1-3 妹アリサ
多くの皆さんに読んでいただき、またブックマークや評価していただいて嬉しい限りです。
(誰も読んでくれなかったらどうしようかと思ってました)
「まぁ積もる話は山ほどありますが、ちょっとお腹がすいちゃったかも?」
とアリサが急に甘えてくるんだから。
「いつも使ってる酒場の食事がそれなりにイケるから、そこに行くぞ」
「はーい」
昔のように俺の左腕を抱えて嬉しそうなアリサと歩き始めた。
「それにしてもよく俺の居場所がわかったな?」
まぁこれくらいのことなら妹にかかればお茶の子さいさいな気もするが、どんな方法を取ったのだろう?
「お兄様の匂いを追ってまっしぐらですの」
「マジ?」
「冗談ですの。お兄様の残した物から追跡呪文を使って居場所を特定しましたの」
「そうだよな、いくらなんでも匂いとかで追跡できないよな」
「さすがに匂いで追跡するのは同じ街の中が限界ですの」
「できるの?」
「できますよ」
「そうなんだ、できるんだ……」
ちょっと人間としての能力超えてないか?
「お兄様、冒険者として今、お仲間の人とかいますの?」
昼食を頬張りながら、アリサが質問してくる。
「今は1人だ。というのは」
アリサに隠し事をしても始まらないし、これまでのことを話そうとすると、
「細かい事情は後でいいですの、だいたいのことは想像がつきますし。それならちょうどいいからお兄様と2人のパーティーでダンジョン行ってみましょ」
割り込んで、いきなり話を始める。
「ダンジョンってアリサと?」
いきなりの話に俺はついていけてない。
「そうですの。お兄様もアリサも一通りのことはこなせるから、ムリしなければ2人でもなんとかなるんじゃないかと思いますの」
いかにも当たり前のことを話すように淡々と。
「いやいや、アリサがなんでダンジョンいくの?」
やはり話についていけてない。
「だって、お兄様冒険者でしょ? ならアリサも冒険者になるに決まってるじゃないですか」
と既に決定事項のように。
もうこうなっては誰もアリサの意見に太刀打ちできるものはいない。
多分、両親も数日かけてあれこれ説得したことは想像に難くない。
アリサの古今東西の知識と言ったらすでに王都の学者たちと並ぶレベルであろうし、その口達者なことと言ったら詐欺師が泣いて許しを乞うレベルだ。
そしてその最終兵器と言うべき可愛らしさで「どうしてもダメ?」と嘘っぽい涙を浮かべでもされたら、もう敵うものはいないだろう。
アリサのことをまだ十分に理解してない父上は数日説得に費やしたようだが、アリサのことを世界で一番理解している俺はそんなムダはしない。
そもそも、アリサとは中等学校での同級生としてすごした。
妹なのに同級生といっても俺が留年した、とかじゃないからな。
幼少の頃からずば抜けて優秀だったこともあり、幼年学校を2年飛び級として俺と一緒に中等学校へ入学。
ちなみに、幼年学校は6歳から6年間。これは領主である父の方針により身分に関係なく住民は無償で通うことができる。
その上の中等学校は、幼年学校卒業後の6年間。授業料が必要なことも有り、貴族や余裕のある商人と一部の富農の子供しかいないのが現状。
なお、その上の高等教育は王都でしか受けることはできない。
話が少しそれたが、アリサは中等学校に俺と同期で入学し、以後6年間ずっと同じクラスですごしている。
妹の実力なら、すぐに飛び級でかつ主席で卒業して王都で高等教育を受けることも可能なんだが、妹いわく、
「お兄様といっしょがいいの」
ってことらしい。
だいたい、全部で3クラスしかないとはいえ、毎年クラス編成が変わるのにずっと同じクラスの確率ってどのくらいあるんだ?
いや、数学で確率は学習したからわからないわけじゃないが計算するのが面倒なだけだよ。
言いたいのは偶然とかあるはずないってこと。
アリサだけにはめちゃくちゃ甘い父のしわざか、アリサ自らがなにかチートなことをやらかしたかはわからないが。
(俺としては後者の可能性が高いと思っている)
家でも学校でも四六時中俺にべったりだった妹だが、その力は恐ろしいレベルに達している。
周りはその学力や運動能力にしか気付いてないが、俺だけはいろいろ知っている。
以前2人で遊びに行った山で、いきなりあらわれた変な虫に驚いた妹が放った攻撃呪文で山が半分吹っ飛んで地形が変わってしまっていた。
「てへっ、びっくりして全力で撃っちゃった」
と可愛らしく舌を出してだけど。
他にも事故で校舎の3Fの窓から落ちて瀕死となった同級生に涙ながらに回復呪文を唱えたら完全回復して、午後の体育の授業を普通に受けてたりとかしたものだ。
「わかった。ダンジョンへ入る前に1つだけ重大な注意を与えておく。心して聞くように」
神妙な顔でアリサに対する。
「わかりました。それはなんですの?」
アリサも神妙に答える。
「決してダンジョンを壊すな!」