卌参
季節は夏になり、気温が高く、暑くなっていった。制服も半袖から長袖へと衣替えをし、僕が来ている制服は上が半袖シャツで、下は生地の薄い長ズボンを履いている。いつも通り、朝早く登校した僕は職員室に真っ先に向かった。教室の鍵を取ったあと、自教室に向かった。すると、ドアの前で待ってる人の姿があった。
「遅いぞー。隆也。」
池澤だった。彼も僕と同じ夏用制服を着ていた。彼とは入学式の翌日からだんだんと仲良くなって、今では下の名前で呼び合うほどの親友となっていた。彼は五月程から朝早くに学校に登校するようになっていた。
「いつも朝早く来てるんだからたまには鍵取って来てよ。」
「いやいや俺は計算してこの時間に来ているから。この時間に来たら隆也が必ず鍵を取りに行ってるという俺氏、凄い計算。」
「そんな悪知恵を考えるんだったら勉強しろよ。」
「うぐっ……そんなこと言うなよ。」
池澤は中間テストで悪い点数を次々と出していた。テスト返されるたび先生に怒られたんだっけ。
「とりあえず、勉強見てやるから早く教室に入ろうぜ。」
僕たちは教室に入った。入るとものすごい熱気が襲った。まるで、蒸し焼きされている気分だ。蒸されているような気分を改善させようと二人で教室の窓を全部開けた。その直後、熱気は一瞬にして消え去り、朝の冷たい風が肌を直撃する。
「あー、涼しいなー。」
「朝はね。さて、社会をやろうな。」
「社会?こんな朝っぱらからよく暗記モノやるな。」
「朝のうちに暗記した方が残りやすいんだ。他の人は知らないけど。」
僕は社会の教科書『地理』を取り出した。アジア州のページを開き、ノートに教科書に載ってることを書き写す。それを見た池澤は嫌な顔で教科書を見ていた。
「山脈などの地形が覚えるの難しいんだよなー。見ただけで吐き気がする。」
「そうでもないよ?」
「なんで?」
「龍星って『イッテQ』という番組、知ってる?」
「知らない。」
「まぁ、ざっくり言えば世界の国々でいろんなことやるっていう番組。」
「いろんなこと?」
「世界の不思議な動物をリポートしたり、世界にある色々なお祭りをやったり。」
「へぇー。で、なんでその番組と地形を覚えるのにどんな接点があるんだ?」
「『◯◯山地』とか『◯◯砂漠』とかテレビで言ってるんだ。僕はそれで地形とか山脈とか覚えてるんだ。」
「ふーん。俺もその番組見れば覚えれるのかな。」
「多分、いけると思うよ?」
「じゃ、帰ったらYouTubeで見てみる。」
「うん。」
話は途切れ、僕は勉強を、龍星はカバーで隠れていたのでタイトルは分からないが本を読んで朝の時間を過ごした。
あっという間に授業が終わり、放課後になっていた。クラスの大半は自分たちの部活に向かったり、そのまま帰ったりしていた。
「じゃ、俺も部活だから。」
「おう、じゃーな。」
「アデュー!」
大人気 youtuberのフィッシャーズの挨拶を使うのはやめなさい。本家からほんとうの意味でお怒りがくるよ。そう言って、龍星は部活へと向かった。ちなみに龍星が入った部活はサッカー部。なんというかモテ要素がとても高い部活に入ったものだ。まぁ実質、龍星はイケメンだしね。一方、僕はというと日誌を書いていた。日誌を休み時間に書いていなくて放課後に気づいて急いで書いていた。くそっ、ちゃんと書いとけば早く帰れるのに!!
「何してるの?」
「日誌を書いてる。」
「早く書いてね〜。戸締りしないといけないから。」
「いや、いいよ。僕が戸締りしておくよ。」
「そう?なら、ありがとう。鍵ここに置いておくね。」
「うん。ありがとう。」
話していたのはクラスメイトだ。性別は女の子で髪型がショートで少し地味目な所が特徴だ。彼女の名前は確か伊藤だったかな。下の名前はあまり覚えていない。
「今日のことを書いて....。」
日誌に今日の日付や天気、授業の内容など色々書き込む。十分後、ようやく書き終えた僕は急ぎ足で日誌を持って職員室に向かう。日誌を担任に渡し、自分の教室へ戻った。カバンを持った時にふと思った。
「何故、僕は二度手間になるようなことをしてしまったのだろう。」
僕は鍵を閉めて教室を出た。職員室に鍵を返し、家に帰ろうと下駄箱に向かって廊下を歩く。すると、前方から重たそうに提出物を抱えている女子生徒を見かけた。ふらふらと千鳥足になりながらもどこかに向かっているようだ。僕はその光景を見て頭を掻きながらほっとけないと、女子生徒に声をかけた。
「おーい。」
「わ…私に何か用ですか?」
「それ。半分、持つから。」
「あっ……。ありがとうございます。」
「どこに運べばいい?」
「職員室で……。」
「分かった。」
彼女が持っていたものより半分少しを持ち、さっきまでお邪魔してた職員室にまた戻った。彼女が提出物を提出する担当の先生に二人で渡して職員室をでる。窓の外を見るともう、辺りは橙色の空に包まれていた。長い時間いたのだなとしみじみ思う。僕は彼女から離れるように鞄を肩にかけ直し下駄箱に向かう。
「あのっ。」
「あー、礼は要らないよ。ただ、ほっとけなかったから助けただけ。」
僕は後ろ向きながら手を出して女の子と別れた。そのあとは何もイベントがなく、川のように時は流れ、六月末にあった期末テストを無事終了し、いよいよ中学生最初の夏休みへと突入した。この夏休みに俺はある女の子と出会うことになるとは僕は思いもよらなかった。