2-12 勇者?
「それって……おいおい、それはないって」
いったい何を言い出すことやら。
「お兄様は戦闘中に攻撃魔法撃てますよね」
「あー、ファイアボルトくらいしか撃てないけどな」
「普通の人は武器を使って戦闘してる途中で攻撃魔法とか撃てませんの。
回復魔法の方は割とできるようなんですけど、攻撃魔法は違いますの」
「でもアリサもできるんじゃ?」
「アリサを基準に世間の常識を考えるのは大きな間違いですの」
それはごもっともです。
「アリサも相当練習してできるようになったの。
とはいえ、棍とか杖とかの両手持ちの武器でなんとかって感じなの。
お兄様のように片手に剣、もう片手に盾を持って戦いながら、攻撃魔法を使うとか、アリサから見てもどうやったらそんなことできるのか不可解ですの」
「でも、世間でも魔法戦士っているんじゃ?
結構レア職とはいえギルドの職にもあったくらいだし」
「世間の魔法戦士は補助魔法とか使えるくらいですの。
攻撃魔法を使える人とかいないはずですの」
「そういうものなんだ」
「それと、これはアリサが言っても信憑性は薄いけど、攻撃魔法と回復魔法の両方を使うってのは相当難しいことですの。
2つの魔法体系が大きく異なりすぎて、普通の人ではなかなか扱えませんの。
ですから、賢者はレア職ですの。
それなのにお兄様は、割と昔から普通に両方使えてましたの」
「そういえば、アリサは最初のうち、回復魔法しか使えなかったんだっけ」
「そうですの。後から身につけた攻撃魔法はなかなか制御できずによく暴走してましたの」
「確かに山をふっ飛ばしてたもんなぁ」
「違う体系の魔法を使いこなすってのはそれだけ難しいことですの」
「なんで俺はできたんだろう?」
「それは1つの別の体系の魔法だったからだと思うの。
勇者魔法という」
「勇者魔法なんてのがあるんだ」
「調べてみたけど他にどんな魔法があるかはわからなかったの。
とにかく、そんな感じで前々からそうじゃないかとは思ってたんだけど、確証はなかったの。
でも、世界樹の森ではっきりしたの」
「世界樹の森?……もしかして、あの剣!」
「そうなの。
あの剣を持とうとした時、アリサには重くて持ち上げるのがやっとだったの。
でもお兄様はそんな剣を軽々と持っていたの」
「勇者にしか使えない剣だとか?」
「たぶんそういうことなの。
伝説の勇者シモンの残した剣だから、そう考えると自然なの」
「そして、世界樹の活性化。
あれは、先代の精霊使い、賢者、そして勇者のそれぞれの残されていた力に、私達3人の力を貸すことで発動したの。
お兄様に勇者の力があると信じたからこそやったんだけど、見事に成功したの」
「俺に勇者としての力が……」
「だいたい、お兄様の持ってるその特殊能力は普通の人間には、あまりにも大きすぎるものなの。
まわりの人の成長を著しく促進するなんてのは、勇者の能力であると言われれば納得できるの」
アリサの説明は理解できる。
ただ理解できるということと、それを納得できるということはまた別の問題だ。
劣等感の塊のようなこれまでの自分が、いきなり勇者ですと言われて、それを受け入れるのは難しいものだ。
「ただしばらくは、このことを黙っていようと思うの。
お兄様自身がそれを受け入れるのに時間がかかるかと思いますし、勇者だからと言っても、いきなり魔王の本拠地を探して攻めて行かなければならないってものじゃないと思うの。
魔王の行動が何かはっきりしてからでもいいと思うの」