1-7 妹からのプロポーズ
「お兄様に添い遂げさせていただきとうございますの」
慎ましやかに言い換えてきたけど……
「いやいやいや、兄妹で結婚ってないから」
「庶民の常識ではそうかもしれませんが貴族の間では兄妹での結婚もさほど珍しいものでありませんの。
確か先日亡くなられた先代のメンドーサ子爵も兄妹でしたし、王家の歴史でも5代前に姉弟での結婚が行われております」
と博識さで先制攻撃してきたがここはそう簡単に折れてやるわけにはいかない。
「確かそのメンドーサ子爵も世間ではずいぶん非難されてたはずだし、5代前の国王ってもう100年以上前のことだろ。さすがに時代が違うって」
なんとかかんとか意見は返せたはずだ。
「もともと兄妹での結婚を禁じた法律とかは存在しないし、俗論に惑わされるとかお兄様らしくないの」
今度は別方向からの攻撃に来たな。
「俗論と言うけど近親での結婚は子供に悪影響が出るらしいってのを学校で習った気がするぞ」
この程度の知識をアリサが持ってないはずはないと思うんだが。
「子供についてはその説が一般的ということは認めるけど、別にムリに子供作らなければいけないって決まってるわけではないの。
避妊に関する知識もきちんと持ってるし、子供がどうしても欲しくなったらお兄様がお妾さんでもなんでももらえば問題ないの」
「お妾さんとかも予定ないから。
妹と結婚した上にお妾さんとか俺なんかすごい鬼畜に聞こえるんですけど」
もう勘弁してくださいよー。
「内緒にしてればバレないから問題ないの」
すっごい暴論キタぞ。
「いやいやいや、絶対バレるからそういうのって」
もう俺、涙目になってるかも。
「お兄様、アリサがお嫁さんってそんなに嫌?
小さい頃、お兄様のお嫁さんになるって言ったら喜んでくれたの覚えてるの」
いかん、最強の攻撃が来たようだ。
このまま目をウルウルさせてきたら、俺本当に耐えきれるのか・・・
「まぁこのあたりで勘弁してあげるの」
一転してアリサはかわいらしく微笑んできた。
「もしかして俺をからかっただけか?」
ちょっと怒った顔でアリサを睨んで見る。
「お兄様のお嫁さんになりたいってのはアリサの本心で間違いないの。
でもお兄様を困らせたりはしたくないの」
おいおい本心かよ……嬉しいんだけど俺がそれを受け入れられないのも本当のところ。
「でも一生お兄様とともに生きるって決心は変わらないからね。
それは覚悟するの」
そのあたりはもう俺も覚悟しました。
「いつ気が変わってアリサのこと押し倒したってOKですの」
それはないって、マジ勘弁してください。
「もう夜も遅くなったことだし、話は明日にするか。
アリサはどうする? 受付でもう1つ別の部屋取ろうか」
「アリサはこの部屋で構わないの」
「そうは言ってもこの部屋ベッドが1つしかないし」
「アリスは寝相がいいから問題ないの」
「うーん、まぁ仕方ないから今日はこのまま寝るか。何か変なことするなよ」
「お兄様はアリサに変なことしてきてもいいのよ?」
「しないから」
ベッドに寝転がると、アリサは俺の胸に顔をうずめる。
「こうしてるとお兄様から力が流れてくるのを感じられるの」
さっきはああ言ったものの俺の理性がどこまで耐えられるか確信が持てなくなってきた。
しばらくして、
「アリサ、もう寝ちゃった?」
「うーん、ドキドキしててなかなか眠れないかも」
あんなこと言ってたのに、さすがのアリサもドキドキしてるか。
「それにお兄様の心臓がドキドキしてるのが聞こえてきて萌えますの。お兄様の体温を感じて幸せでいっぱいですの」
おいおいおい。
「俺からなにか力が流れてるって言ってたけど具体的にどこから流れ出てるんだ?」
「さすがに調査不足でよくわからないの。お兄様が協力してくれたらもう少し研究が進むかもしれないの」
「協力って何したらいいんだ?」
「体をプレートメイルとかで包んだ上で一部だけ素肌を露出してもらって、アリサが露出部分にこうして顔をうずめて比較するとか」
「なんかそれ嫌だな」
強引にこの話題を打ち切る。この体勢のままシモネタとかはいろんな意味で危険すぎる。
「今日の話の中で、アリサの人生を決めるって話が適当にはしょられちゃった気がするけど、どうしてこうすることに決めたんだ?」
「お兄様といっしょにいたかったってのが一番の理由なのは間違いないの」
「一番ってことは他にも理由があるのかな?」
「家に残ったり王都へ進学したりとかしてもきっと面白くないだろうとか思ったことも本当なの。そして……」
「そして?」
「圧倒的にデータ不足で不確かなことなの。だから今はまだ話せないの」
「なんか気になるな」
「ぜんぜん別の研究してたときにふと気づいてしまったことなの。もし本当なら大変なことになるの。」
「旅の間になにかわかるかもしれないの。そしてもしアリサの予感が確かだったらお兄様の近くにアリサがいることがきっと役に立つの」
「わかったわかった、ここはアリサの予感を信じて聞かないことにするよ。でも俺が知っておいたほうがいいことがわかったらすぐに教えてくれよ」
「その時が来たらきっとそうするの」
話題を変えたのはいいけど、今度は思いっきりシリアスな話になっちゃったな。
なかなかほどほどの話題ってないものだな。
「どんな災厄が来ようと、アリサのことは俺が守ってやるから大丈夫」
アリサが精神的な緊張から少し体を固くした感じなので、髪をなでてやる。
「お兄様のことは、アリサが全力で守るの」
アリサが全力を出したら、国家相手の戦争でも勝てそうな気がするな。