5-2 ベヒーモス
東への旅の途中、アラニダの街の冒険者ギルドへ冒険者カードの更新に訪れた時のことだった。
ギルドマスターのジークさんから声をかけられ、頼み事があるというので別室に案内された。
「緊急事態で王都へも応援要請を出しているんだが、もう数日はかかると思う。
Bランクの冒険者にはちょっと荷が重いからもしれないんだが、この街にいるのはCランクが最高なもので、話を聞くだけでも聞いてくれないか」
「なんでしょう。
俺たちでできることなら協力しますよ」
「ありがたい。
ここから北へ1時間程度の山でベヒーモスが発見されたんだ。
街に襲って来たらどれだけの被害が出るかわかったものじゃない。
できることなら討伐したいのだ」
「ベヒーモスとか話にしか聞いたことないけど、相当やばいやつだっけ」
「災害級とか言われてますの。Aランク冒険者でも危ういと思いますの」
「アリサとしてはどう思う?」
「なんとかなると思いますの」
「そうか。
ということですので、行かせてもらいます」
「ありがたい。
とはいえ、ムリはしないでくれよ。
成し遂げてくれたらボーナスつきで支払うが、失敗してもペナルティとかないようにしておくから」
「安全第一で行ってきますよ」
ということで、ベヒーモス退治となった。
3人でちゃんとした敵と戦ったことはなかったので、いい経験になるんじゃないか?
「ちなみに、ベヒーモスとアリサ1人でやったとしたらどうなる?」
「たぶん、勝てると思いますの」
「そうだよなぁ、でも今回は3人でのコンビネーション重視でいこう。
なんか注意することあるか?」
「ベヒーモスは特殊攻撃は何も使ってこないはずなの。
でも一撃がきついから、ヒルダさんも前衛には出ちゃダメなの。
注意するのは突進だから、お兄様が自由に動けるように、後衛2人はお兄様の真後ろには立たないようにしないと危険なの。
お兄様も突進でツノで貫かれたりしたら死んじゃうから、それだけは要注意なの」
「わかった」
「しっかりと強化魔法かければ、お兄様は普通の攻撃なら一撃でやられたりしないはずなの、でも負傷してるところに続けて食らうと危険なの。
だからヒルダさんはお兄様の小さなダメージも即回復するようにしてほしいの」
「わかりました」
「あとはガンガンいこうぜなの」
ギルドで聞いたあたりを捜索していると、すぐにベヒーモスを発見した。
クマくらいの大きさを想像していたが、倍くらいの大きさがあるようだ。
あらかじめ2人から強化魔法を受けていた俺は、勇者の剣を抜き臨戦態勢にはいった。
「いくぞ!」
俺の合図とともに、アリサが詠唱を始める。
ベヒーモスもこちらに気づき、俺めがけて突進を開始した。
そこへアリサの鈍化魔法が決まり、ベヒーモスの動きは目に見えてゆっくりとなった。
俺はベヒーモスの突進を避けながら、その前足を剣で払う。
アリサの強化魔法で切れ味を増した剣はその前足を切り刻んだ。
ベヒーモスは俺が止まった瞬間を狙うように、その長い尾が俺に迫ってきた。
この角度から攻撃がきやがるのか、しかも長いなこの尾は。
俺は咄嗟によけたが、尾が俺の肩をかすめた。
ヒルダの回復魔法がすぐに飛んできて俺のHPはすぐにマンタンに回復した。
俺は思い切ってベヒーモスの腹の下に潜り込み、その柔らかそうな腹に下から剣を突き立てた。
ベヒーモスは苦しみつつ、俺を押しつぶそうと体重をかけてきたが、それがベヒーモスにとって致命的だった。
俺の剣が深々と腹に突き刺さった。そのまま剣で腹を横に切り裂き、ベヒーモスは絶命した。
「お兄様、なんかすごく強くなってるの。
もう少し手こずると思ってたの。
アリサの出番があまりなかったの」
「いやいや、強化魔法や鈍化がなければあんな簡単にいかなかったし、少々のことならすぐに回復が飛んでくるって安心感がなければあんな無茶な戦い方はできなかったよ」
「いろいろ戦い方にバリエーションができるようになったの」
「まぁこの程度の敵に手間取ってたら、魔王とかどうしようもないだろうからな」