1-10 オークカツ
「もう片方の試験は午後からってことだから、早めの昼食にするか」
「賛成ですの。腹が減っては戦はできないですの」
「午後2時くらいにまた来ることにするよ」
受付のサマンサにことわって、外出することにした。
冒険者ギルドの隣には、冒険者たち御用達の安くて量のある食堂が店を開いている。
「ここはオススメのメニューとかありますの?」
アリサの質問に頭を捻るが何も思いつかない。
「それほど不味いメニューもないかわりに、あまりおすすめのメニューも思いつかないな。
日替わりがお値打ちだから、いつも俺はそればっかりだった気がするが」
「じゃアリサもそれにしますの」
「ここの食事はめっちゃ量があるけど、アリサは特にダイエットとか問題なし?」
「まだまだ育ち盛りなの。たくさん食べないといろいろと成長しないの」
「うんうん、それがいい。
健康的なアリサが一番だから不要なダイエットとかはやめておきな」
今日の日替わりはオークカツとサラダにスープのようだ。
舌鼓を打つほどの味ではないが、2人とも貴族育ちとはいえ、あまり贅沢にはできていない。
「オークカツって、ダンジョンにいたあのオークのお肉?」
「そういえば昨日のダンジョンのフロアボスがオークだったな」
「お肉が食用になるなら放置せずに持ってくればよかった?」
「あのまま持ってくるのも大変だからな。
解体の技術があれば、あの場で解体できるんだけど」
「アリサ解体できるの。昨日は道具持ってなかったからムリだったけど」
「すごいな。でも見たことあるけど結構グロいぜ」
一昨日までのパーティーでは盗賊のレムスが解体スキルもちだったのを思い出す。
「そんなことくらいで気持ち悪がっていたら、お料理できませんから大丈夫なの。
オークのお肉ってブタさんのお肉みたいなの。
少し硬いけど料理によってはこのほうがよさそうなの」
「オークがブタと種的に近いって話だしな」
「今の宿屋ではムリだけど、キッチンのついた家を拠点にするようになったら、アリサがいろんなお料理を作るの」
「それは楽しみだな」
「冒険者はずっと宿屋が多いんですの?」
「冒険者のタイプによるんじゃないかな。
旅中心の冒険者なら宿屋のほうが効率いいだろうが、どこか拠点を作ってる冒険者もそれなりにいるんじゃないかな」
「お兄様はどう考えてますの?」
「うーん、あまり何も考えてないってのが正直なところ。
でもずっと旅の中ですごすってのも少しさびしい気がするから、どこかに拠点があるのもいいだろうな」
「アリサもそう思いますの」
アリサの食事が急に止まって何か考えてる様子。
「お兄様、今わかりましたの!」
いきなり目を輝かせてアリサが立ち上がる。
「アリサ落ち着け、まだ食事中だ」
とりあえず、アリサを落ち着かせて、話を聞いてみる。
「先程のギルドの受付の方が、お兄様とアリサが兄妹と見破った理由がわかりましたの」
「もしかして、今までわかってなかったのか?」
「大変な謎でしたの。まさかアリサがお兄様に呼びかけたことで関係を見破るなんて思いもよりませんでしたの」
「いやいや、それごく普通のことだから」
「弱りましたの。アリサは恋人同士に見られたいですの。
このままでは兄妹であることが見破られて簡単に見破られてしまいますの」
「呼び方、変えてもいいんだぞ」
「お兄様のことをどんな呼び方するんですの?」
「名前で呼べばいいんじゃないか?
シモンって」
「アリサにできますかしら」
「それほど難しいことじゃないと思うんだが」
「やってみますの」
そう言ったものの、俺のことをチラッと見てまた恥ずかしそうに視線をそらす。
意を決して、声を出そうとしては、またうつむいてしまう。
5分以上そうしていたような気がするが、ついに意を決したようで、とても小さな声で
「シモン」
「なんだいアリサ」
顔を真っ赤にして手で顔を覆ってしまった。
「ちょっとまだアリサにはムリなようですの。
でも修行していつかちゃんと呼べるようになりますので、それまでお待ちくださいませ」
「わかった……
ほどほどに頑張ってくれ」
食事いつになったら終わるだろう。