそう言うんだから、きっとそうなんだろうな」
さすがに両親もアリサのことについてはよく知っている。
「それにしても、アリサは旅に出る前と比べてもまた一段とすごくなってないか?
今の説明聞いててまったく反論する余地がなかったんだが」
「育ち盛りですの」
アリサはそう言い切ったが、俺としたせいで急成長したとか、なかなか両親には言えないよな。
「まぁシモンはさすが勇者って感じに成長してて驚いたがな」
「そうですか?」
「あぁ旅立つ前はコンプレックスに押しつぶされそうな感じだったからな。
そうでもなければ、冒険者とか普通は許さなかったぞ。
このまま家にいたんじゃきっと押しつぶされちゃうと思って許可したんだが、結果はよかったようだな。
アリサが追いかけていってどうなるかと思ったが」
確かにあの頃と比べれば俺もずいぶん変わったよな。
いろいろ思い悩んでたことが嘘のようだ。