1-13 お風呂
「お兄様、セクルナ湖へ行くにあたって注意すべきところとかわかりますか?」
「んー、セクルナ湖はこのあたりの幼年学校の遠足に行ってたから、武器もいらないくらいだと思うぞ」
「お兄様、不思議な情報にくわしいですの」
「以前に遠足の護衛の依頼があってな」
「護衛がいるような危険なところなんですの?」
「いやいや、モンスターとかはまったく出ない観光地で間違いない。
でもこのあたりの幼年学校って俺達の地元と違って無料じゃないからな。
それなりに裕福な家庭の子供たちばかりだから、街を離れるとなるとそれなりに誘拐とか警戒する必要があるわけだ」
「なるほどですの」
「故郷の常識にとらわれていてはいけないってことだな。
ってことだから、俺達が出かける分には何の心配もないわけだ」
「お弁当用意していきますの」
お弁当とは言っても宿屋に炊事施設はないのでパンなどを買っていくしかないのが残念なところ。
アリサの手作りのお弁当とか久しぶりに食べたかった気もするな。
宿屋では今朝までの部屋はあまりにも2人では狭いので部屋を取り直すことにする。
(昨夜の分のアリサの宿泊費は払わなくてもいいんですの?)
耳元でアリサが小声で聞いてくる。
(女の子1人連れ込んでも1晩くらいは大目に見てくれるらしいぞ)
(そういうものなのね)
「2人用の部屋に変えてほしいんだけど空きはある?」
俺から宿の受付に尋ねる。
「ツインとダブルとあるがどちらに?」
受付は俺にだけ聞こえるくらいの声で尋ねてきた。
「ツインで」
ちょっと考えた結果がまぁこちらでしょう。
「ダブルですの」
後ろからアリサの声が低く響いてきた。地獄耳なんだからこいつは。
「ダブルでお願いします」
弱いな俺の立場って。
ツインはシングルベッドが2つの部屋、ダブルはダブルベッドが1つの部屋で、どちらも2人用の部屋です。
ダブルのほうがツインより安いほうが多いようですが、ここでアリサがダブルを主張したのは経済的な理由ではないと思われます。
新しい部屋は昨日までの部屋よりいくぶん広いようだ。
荷物を移し替えて、やっとひと心地ついた。
「このくらいの宿ではお風呂とかはなさそうですが、お兄様はどうしてましたの?」
「受付に言うと、お湯の入ったタライを貸してくれるので、それを使って体を拭く感じだな」
「ふにゅ、そんな感じなんですか、しかたないですの。
ただ、せめて毎日使いたいですの」
「んー、それはいいんだけど……」
俺が体を拭いてる分にはまぁいいんだが、アリサのときに同じ部屋にいるのはどうもいろいろよろしくないような。
「アリサは別に構わないのに……」
アリサは俺が何を言いたいかわかってくれたようだ。
「ではこうするといいですの」
しばらく思案していたアリサはいいことを思いついたようだ。
「最初はお兄様が体を拭くといいの。
その間、アリサは外出してくるの。
その後、アリサが体を拭くから、お兄様は外出してもしなくてもどっちでもいいの」
「俺が先だと、アリサの時、湯が汚れてるし冷めちゃってるぞ」
「お兄様の汚れ……じゅるり」
「……」
「……今のは冗談なの。
タライが残ってれば、アリサは魔法でお湯の方はなんとでもなるの」
そういうことなら、アリサの考えたとおりにさせてもらうか。
「じゃ、タライが来たら、アリサはきっかり1時間外出しているの。
お兄様はその間に、体を拭くだけでなく、いろいろすっきりしておくといいの」
アリサが意味ありげににっこり微笑む。
いろいろ気がまわりすぎるのも困ったものだ。