4-10 約束
僧侶ヒルダはそう一気に話したものの、もう涙ぐんでいる。
まぁ恥ずかしいわな、ああいう後だと、その気持ちは十分わかる。
「ヒルダ、聖女ナターシャの名前を出しましたね。
その名前はたやすく使ってはいけないことはわかっておりますね。
しかもお告げと」
司祭は厳しくヒルダに言い渡した。
「はい、司祭様。
たとえ破門となりましても、真実は曲げれません。
聖女ナターシャからお告げを受けました。
魔王は行動を開始した。
やがて出会うであろう勇者を助けよと」
ヒルダは覚悟を決めた顔で司祭に告げた。
「信じておきましょう。
でもそれをこちらのかたが認めていただけるかどうかは別の話です」
俺の出番のようだな。
「ヒルダさん、話しにくいからひざまずくのはやめてくれないか?」
「ですが」
「じゃ、しかたないか」
俺はヒルダの前の地面に腰を降ろして、ヒルダと視線を合わした。
「俺はシモンだ。
600年前の勇者と同じ名前で紛らわしくてすまない。
今日ここに来たのも、その勇者ってことに関してだから、まぁ話が早いって言えば早いんだ。
仕えるってのはともかく、俺も仲間が必要だからそれもちょうどいいと言えばちょうどいい」
「では!」
「ちょっと待った。一応条件がある。
いいか?」
「はい、なんでもおっしゃってください」
「まだ未熟って言ってたよな。
まぁそれはこれから強くなってもらえばいいんだから構わない。
ただ、未熟ゆえに途中で死なれたりしたら困るんだ。
困るっていうか、俺はこれでも精神的に脆いところがあるから、仲間に死なれたりしたらもうそれ以降やっていける自信がない」
「はい」
「だから死ぬな。
何があっても死なないって約束できるのなら歓迎する」
「ですが、ゴアビレンス教会の僧侶としては主を守るためには死を恐れずに……」
「それが困る。
聖女ナターシャのように決戦の前に死なれたら、俺はもうその後ちゃんと戦える気がしない」
「でも、聖女ナターシャは勇者様を守って」
「そう、そこが勇者シモンは情けないよな。
俺は勇者シモンの勝利を認めないよ。
仲間の女を2人も死なせて、そして最後は未亡人2人残してとか、あれじゃダメだ」
「ですが」
「ほら、ゴアビレンス教の僧侶の誉れってあっただろ。
言ってみろよ」
「強き主を助けその子をなすこと」
恥ずかしそうにヒルダは言う。
「そうだろ、死んじゃったら赤ちゃん産めないぞ」
「ただ主を死なせてしまっては……」
ヒルダは困ったようにつぶやく。
「あー、ごめんごめん。
前提を言い忘れてたな。
それじゃなかなか、うんとは言えないか」
俺は話を続けた。
「そう。
俺は死なない、だから、お前も死ぬな。
どうだ?
これなら約束できるか?」
「はい!
約束します。
決して死にません」
「よし、いいだろう。
ただし、きっと辛いぞ」
「はい、大丈夫です」
「楽しく行こう」
「はい、ありがとうございます」
「話はまとまったようですね。
では、参りましょうか。
ララウェル、ヒルダ、2人とも同席させてもらいなさい」
司祭はやさしくそう言った。
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