4-14 ヒルダの冒険者登録
翌日、アリサと昼食をとっていると、ヒルダが訪れた。
「ちょっと早く来すぎちゃったようですね。
勇者様といっしょと思うと楽しみで」
「わりぃな、ベッドにでも腰掛けてちょっと待っててくれ」
「ごゆっくりどうぞ」
アリサは言われたとおりにベッドに腰掛けて待っている。
こちらを見ながら、なんか楽しそうだ。
食べ終わって洗い物をはじめると、
「洗い物ならおまかせください」
「せっかくだからお願いするの。
その間に他の準備をしちゃうの」
アリサは今日の調べ物のための準備を始める。
俺は特にすることもないので、そのまま洗い物を続ける。
「勇者様も休憩なさっていいですよ。
私がやりますから」
「いや、2人でやっちゃえば早いから。
それに、もともと俺とアリサの食べたものだからまかせっきりってのもな」
「……じゃ、いっしょに」
そこで恥ずかしがらないでほしいな。
なんか俺も恥ずかしくなるから。
「うーん、なんかいいムードなの。
ちょっと妬ましいの」
後ろでアリサがなんか言ってるし。
あ、コップ!
ヒルダが手を滑らせてコップが落ちかけたのをなんとか俺がキャッチ。
「勇者様、ごめんなさい」
「あ、それと勇者様ってのもなしな。
他で聞かれると、いろいろ面倒だし。
シモンって呼んでくれ」
「……はい、シモン様」
そう言って、ますます頬を赤く染めるヒルダであった。
だが、ヒルダはどうやらドジっ子属性を持っていそうだから注意しないとな。
いろいろ準備を終え、3人で部屋を出た。
アリサは兄上の学校の教授を尋ねる約束があるそうだ。
俺とヒルダは冒険者ギルドへ。
途中までいっしょにってことで、両腕をアリサとヒルダにつかまれていく。
両手に花と言いたいが、なんか連行されてるみたいに見えるんじゃないか、これ。
アリサとは途中で別れ、冒険者ギルドへ。
ヒルダと受付に出向き、受付に尋ねる。
「冒険者登録をお願いしたいんだが」
「お連れの女性の分ですね」
どうやら俺の顔を覚えてくれていたようだ。2回ほどしか話したことがないんだけどな。
「あー、よろしく頼む」
「見たところ、ゴアビレンス教の僧侶のようですが」
ヒルダの僧衣で見分けがつくらしい。
俺は他の宗派との差がわからないんだが。
「よくわかるな」
「ゴアビレンス教の僧侶さんは冒険者になる人も多いですからね。
彼女はシモンさんに仕えるのですか?」
俺の名前まで覚えてるのか。こっちは彼女の名前覚えてないぞ。
有能だな。
そっと名札を覗き込むと、ミッシェルと書いてある。覚えておこう。
「あーそうだ」
「それならば、特記事項のところにそう書いてください。
そしてシモンさんの冒険者カードとともに提出していただければ、従者登録という形になります。
それと、ゴアビレンス教の僧侶さんの場合、職業ランクCまでは無試験で認定されます」
「なんかそうするメリットってあるのか?」
「たしかシモンさんはBランクでしたよね。
従者登録すれば、彼女もBランクの扱いになります」
「それは便利だな。
旅立つまでに急いでいくつか依頼こなさないといけないかと思ってたよ」
「その代わりシモンさんと別に1人で依頼を受けたりとかはできませんから気をつけてください」
「あーわかった。
その制度ってゴアビレンス教の僧侶のためだけにあるのか?」
「いえ、制度自体は一般的ですよ。
ゴアビレンス教の僧侶さん以外でも、奴隷を従者登録して冒険者してる人とかもいますし」
「あーそういう時、奴隷のためにわざわざ依頼をっていうわけにはいかないか」
「そういうことですね。
結構昔からある制度みたいですよ」
「そうか。
じゃむこうで申請書を書いてくるよ」
「わからないことがあったら、なんでも聞いてくださいね」
「ありがとう」
思わぬ情報に助けられた。
これでいろいろ面倒なことが省略できそうだ。
「ヒルダ、話は聞こえてたよな」
「はい」
「じゃ、ちゃっちゃと書いちゃって」
横でヒルダが申請書を書くの眺める。
個性的っていうか、かわいらしい文字だな。
「これでいいか、見てくださいませんか」
「問題なさそうだと思う」
申請書に俺の冒険者カードを添えて、受付のミッシェルに提出する。
「確かに受け付けました。
明日の今くらいの時間には出来上がってるはずです」
「いやに早いな。
メルドーラでは3日くらいかかったぞ」
「最新式の機械が導入されましたので」
「王都は進んでるってことか」
「そういうことですね」