1-4 妹とのお試し初ダンジョン
何度も来ているダンジョンとは言え今回は少人数。
俺は慎重にその一歩を踏み入れる。
それに引き換えアリサときたら、2人でピクニックにでも行くかという感じ。
楽しそうにニコニコしながら、いつものように俺の左腕を抱えようとする。
「左腕抱えられたら盾使えないから!」
「お兄様の左方はアリサが守るから大丈夫なの」
「いや、そういう問題じゃなく腕組んでたら動きにくいし」
「しかたないですの」
アリサは渋々腕をはなしたが位置取りは変わっていない。
「この階層なら攻撃呪文とか必要ないと思う。特に範囲魔法は使わないように、冒険者が多いから他の邪魔になったりするからな」
(範囲魔法とはいえ周りの冒険者に被害は与えないものだが、視覚的に魔法が近くに飛んできたら誰もが怯むし、決して気持ちのいいものではない)
「はーい」
返事だけはいいんだよな。
「待った。アリサ武器とか持ってないのか?」
「うーん、特に要らないし・・・。なんか来たらグーで殴るから大丈夫ですの」
(格闘の腕だけでも超一流なんだよな、でもせめて正拳突きとか言って欲しい気もしないでもない)
確かにアリサのパンチで倒せなさそうな敵はこの階層にいないとは思う。
最初の敵はミニコボルト2匹。
ミニコボルトは、ただでさえ雑魚っぽいコボルトの中でも劣等種である。
俺が1体を切り伏せている間に、アリサが一撃で倒していた、グーで。
続いて現れたミニコボルト3匹。俺が2匹と言う前にアリサが2匹相手に戦い始め、1匹をグーで、そして1匹をキックで倒していた。
「今まで気づかなかった俺も悪いが、その短いスカートのままダンジョンとか問題あるぞ、しかもキックとか」
「おパンツ見た?」
「いや見てないし」
「見てもいいのよ?」
「え?」
「え?」
お説教は後にしよう。
それより、ちょっと気になることができてしまった。
このことも後にしたほうがいいかな?
ミニコボルト地帯を抜けた先に現れたのはレッサージャイアントスパイダー。
でっかい蜘蛛であるがこいつは特に毒もなく、糸を吐いたりとかいうスキルもないから正直言って怖くない。
「ファイヤーボルト!」
いきなり火炎魔法かよ。
一撃で消しカスになっている。
「うー、蜘蛛は嫌いなの。グーで殴ったりできないの」
それでも昔のようにコントロールなしで魔力ぶっ放してないから問題なさそうだ。
「それならまぁここは俺が倒していくから俺の後ろからついてくればOK」
アリサ相手に守ってやるって感じでいられるのって、俺が5歳くらいの時以来じゃないかな、なんか嬉しい。
「じゃサクサク倒せるように強化呪文かけておくの」
そういって俺の知らない呪文を唱える。
強化系や弱体系の呪文は周りに誰も教えてくれる人がいなかったから、まったく知らないんだが、アリサは何やら古文書を読み漁っていろんな呪文を覚えてるんだよな。
そしてこの強化呪文のハンパないこと。
確か以前の俺の攻撃では倒すまでに3発かかっていたはずなんだが、一撃でレッサージャイアントスパイダーが倒せてしまった。
しかもなんか余裕のある感じで。
「お兄様、素敵ですの」
褒めてくれてるけど、これ全然俺の力じゃないし。
蜘蛛地帯はそんな感じでサクサク切り進めることができた。
途中2匹以上に遭遇したときに俺が攻撃を受ける機会も数度あったが、そのたびに過保護でかつオーバースペックなヒールが飛んできて全快してたし。
そして到達したフロアボスの部屋の前。
(ダンジョンの各階層には大抵フロアボスがいてその階層の他のモンスターよりあきらかに強いモンスターが配置されている。フロアボスの部屋の先に次階層への階段などがあるのが一般的)
ここまでは適当に進んできたがちょっと打ち合わせをしておこう。
「フロアボスは1体。これまでの敵よりは幾分強め。とはいえ、ここはオーク1匹だから、問題はないと思う。
俺が前衛として突っ込むからアリサは補助と回復中心で行動してくれ。
ところでさっきかけてくれた強化呪文は残りどれくらい効果続くの?」
「残り5分くらいだから、念のため上書きしておくの」
この強化呪文があれば俺1人でもなんとかなりそうだ。
「いくぞ!」
俺が突っ込むと、アリサの詠唱が後方から聞こえる。
攻撃呪文じゃなさそうだがなんだろう。
アリサが詠唱を終えるとキラキラと光った網のようなものがオークを覆った。
「これでしばらく身動きできないはずですの」
こんな呪文もあるんだ。ちょっとオーク相手にやりすぎの気がしないでもない。
まぁせっかくだから、ボコ殴りにして仕留めましたが。
「今日は準備なしに来たダンジョンだから、このあたりで切り上げて引き返すか」
帰りの道のりもあることだから余裕のあるうちに引き返すのが冒険者の鉄則。
「わかったの。では帰還呪文を」
え、そんなチートな呪文もあるの?