5-11 エルフの森
「それではいよいよエルフの村目指して突入ですの」
街道の脇、森との境目にて、アリサは帰還のためのホームポイントを設定した。
「帰還呪文のスクロールを用意したので、いざっていう時にはお兄様の判断で使ってほしいの」
スクロールを使えばその魔法を使えない者でもMPを消費することでその書かれている呪文を使うことができる。
ただし、1回限りの消耗品であるため、とてもコストパフォーマンスが悪いのが欠点である。
「アリサが呪文使ったほうが確実で早いんじゃないか?」
「アリサはこの森では一切の呪文を封印するの。
森の魔法に惑わされて何がどうなるかわからないの。
そんな状態で魔法使ったりするのは危険ですの。
一切合切、お兄様におまかせするの」
「責任重大だな」
俺は右手でヒルダ、左手でアリサの手を握りしめ、森の中へ歩み始めた。
頼みはすべて勇者の兜の精神攻撃耐性の効果のみ。
「目をつぶって手を引っ張られてると、なんだかエッチな気分になってくるの」
「もう森の幻惑が始まってるのか?」
「まだだと思うの。アリサの妄想がいろいろはかどるの」
しばらくそのまま進むと、アリサもヒルダも進路がどんどん右にずれていく。
森の幻惑が始まってるようだな。
俺は2人を強めにひっぱりながら、
「はじまったぞ。自分の感覚で歩くな」
2人をそのまま引っ張っていく。
「唄が聞こえます」
「問題ない、ただの幻聴だ」
「なんか美味しそうな臭いがするの」
「気にするな、ただの幻臭だ」
「口の中に甘みがいっぱい広がってきました」
「ただの幻の味だと思うぞ、気にしなくてもいい」
まぁ、これはさすがに俺にはわからないが、そう断言しておけばいいだろう。
「暑いの、すごく暑いの」
「大丈夫、ただの幻熱だ」
なんか幻覚だけでなく、五感すべてを惑わされてるようだな。
だが、俺には何も感じない。
森がただ広がってるだけだ。
「何かが襲ってきます。気をつけて」
「大丈夫だ、何も来ていないから」
「怖いの、何かがいるの」
「大丈夫、何もいないし、俺がついてる」
「少しエッチな気分になってきました」
俺はヒルダをちょっと引き寄せて耳に息を吹きかけてみた。
「あ、耳に息が」
「大丈夫、それは俺の息だ」
「お兄様、何してるんですの。
ヒルダさんにばかり、ずるいですの」
五感だけじゃないな、あらゆる感情を揺さぶってきてるようだ。
これは確かに厄介だ。
動物の姿1つ見えない安全な状態だからなんとかなっているが、今何かに襲われたら対処できない。
アリサから預かった帰還スクロールを使うしかなくなるだろうな。
それにこれが長時間続くと2人が心配だ。
とにかく状況を口に出させて俺が返事してやることで、なんとか精神を保てているようだが、いつまでそれが保つか。
どれだけ時間が経っただろうか。
前方に人の気配を感じた。
まっすぐこちらへ向かって歩いてくるようだ。
俺は立ち止まってその姿が現れるのを待った。
懐かしい顔が現れた。
「おひさしぶりです、シモン様でしたね。
思いもかけない方向から現れたのでびっくりしました。
エルフ村へ、ようこそ」
かつて世界樹の森で別れたライナが迎えにきてくれたようだ。
第5章完了
第5章完了です。
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