4-11 勇者の兜
司祭の間に案内された俺たちは司祭に向かい合う形で兄上・俺・アリサの順に並び椅子に腰掛けている。
兄上の後ろにララウェル、俺の後ろにヒルダが立つ形になっている。
俺としては女性を立たせて自分は座っているという形は好きじゃないんだが、まぁしかたないか。
司祭は俺たちが座ったのを確認すると、
「少々お待ちください」
と言ってどこかへ行ってしまったまま、もう10分近くも戻ってこない。
無駄口叩くのもなんだし、じっと座って待っているだけってのは、とても退屈なものだが、これから頼み事をしなくちゃいけないのだから、大人しく待っていることにしよう。
「お待たせしてしまって申し訳ありません」
司祭はなにやら古めかしい箱をかかえて戻ってきた。
箱を机に置き一礼した。
「あらためて、ご挨拶させていただきます。
この教会で司祭を務めておりますサリアと申します。
以後、よろしくお願い致します」
それを受けて兄上が俺たちを紹介してくれた。
「このたび、王都に参ったので挨拶に連れてまいりました。
弟のシモンと妹のアリサです」
俺とアリサは立ち上がって一礼した。
「「よろしくお願いします」」
続いて兄上が話しかけようとしたところを制して司祭が話し始める。
「ミカエル様から願いがあると聞きましたが、これではないですか」
そういうと、持ってきた箱を開け中のものを出した。
そこには、黄金色の兜があった。
「勇者シモン様が使っていたという兜です。
ずっとこの教会でお預かりしておりました。
どうぞお持ちください」
いきなりの申し出に俺たち3人とも驚きを隠せない。
「まさにそのことをお願いに来たのですが、よろしいのですか?」
俺から司祭に尋ねた。
「よろしいも何もこれは勇者様が使ってこそ意味のあるもの。
教会の飾りではございません」
「いきなりやってきた俺を勇者と信じていただけると」
「ヒルダはシモン様が勇者様で間違いないと申しました。
ララウェルが主と認めたミカエル様もシモン様が勇者様であると信じているご様子。
私はこの子たちを信じております。
ですから、シモン様が勇者様であることを信じるのは当然のことでございましょう?」
「ありがとうございます。
どうやって勇者であることを証明しようかと考えておりました」
「実は本当のところ、ゴアビレンス教にはそれを確認する秘儀があるのですが……
お恥ずかしいことに皆、鍛錬不足でそれを使えるものがいないのが現状で。
勇者様の力を高める秘儀を使うことで本来なら勇者様かどうか確かめることができるはずなんです。
後ほどヒルダには形だけですが伝承しておきましょう。
ララウェルも勇者様の縁者となるのですから、ともに学んでおくように。
後は各々でそれを使えるように修行するといいでしょう」
「「わかりました、司祭様」」
「さぁ、勇者様。
この兜をつけた姿を見せていただけないでしょうか」
「わかりました」
俺は兜を手に取ると、頭に装着してみた。
兜は俺のために作られたかのようにちょうどいい大きさであった。
「「兜が光を」」
ヒルダとララウェルの声が。
光ってるの?
俺にはまったくわからないんだけど。
兄上とアリサも特に反応なさそうなんだが。
「伝承によりますと、この兜は勇者への精神攻撃を防ぐと言われております。
教会に持ち込まれてから何名かが試したようですが効果は確認できなかったと伝えられております」
「勇者だけに効果があると思うの。
試してみたいの」
アリサがそうつぶやく。
「ならば、ここでは狭いでしょうから、先程の鍛錬場のほうへどうぞ」
司祭にそう促され、俺たちは再び鍛錬場へ行くことにした。