伍拾壱
入場門を基準に各学年の各クラスで、名前の順に並ぶ。なぜ名前の順なのかは僕には分からないが、一応定められたルールなので従うことにした。入場門の近いところから一年生、二年生、三年生へと順に並んでいく。全員並び終えたのか、この日を告げる言葉が流れた。
「それでは第68回体育大会を行います。生徒入場!」
いよいよ体育祭の開幕。パンとピストルの音が鳴り、吹奏楽部が盛り上がる演奏を始める。放送から音楽が流れ出すと同時に選手入場の合図が放送席から流れる。最初に学校の旗を持った今年の生徒会長が行進する。女の子なのに重い旗を持っていながらも歩く行進はとても優雅だ。次に、国旗と校旗を持った生徒会の人たちが入場した。
「しかし、よく旗とか持ったまま行進できるな。」
「確かに。相当練習したんだろうね。」
「俺、行進だけの練習ばっかってやだな。」
「池澤なら途中からサボりそう。」
「おい、いまさらっと悪口を言ったな?」
池澤が何か言っていたがなんて言ったか聞かないでおこう。次に一年生の生徒たちが一組、二組と順番に入る。そして、自分のクラスになり、僕は周りが行進を始めたので僕もその場で足踏みをする。そして、入場門からでてくる。誰かが僕の名前を言ったような気がしたが気のせいだろう。グラウンドを一周し、自分たちの場所に入る。二年生と三年生が入場するまでこの場で足踏みをする。しかし、これはいつまでやるのやら……。しばらくして、朝礼台に立つ先生が笛を吹いた。この時、練習では前に進んでこいという合図だったはず。その笛を聞いて僕を含めた全校生徒は前へと歩く。ある程度歩き、その場に止まり、行進を続ける。
「全体ー、止まれ!」
その合図で全校生徒は止まる。朝礼台に立っていた先生は朝礼台から降りた。
「まずは、開会宣言です。」
……と、開会式が始まった。実はこの開会式、練習でも思ったんだが1分が1時間あるいはそれ以上と、とても長く感じる。みんなも運動会とかで経験したことあるだろうか。それが今、僕が味わっている感覚だ。開会式が終わると次のプログラム、ラジオ体操が待っているというのに。
「早く終わってくれないかな……。」
憂鬱になり、早く終わって欲しいと願う僕だった。
そんな長い時間がようやく終わり、プログラム3番、男子の大和リレーいわゆる男子の100mリレーが行われようとしていた。このリレーは全学年統一であり、学年が低いところから始めていく。
「ちょっと、トイレ行ってくる。」
「おう、いってら。」
僕は席を立ち上がり、トイレに向かう。場所はプールのトイレだ。靴で上がっているのか下は土まみれでとても汚い。
「うぇ……。」
汚いと思いながらも、するしかない。終わるとボタンを押して流す。手を洗い外に出ようとすると、あのグループに遭遇した。そう、あの殴ったグループメンバーだ。黙りながら見過ごそうとすると、2人に肩を掴まれた。
「待てよ。」
「………不幸だ。」
どこぞのアニメの主人公のキャラを真似ていることはこの時はまだ知らなかった。
「なんか言ったか!テメェ!」
「何も言ってませんよ……ってか、何かようですか?」
先日殴ったことを謝るのか……?
