2-3 不死の王の伝説
魔王エンボスには俗に四天王と呼ばれる4人の幹部がいた。
邪竜王アイガナス、闇の僧正サギアン、悪夢の女王サミア、そして名も明かされぬ不死の王。
勇者シモンとその仲間たちは、龍の谷で邪竜王アイガナスを討ち取り、魔王エンボスの待ち受ける敵の本拠地である魔王城へ乗り込んだ。
悪夢の女王サミアとの戦いで仲間のテイマーであるルチアが倒れ、闇の僧正サギアンの呪いで聖女ナターシャが帰らぬ人となった。
残る3人は魔王エンボスを追い詰め、ついに滅ぼすことができた。
魔王は滅びたが不死の王は魔王城を逃れた。
不死の王はその名のとおり、不死の存在である。
残る仲間の賢者アリサとエルフの精霊使いユイナの考えにより、とある森に不死の王を誘い込むことに成功した。
その森はかつてエルフたちの集落のあった場所で、世界樹の力を利用して不死の王を封印することにしたのだ。
勇者シモンの剣が不死の王を貫き古代樹に打ち込まれた瞬間、精霊使いユイナの精霊魔法で世界樹が不死の王を飲み込んでいく。
賢者アリサの神聖魔法と古代魔法で不死の王を封印していく。
不死の王の抵抗は凄まじく、3人の力は尽きかけたが、ギリギリのところで封印は成功した。
だが、不死の王の最後の力を浴びた勇者シモンはそのまま立ち上がることはなかった。
☆☆☆
「という、お話なの」
アリサの話が終わったが……
「似たようなおとぎ話を聞いたことがあるけど、実話だったのか。
それにしても、聞いたことのある名前が2人ほど出てきたような気がしたんだけど、気のせいだよな」
「ご先祖様らしいの」
「え?」
「賢者アリサのお腹の中には勇者シモンの子が宿っており、後に男子ミカエルを出産したの。
そのミカエルが後にロレンス家の家祖となったらしいの。
このあたりは前に家の古文書で読んだお話なの」
「そこで兄上の名前が出てくるのか、ミカエル、シモン、アリサの3人の名前にあやかって兄妹の名前がつけられてたのか、結構安直だな」
「家系図見るとよく使われてる名前みたいなの。
ミカエルは他にも3人、シモンは4人、アリサは6人もいたの」
「一族でよくある名前ベスト3なのか」
「関係ない話だけど、エルフのユイナも身籠っていて、後に女の子を産んだらしいの」
「うわ……」
「ちなみに、途中で亡くなったテイマーのルチアも女性だったし、聖女って言うくらいだからナターシャも女性なの。
この2人のお腹の中に赤ちゃんがいたかどうかは伝わってないの」
「……ハーレムかよ」
「羨ましい?」
「いやいや、俺にはそういうのムリだから」
「アリサは構わないの。
何人かのうちの1人でも」
「いやいやいや、しないから。
そしてアリサは妹だから」
「それはさておいて、昔に聞いていたおとぎ話の元になるお話を調べてみたら、こんなことがわかってしまったの」
「これって、その不死の王が蘇ったとかそういうことになるのかなぁ」
「蘇ったというかもともと死んでないはずだから、封印が解けたか緩んだかで、不死の王が活動し始めたかもしれないの」
「もし不死の王がいたとして、アリサはなんとかできる?」
「勇者でも相討ちがやっとで封印したような敵は、とてもムリだと思うの」
「俺達としてはどうするのがいいんだろうな」
「今の情報では誰も動いてくれないと思うの。
現地でもう少しはっきりとした情報をみつけて、あとは国軍とかに動いてもらうしかないと思うの」
「そうだろうな。
じゃ、俺達のできることと言ったらこんなところか?」
1.アーケイン牧場を訪れて依頼のフォレストウルフをなんとかする
2.依頼主にお願いして、アーケイン牧場を拠点とさせてもらって、森を調査する
3.森の状況、できれば不死の王の封印がどうなっているか確認する
4.もし異変があればさっさと引き返してギルドに報告して国に動いてもらうようにする
という感じで行動方針をまとめてみた。
何はさておき準備が必要。
フォレストウルフだけなら、たいした準備もいらないが、不死の王となると……
何を準備したらいいんだ?
「不死の王はアンデッドを使役していたらしいですので、アンデッド対策ですの」
「アンデッドといえば銀武器というのが定番か?
今から用意するとなると大変だな」
「お兄様、ホーリーウェポン使えたりします?」
「あー、使えるぞ」
器用貧乏と言われるが、そういう有用な魔法も心得ている。
「なら銀武器はなくても一手間かかりますが大丈夫かと思いますの。
アリサも使えますが効果時間が短めですので」
「教会に行って聖水をたっぷりもらってこようと思ってますの。
気休め程度ですが、アンデッドには効果ありますし」
「アンデッド対策はアリサにまかせておこう。
俺は森の中の探索用にいろいろ準備しておくよ」
「向こうでの食事や宿泊は用意してくれるって言ってましたけど、何が起こるかわかりませんし、野宿や携帯食も用意しておいたほうがいいと思いますの」
「わかった。
そのあたりも俺の方で準備しておこう」
その日の午後は手分けしての準備で終わってしまった。