5-9 ヒルダのヤリ
いろいろ組み合わせを変えての立ち合いで、3人とも実戦の腕を磨き続ける日々となった。
今日は、俺がアリサとヒルダの2人を相手にしての立ち合い。
ヒルダはある程度全力でやっているが、アリサには手を抜いてもらってる。
あるときはヒルダの攻撃に合わせて。
またあるときは、微妙にタイミングをずらしてくるアリサの攻撃がとにかくいやらしい。
毎回、違ったタイミングで攻撃してくるため、一瞬たりとも油断ができない。
そして、ヒルダが本当に強くなった。
王都でいっしょにダンジョン潜ってた頃は、このくらいの歳の女の子にしては強いじゃないかって思ったくらいなんだが、ここ最近のヤリの一撃はハンパない。
速く、そして重い一撃が繰り出されるから、剣で軽く受け流すとか難しい。
ただ、やはりまだ攻撃が型通りで素直すぎるのが弱点だな。
きっと兄上は俺との手合わせで、こう感じてたんだろうな。
「ヒルダ、すっごく強くなったな。
ただ、攻撃が正直すぎるから、予測されてしまって受けるほうにとっては怖く感じない。
もう少しいろいろ考えながら攻撃するって段階に入っていいだろうな」
俺がヒルダにアドバイスするのを見て、アリサがニヤニヤしてる。
そうだよ、俺が兄上に言われてたアドバイスをそのまま言ってるんだよ。
「ただ、それ始めるといったん、すごく弱くなるからな。
しばらくは、逆に何していいかわからなくてオロオロすることになる。
でも、その段階を越えると一気に強くなるからな。
こうして、立ち合いやってる間にもう1ランク上になれるように頑張ってくれ」
「頑張ります」
ヒルダは本当に素直で努力家なんだよな。
ただ素直すぎるのが攻撃ににも現れてるんだが。
「じゃ、次はアリサとやるの」
アリサは棍をヤリのように構えた。
「予備のヤリがないから棍で代用させてもらうの」
アリサとヒルダのヤリ対決ということか。
ヒルダはアドバイスどおり、いろいろ考えて攻撃するように努力しているようだ。
いつもと勝手が違うから動きがすごくぎこちない。
どうしても最初はああいうふうになっちゃうんだよな。俺にも覚えがある。
そこへアリサの攻撃が容赦なく襲う。
それにしてもアリサはどんな武器でも使えるんだよな。
ヤリ使ってるところとか初めてみたが、動きがとても滑らかで十分に熟練していることが見てわかる。
アリサの連続攻撃でヒルダは倒れて転がりながら避け続ける。
そこへアリサがトドメとばかりに突きをあびせようとした瞬間、ヒルダの崩れた体勢から繰り出したヤリの一撃がアリサの胸元に。
アリサは思いっきり体勢を崩しながらギリギリで避けた。
いや、避ける瞬間ヤリは腕をかすめた。
「うー、マジに危なかったの」
腕を自分でヒールしながらアリサが驚いたようにつぶやく。
最後の一撃、俺だったら喰らってたかもな。
「よし、次は俺とだ。
休憩なしで行くぞ」
たぶん、今のでヒルダ自身も何か掴みかけてるかもしれない。
こういうときはガンガン行くに限る。
「はい」
開始直後にイッキに間合いを詰めていく。
俺が下段から切り上げると、ヒルダはヤリの柄で剣を受けて払った。
お、今のは棍の動きだな。
アリサの棍の動きを見てヤリに取り入れてみたようだ。
少し体勢を崩した俺は隙を見せて誘ってみると、ヒルダはのってきた。
一歩下がってそのまま突きの連続攻撃を。
悪くない。
俺は後方へ大きく飛んで間合いを取った。
ヒルダは大きく振りかぶって上段からヤリを振り下ろしてきた。
これは俺の攻撃じゃねぇか。
ヤリの間合いなので俺はこのまま受けるか避けるかしか選択肢はない。
いい度胸だ。
俺はそのままヒルダの胸元に体当りした。
一瞬の差でたいあたりは決まったようだ。
そのまま俺はヒルダを押し倒して勝負ありとなった。
いやぁ、いろいろ考えてやってくれる。
そして俺の時と違って、すでにぎこちなさがなくなってきてる。
1つ1つの判断は必ずしも正解とは言えないが、今はなんでも試してみればいい時期だ。
しかし、ヒルダ実はヤリの天才じゃね?
これは油断してるとすぐに俺より強くなっちまいそうだ。
俺も頑張らないとな。
「アリサ、次は俺とだ」
「どんとこいなの」