1-5 お洒落なお店で夕食を
夜の酒場は酔っ払いでうるさいので、以前にアリエルに教えてもらったちょっとお洒落なお店で夕食をとることにした。
1人でくるのはちょっと気がひけるが、アリサとならOKだろう。
「お兄様が普段使ってるお店ではなさそうなの、何やら女性の影を感じるの」
アリサは何やら鋭いが、実際隠すこともない話だ。
「前にいっしょのパーティーにいた女性から教えてもらったお店だ。言っておくけど特になにもないぞ」
「お兄様にそれほどの甲斐性があるとは思っていないから安心するの」
失礼な、事実だから仕方ないが。
食事しながら他愛のない会話を続けていたが、気になってた点を早めに話しておくことにしよう。
「今日の戦いで気づいたことが1点あるけどいいか?」
「おパンツ?」
「いや、そっちじゃない」
「じゃ、そっちは後で見てね」
「いや、見ないし」
「可愛いデザインなの。お兄様が絶対気にいると思う、いわば勝負パンツなの」
そこまで言われると正直ちょっと気になるが。
「なんか、ごまかしてるんじゃないか」
話をムリに元に戻してみる
「気づいた点ってのは、先程見たパンチやキックのことなんだ。すごい威力であることは確かなんだが、以前に見たときと切れ味っていうかなんというかそういうのがあまり変わってなかった気がする。
手加減してるって言われればそれまでだけどな。
それにしても以前は少し期間見ないだけで切れ味が恐ろしく増していた感じだったはずだ」
「さすがお兄様。こんなに簡単に問題の核心に切り込んで来るとは思わなかったの」
アリサが驚いた表情でつぶやく。
「サボってたとか?」
「うーん、少しはそれもあるかも」
「太った?」
「失礼な」
それは俺も違う感じがしたから、言ってみただけだ。
「お兄様が一目でアリサのことをわかってくれてるのはすごく嬉しいの。アリサのことを一番わかってくれてるのはやっぱりお兄様ですの」
「うん、それは俺もそう思ってる」
「そして、お兄様のことを一番わかってるのはアリサですの」
「それも否定できないな」
「お兄様にお尋ねしますけど、今日までアリサがお兄様を追いかけてこなかったこと、疑問に思いませんでしたか?」
「それは確かに思ってた。アリサのことだから俺が家を出たのに気づいたら一目散に追いかけてくるんじゃないかと思ってた」
マジにしばらくはアリサの気配がしないか1日に何度も確かめてたものだ。
「本当はすぐにでも追いかけてきたかったの。だけど、真実を確かめる、そしてアリサの人生を決める唯一の機会と思ってしばらく観察と思案に費やしていたの。
とてもつらい日々でしたの」
「真実と人生っていきなりすごい話になってきたな」
「うん、とっても大事なお話ですの。
ですから、続きはこのお店で食べながらでなく、お兄様の部屋かどこかで2人きりでしたいの」
「あーそのほうがいいか。俺の部屋といっても宿屋になるけど」
夕食の後、お茶でも飲みながらと考えていたけど、とても真面目な話のようだから、早めに切り上げて帰ることにしよう。
宿屋の俺が泊まっている部屋に戻って、アリサが魔法灯に魔力を注ぎ込むと昼間のように明るくなった。
「俺の魔力だと薄明かりしかつかないのに、ここまで明るくなるものなんだ」
「このくらい小さな魔法灯ですと、壊れないように魔力を注ぎ込むのに神経を使いますの」
魔法灯は魔力を注ぎ込むことであかりを灯すことができる魔道具で一般にも広く浸透している。魔力の使えない人は魔石が必要となるんだが、小さな欠片で1ヶ月ほど使えるため低コストであることも普及に役立っている。
ちなみに故郷の屋敷の魔法灯は母上の魔力ですべてがまかなわれていたそうだ。
ベッドに腰掛けると、アリサはそこが定位置といった感じで俺の左側に腰掛けて俺の左腕を抱える。
「これから話すことはお兄様にとって、とても需要なことですの。聞くことでお兄様のこれまでの人生観が崩れ去ってしまうかもしれないことですけど、聞きます?」
アリサがこれまでにない程、真面目な顔で俺の顔を覗き込んできた。
「俺にも関係のある話だったのか?」
アリサの秘密を聞くことになるとばかり思っていたのがいきなり俺に関係することと聞き、俺は少々たじろいだ。
「どちらかと言うとお兄様の知られざる真実になります」
意外な展開になってきたがここで引くことはできないであろう。ここは覚悟を決めよう。
「わかった。どんなことでも心して聞くからすべて話して欲しい」
いつもの冗談ではなさそうだ。
気を引き締めなおしてアリサの言葉を待つことにする。