1-2 回想
「なかなか思うようにはいかないなぁ」
2日酔いで頭は痛いし、今日は別にゆっくり寝てればいいんだけど、長年早起きの習慣がついているだけに、目が覚めてしまう。
貧乏性というかなんというか……俺、貴族だったんだけどな。
紹介が遅れたが俺は、シモン・ロレンス。
辺境の街ガダウェルを治める小貴族を父に持つ次男。
父も昔は冴えない領主だったらしいが、晩成だったようでめきめき頭角をあらわし、ガダウェルの街も大いに発展。
兄ミカエルも優秀で地元の学校を卒業後、現在は王都へ留学している。
ただ、王都の学問は厳しいらしく、なかなか苦労していると聞く。
領主たる父が学問に力を注いだ成果により地元の学校の評価は最高レベル。
卒業生たちの優秀さは国内でも注目の的である。
俺自身は学問はそれほど苦手ではないつもりだったが、どうにも周りのレベルが高すぎる。
何でも俺の学年は、我が校の歴史の中でも際立って優秀だとか。
そんな同級生たちのせいで、俺はついていくのがやっと。
学年の中でもトップを誇る俺のクラスの平均点を1人で下げているという悲しみ以外の何物でない。
そんな学生生活を終え領内に留まっても、立派すぎる兄がいる以上、将来的な展望はない。
ちょっと優秀すぎるこの街を離れて冒険者として身を立てて行こうかと父に話したところ、特に大きな反対もなかったこともあり、妹には内緒で旅立ったわけだ。
故郷の街から旅の馬車で揺られること数日。
初心者向けの手頃なダンジョンの多いこのメルドーラの街の冒険者ギルドに登録し俺は冒険者となった。
最初は1人で地道な冒険者依頼をこなしてるうちに出会えたパーティーは気のいいメンバばかりでとても楽しく冒険できていたのだが、急成長するメンバについていけずに、昨日離脱することになった。
2日酔いで痛い頭をおさえつつ、あてもなく冒険者ギルドへとぼーっと歩いていく途中、いきなり前方から胸へ突進が、
(もしや襲撃!)
「お兄様、見つけましたの」
妹のアリサは俺の胸に飛び込んできたかと思ったらいきなり俺の胸を叩き始める。
「お兄様のバカバカバカバカバカ!」
手加減してくれてるようではあるな。
(っていうか手加減なしにアリサに滅多打ちされたら、俺は今頃死んでいる)
「アリサ、どうしてこんなところにいるんだ?」
(といいつつある程度予測はつくが)俺は尋ねる。
「お兄様を追って家出してきましたの」
アリサは胸を張って答える。
「おい、マジか!」
ギリギリ予測の範囲内の答えではあったが、それを聞いて俺は少しあせる。
(もう少し穏便な方法を予想していたんだが)
「まぁそうしても良かったんですが、数日かけてお父様を説得して出てまいりましたから、ご心配なく」
と、いつものアリサの調子に戻って微笑む。
「説得ねぇ。説得できることじゃないだろうけど、お前のことだから強引に話を進めたんだろうなぁ」
呆れ顔しつつも、予想がドンピシャだったことにやや安心感を。
アリサに本気で説得されたら父上がどれだけ頑張っても勝てるはずがないことを俺は知っている。