5-6 忘れられたほこら
アリサを先頭に藪の中を進む。ひどい道だ……というよりこんなの道じゃねぇ。
数歩進んでは、アリサは短い詠唱を唱えてはまた進むという感じだ。
もうそんな感じで2時間ほど。
「見つけた!」
アリサの嬉しそうな声が響く。
どうやら目的の何かを見つけたようだ。
アリサの見つけたのは小さな石碑のようだ。
数文字の言葉が彫られているようだがこれはなんなのだろう?
「やっと見つかったか。
これはなんなの?」
「古文書通りの石碑があったの。
予測が間違ってなかったという証明なの」
「これが目的地じゃないのか?」
「ここから出発なの。
ここからはきっとラクチンなの」
「そうか、それはよかった」
そこからまた2時間……アリサの嘘つき。さっきより道がはるかに険しいじゃないか。
詠唱とかなしにどんどん進んでるからさっきまでより順調なのかもしれないけど。
ブツブツ文句を言いながらアリサに着いていったが、急にアリサが立ち止まるのでぶつかっちまった。
「着いたの」
そこには洞穴のようなものがあるが、よく見ると朽ちているが人口の建造物だったようだ。
「本当に最後の目的地?」
「そうなの」
「もうどこにもいかない?」
「ここで終わりなの」
「よかった。もうどれだけかかるんだろうと。
で、ここはなに?」
「伝説の賢者アリサが忘れられた古代魔法を手に入れた場所のはずなの。
不死の王を封印した魔法もその1つだと思うの。
別の古文書の記述と合わせて考えるとここに違いないと思ったの」
「そんなのがあったのか。
それならそうと言ってくれたらいいのに」
「何も見つからなかったら恥ずかしかったから曖昧にしてたの」
「じゃ、アリサもさっそく……」
「2人とも離れててほしいの」
「アリサに危険はないんだろうな」
「たぶん大丈夫なの。
でも、ムチャすることになるから巻き添え食わないように離れててほしいの」
「……どのくらい離れようか」
「アリサの真後ろなら大丈夫なの。2メートルくらいかな」
「わかった」
俺たち2人が離れるとアリサはなにやら詠唱をはじめた。するとほこらからすきとおった精霊っぽい人の姿が現れた。
「力を欲するのはおまえか」
「はい、わたしですの」
「ではお主の今の力を見せてみよ。
お前の最も強き力で我を撃て」
アリサはゆっくりと息を吸うと詠唱を始めるとともに、その手を大きく振りかざした。
たいていの攻撃呪文を無詠唱で行うアリサが詠唱に加えてその身振りまで加わるのは最大限に力を込めているときだ。
アリサの体に魔力が満ち溢れていくのがわかる。
アリサがその手を前に振り下ろすとともに雷撃が精霊を襲った。
その魔法の反動で後ろにいた俺たちにも衝撃波が浴びせられた。
「……人間よ、やりすぎじゃ。
もう少しで我が存在もろとも消え去るところであった」
おお、あの魔法受けて普通に話してるとか、あの精霊すげぇ。
「いいだろう。
長き年月の中でこれだけの力を浴びたのは初めてだ。
そなたに我の知るすべての魔法をつかわそう」
「ありがとうですの」
そう言うと精霊の姿は消えていった。
「古代魔法は覚えられたのか?」
「バッチリなの。いつも使えるの。
でも、こんなに魔法の力が強くなってるとは自分でも思わなかったの。
8分目くらいの力で撃ってよかったの」
「あれで8分目だったのか?」
「そうなの。
旅立った頃の倍以上の威力になってるようなの。
たぶん、お兄様の例の力のせいなの」
「なんかとんでもないことになってきてるな」