「お前なその態度いい加減、直した方がいいぞ。」
訂正。そんなことなかった。むしろ反省の色がない。先程より、悪化してる。態度を直したほうがいいぞ?と言われる意味がわからない。
「りょーかーい。」
右から左へ流すように僕は返事をした。
「じゃ、俺らトイレに行くからどけ。」
「はいはい。」
僕は道を通すようによけた。2人はそのままトイレに入るが、残りの2人は僕を見たまま動かない。
「なに?何もないなら席に戻りたいんだけど。」
「……その。」
「ん?」
「殴って……悪かった。」
「俺も、あの時はその……ごめんなさい。」
意外な言葉に僕は驚く。あの2人は謝らなかったのに……。ちなみにこの2人はのちにあの事件と関わるがこの時の僕はまだ知らない。
「……許す許さないは関係ないとして、僕は別にあの件で怒ってはないから。」
僕は心の中では許さなかった。殴ったことに関しては怒ってるし、悪口も言われた。でも、悪口は僕もやった。それはお互い様。だから、許すも許さないのも僕は分からない。僕自身判断はできない。だから、言葉を僕なりに濁した。国語はそんなに得意ではないから。そう言いって僕は自席に戻った。
男子100mリレーの結果は惜しくも二位という結果に終わった。ホント、最後は不幸なことにアンカーがゴールの直前でこけたから仕方ない。どんまい、どんまい。さて、次のリレーは女子の100mリレーか。この競技は見ても自分の中ではそんなにおもしろくなかったので省略させてもらう。先に言ってしまうが結果は4位であった。それから、いよいよ200mリレーが始まろうとしていた。僕の出番はまだまだだ。はぁ、てか、リレー多すぎるよ……。
「山城君。」
「おい、隆也。唐木が呼んでるぞ?」
「え?あっ……ホントだ。なんだろう?」
「隆也って委員会入ってたっけ。」
「確か放送……あっ!」
僕は放送用紙を持って、急いで唐木の所に行った。それを見たクラスメイトは「彼女?」とか、「誰あの人?」とか言っていたそうだ。
「あいつら……付き合ってるのか?」
池澤はただ1人疑問に思う一方、俺たちは放送席にへと急いでいた。
「もう、山城君!忘れないでよ!」
「ごめん、ごめん。」
話すのを忘れていたが僕は放送委員会に入っていた。放送委員は放送関係の仕事をする。例えば朝の放送では、各学年の連絡を読み上げるとか、昼の放送では昼休みに音楽を流すとか主にそんな仕事。そして、唐木と同じなのは全くの偶然。いや、本当に。これも。多分、こんな偶然を可能にすることができるのはこの物語を書いているなんとか神の力しか考えられない。まぁ、そんな神なんてこの世界にはいないんだけど。話を戻すと、どうやら唐木も放送委員会に入っていったみたいだ。夏休みの後の定例委員会の時に見知った。それから互いに委員会の情報は交換し合っていた。
「迎えに行くって言ってたじゃん。」
「そうだったそうだった。ごめんね。」
「今回は許す。」
どうやら彼女は許してくれるようだ。良かった。
「次のプログラム、男女混合リレー担当の山城と…」
「唐木です。」
「はい、それじゃここで待機しててね。」
椅子が2つしかない。まぁ、別に友達だから隣同士でもいいか。
「よいしょっと。」
いつも使ってる教室の椅子なのであまり座り心地は良くない。もっと、座るところをふかふかにしてくれないか教育委員会に提案したい。でも、僕の地位じゃ無理だけど。
「ほれ、隣。」
「う、うん。」
僕の隣に座った唐木。僕は座ったのを確認した後、男子200mリレーを見た。何、僕のクラスは最下位だと!?頑張れ!諦めるな!
「私たちのクラスが一位だね。これは勝ったね。」
「なんで分かるんだよ。」
「だって、出てる人陸上部だもん。」
「うわ……ここでチート使いやがって。」
「なに?チートって。」
「えーと、反則級のなんていうんだろう……。」
この時は分からなかったが、調べてると英語で『ズル』や『騙す』を意味する『cheat』から『チート』という言葉が来ており、意味は英語の意味と同じだそうだ。この説明を必死にしようとしているとリレー見ない間に終わっていた。
「終わったよ。結果、私のクラス一位ー。」
「まぁ、勝って当然だね。」
「もうちょっと悔しがってよ。」
「あいにく、チート使ってるやつに負けても意味ないんですー。」
「意味わかんないよ。」
男200mリレーが終わり、次の男女混合リレーへと移った。僕らも仕事なので前に席を移し、アナウンスの準備をする。僕はプログラムのアナウンスと入退場、唐木は競技中の実況と結果を担当するそうだ。
『プログラム6番。男女混合スクラムリレーです。この競技はー……選手入場!』
プログラムの内容を説明するはずなのだが、あの時何を行っていたのか忘れてしまった。
「緊張したの?」
「し、してるものか。」
「本当に?」
「本当だよ。」
唐木がそのあとからかってきたのは記憶にしっかりと焼きついていた。